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南充浩 オフィシャルブログ

そのブランドの「パリコレ参加」「ミラコレ参加」は自称しているだけかもよ(笑)

2023年11月29日 デザイナー 3

こんなことはみんな知っているんじゃないかと思うことが意外と知られていないことがある。

逆に、みんなが知っていることを当方が知らないということも多々あるのだが。

 

業界メディアやデザイナーズブランドの紹介文などで昔から「〇〇年パリコレクションに参加」とか「〇〇年ミラノコレクション参加」などと報道されたり、書かれていたりすることが珍しくない。

当方は一度もパリコレ、ミラノコレを現地に行って取材したことがないが、一応、公式の発表などを見るとそんなにたくさんの日本ブランドが出展していないことはすぐにわかる。

毎回の公式参加ブランドに比べて参加経歴のある日本ブランドが明らかに多いのである。

 

97年に業界紙記者として入社してから、国内のデザイナーズブランドにも取材をすることがままあった。もちろん、大物デザイナーにはおいそれとは会えないし、その手のイベントにも招待されていないから、当方が会えていたのは駆け出しとか中堅になりかけとかそういうデザイナーばかりだった。

そういう彼らも3年とか5年経過すると、ステップアップを果たす人も多くなり、そのうちに「今春のパリコレ参加」とか「今秋のミラノコレに参加」などという報道や発表が出ることもあった。

30歳前後だった当方は素直に「すごいな~」と感心していたわけだが、次に会う機会にそのことを尋ねてみると彼らからはそろって「期間中に近所の会場を借りてファッションショーを開催しただけ」という応えが返ってきた。

???となりながら、もう少し詳しい人に尋ねてみると、「パリコレ、ミラノコレは公式に発表されているブランドしか参加していない。ただ、期間中にわざと非公式に自前でショーを開催するブランドは数多くある。彼らもそういうブランドの1つ」と教えていただいた。

「パリコレ参加経歴」「ミラノコレ参加経歴」なんていうのは何割かがそういう非公式に開催したものだということを理解し、それが業界の常識なのだということも知った。

ちょうど今から20年くらい前の話である。

当方が20年前から知っていることだし、当方に説明してくれた先輩記者やベテランデザイナーも多々おられたことから、それは業界の常識であり、何なら一般世間の常識だと考えるようになっていた。(これが冒頭の一文につながる)

だから、それ以降、「パリコレ参加経歴あり」「ミラノコレ参加経歴あり」を自称している新進デザイナーズブランドを見るたびに、大して驚きもしなかったし特別視もしなかった。非公式参加である可能性が極めて高いからである。非公式にファッションショーを開催するのは、カネさえ払えば何とでもできる。

 

そんな中、中野香織さんのツイートを見かけて驚いた。中野香織さんとは面識は全く無いがファッション関連の学者?として経歴の長い方であることだけは存じている。そんな人でも知らなかったということに驚いたわけである。

だから意外と業界の人でも知らないのかもしれないと思った。

 

元記事となったのは朝日新聞の記事である。朝日新聞は政治思想と経済以外は良い記事も多い。

ミラノ、パリの「コレクション」と呼ぶのは日本だけ? 誤解の一因に [ファッション]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

つまり、このショーは、「ミラノ・ファッションウィーク(日本のメディア表記ではミラノ・コレクション)期間中に、ミラノで開催された、公式とは別のファッションショー」だったのだ。

 

とある。このあと、有料部分に延々と(余談だが最近この「延々と」を「永遠と」と書いたり話したりする輩が多くてうんざりする)説明されているので興味のある方はご一読いただきたい。

「ファッションウィーク」という正式名称を用いずに「コレクション」と表記する日本のメディアの習慣がこういう嘘パリコレ、嘘ミラコレを大量生産する原因の一つだとされているのだが、当方はそこまでの一因とも思えない。恐らく「ファッションウィーク」という正式名称で報道しても嘘をつく人はつく。人間なんてそんな物である。

