「海外ラグジュアリーに頼る」傾向は今後も変わらないだろうという話
2023年12月25日 産地 0
当方も含めて人間の意見はいつまでも同じとは限らない。年齢を経るに従って変わることも多々ある。
また、組織のトップに立っても何もかも好き勝手にできるわけではないことも重々承知している。
さらに言えば、マスコミに掲載されるインタビュー記事というのは短ければ短いほど発言が切り取られている可能性が高いこともよく知っている。
以上の3点を大前提として踏まえた上でも、それでもメディアに掲載されるファッション業界の現在の重鎮(とされている人たち)の発言には違和感を感じてしまう。
例えばこの記事。
《めてみみ》日本の技術が買われてしまう | 繊研新聞 (senken.co.jp)
「日本の優れた技術が海外企業に買収されてしまう。特に織り・編みなど生地を作る工場が欧州のラグジュアリーブランドから狙われている」。そう指摘したのはユナイテッドアローズ上級顧問の栗野宏文氏だ。この発言は先日、「第9回アパレルものづくりサミット」でコーディネーターを務めた際に出たもの。
とある。
発言内容は正しいが、現在の状況を作った一端がある人が何を他人事のように言っているのだろうと感じる。
この発言は恐らく、
LVMHメティエダール デニムのクロキとパートナーシップ締結 | 繊研新聞 (senken.co.jp)
LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン・ジャパンは、優れた職人技の継承と発展を目的とするLVMHメティエダールと、デニム製造のクロキ(岡山県井原市)のパートナーシップ締結を発表した。この取り組みは22年12月に日本の活動拠点としてLVMHメティエダール・ジャパンを設立して以来、日本初のパートナーシップとなる。これを皮切りに日本での提携を活性化させる。
LVMHメティエダール 西陣織の細尾とパートナーシップを締結 | 繊研新聞 (senken.co.jp)
LVMHモエヘネシー・ルイ・ヴィトン・ジャパンは、優れた職人技の継承と発展を目的とするLVMHメティエダールが、西陣織の細尾(京都)とパートナーシップを締結したと発表した。
この2点の報道を受けてのものだと推測される。いずれも2023年に発表されている。
契約内容(金額その他)の詳細は不明だが、LVMHとこの2社が緊密に物作りに取り組むだろうということは明白である。「契約工場」や「協力工場」ではなくパートナーシップだからだ。
しかし、すべての国内の製造加工工場ではないにせよ、一部が世界的に高い評価を受けていたことは2023年に始まったことではない。昔からとそうだったという話もあるが、特に2000年代半ば以降は如実にそうした事例が増えていた。遅くとも10年くらい前にはここで挙げられた2社は世界的に評価を受けていた。
となると、LVMHよりも先にユナイテッドアローズがパートナー契約しておけばよかったのではないか。
発言者は現在は一線を退かれているが、10年前・15年前は経営陣の一翼を担っておられたのだから、なぜその時にそう主張をしなかったのか。もっとあけすけな言い方をすると「何を今更」と感じられてならない。ネットスラングで言うと「おまいう」だろう。
また、小売業でも同様だ。
例えばこの記事。
「日本の小売業はあまりにも海外のラグジュアリーに頼り過ぎじゃないか」。
記者会見に登壇した羽田未来総合研究所の大西洋社長は、日本の小売り・ファッション業界の現状への危機感をあらわにした。
とあるのだが、まずこの記事の見出しの付け方は全くダメだと思う。
大西氏は「日本は海外ラグジュアリーに頼りすぎ」とは言っていない。あくまでも「日本の小売業は」と言っているにすぎず、見出しには文字数の制限もあるだろうが、こういう改変はいただけない。「日本」と「日本の小売業」ではあまりにも主語の大きさが違いすぎる。
で、「日本の小売業は海外ラグジュアリーに頼り過ぎている」というのは、特に百貨店や同等価格帯店はその通りだと思う。
ただ、この大西氏はご存知のようにかつては三越伊勢丹HDの社長に就いていた。百貨店が海外ラグジュアリーに頼り過ぎな状態を何一つ是正していない。もちろん、冒頭に述べたようにトップが何もかも好き勝手できるわけではないことも重々承知しているし、好き勝手できないからこそ電撃解任されているわけである。それにしても具体的に是正しようとしたとは見聞きしたことがないし、ご本人の口から聞いたこともない。
以前にも書いたが、当方はお蔵入りしたある仕事の準備として大西氏に直接インタビューしたことが6~7回くらいあったが、一度も「海外ラグジュアリーに頼り過ぎ」という言葉を聞いたことがない。
それどころか
2016年のこの件に関して「当社が初導入できなかったことが悔やまれる」(当時)というコメントを直接お聞きしている。
海外ラグジュアリーの導入に積極的だったのはかつてのご自分も同じだろう。
そうは言っても、今回空港にオープンしたJMC羽田空港店では
日本の約30エリアからセレクトした約400点取り扱い商品のうち、6割程度を占めるのがアパレル、雑貨などのファッション関連だ。目玉の“ジャパンラグジュアリー”のゾーンでは、「カンサイ ヤマモト」が姫路でなめしたレザーに金沢の職人が金箔を手作業でデザインした「オニツカタイガー」の別注スニーカー(想定価格12万〜13万円)を販売。岡山デニムを使用したオリジナルブランド「ムニ(MUNI)」の商品も並べる。
とあり、国内の高価格ブランドを多数導入しておられる(売れるかどうかはわからないが)から、電撃解任後から今に至るまでの月日を経て意見を大きく変えられた可能性は高いのではないかと思う。現在の言動は一致しておられ、それはまことに素晴らしいことだと思う。
そうは言ってもお二方とも今年のLVMHの発表があったからこそ危機感をより一層に強められたのではないかと考えられるので、やはり根本的には方針を定めるにも海外ラグジュアリーに頼っておられるわけである。
当方は海外ラグジュアリーに興味が全く無いからそのあたりの心情は全く理解できないが、業界の重鎮(とされている人たち)の根っこの価値観が変わらない限りは、海外ラグジュアリーの後追いに終始することは今後も長く変わらないだろうと思う。