なぜなら、ファッションウィーク期間中に近所のホールを借りて非公式自前ショーを開催しても「ファッションウィーク参加」と表記しようと思えばなんぼでもできる。

 

今回、朝日新聞が良記事を報道したのだが、実は当方の知っている範囲では20年前からあるし、もしかするともっと昔からあったのかもしれない。

これは優良誤認を誘う他分野の販売手法と同じで、「消防署の方から来ました」と言って怪しげな消火器を売りつける業者や、「関西電力の方から来ました」と言って怪しげな電気メーターを設置しようとする業者と同じである。

 

当方の知る限りにおいて20年前からパリコレ嘘参加、ミラコレ嘘参加のPRが横行している理由は、日本の衣料品バイヤーやデザイナー、メディアが極めて欧米に弱く極度の舶来コンプレックスを抱えているからだろう。

「パリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨークで〇〇しました」といえば、「箔」がついてビジネスが上手く行きやすくなる。売上高が稼げないまでもメディアに採りあげられることで知名度が高くなる可能性がある。

それを狙ってのことで、その手法が20年かけて国内業界で標準化されたことによって、自称パリコレ参加、自称ミラコレ参加ブランドが異様に増加してしまい、先の中野氏が感じた疑問につながることになる。

これをただすには朝日新聞の記事が提唱しているように、各メディア(もちろん業界紙も含む)が「コレクション参加」ではなく「ファッションウィーク公式スケジュールに参加」と表記を改めるべきだろう。全メディアの奮起と自浄に期待したい。(棒)

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2023/11/29(水) 11:48 AM

    おぉ~、これは私がYouTubeでちょろっと見てたりする「勝っちゃうスーツ」作ってるオバハンのことですなw
    「うちは1mm単位で採寸してるから身体にあったスーツが作れる~」みたいな素人騙しの話をYouTubeでしていて胡散臭いオバハンやな、と思ってましたが(縫製で1mmとか簡単にズレるから意味無いとか視聴者にコメントされていたw)、バリコレに出るとか聞いてやっぱ凄いの?と勘違いしてました。こういうことなんですね~。
    軽くググったら、「パリコレ出ませんか?」なんて勧誘すらあるそうですね。(もちろん公式からではないw)
    上記のオバハンもテーラーと言っても自前でスーツ作ってるわけじゃなく、単にファ◯ブワンに丸投げしてるだけのようで、ホント口が上手くて見た目が良い人はボロ儲けできるんだなぁと思いました。

  • 大阪のオバチャン より: 2023/11/29(水) 1:53 PM

    >とおりすがりのオジサマ

    勝つスーツのオバチャン…
    どんな方があのお店でオーダーするのか、以前から不思議に思っていました。
    私はスーツは着ないですが、テーラーの友人から聞く話はとても好きで、各お店によって作り方も違いますし、うんちくを聞くのも楽しいです。
    テーラーの方は、もちろん自分一から全部出来ますしね。
    勝つスーツのオバチャンのスーツは、私には本物のビスポークには感じられません。
    それと同様に、パリコレ参加も本物ではありませんね…

  • とおりすがりのオッサン より: 2023/11/29(水) 4:54 PM

    >大阪のオバさま

    あそこ、「ビスポーク」「フルオーダー」なんて宣伝してますが、実際には単なるパターンオーダー、イージーオーダー(型紙が決まっていて、お客に合わせて補正だけするやつ)だそうです。型紙自体もお店専用のがあるのか怪しい感じで、全部ファ◯ブワンの工場に丸投げなんじゃないかともw
    やたら派手なスーツとか、ピチピチのスーツとかも作ってて、ご本人の胡散臭さは満点ですね。
    でも、NHK党の立花孝志に作ったスリーピースはちゃんとしてたかも?
    パリコレは凄いなぁとか思っちゃってましたが、こういうことだとは知りませんでした。
    いずれにしても、口のうまいオバハン以上の方ではないようで・・・(^_^;)

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