熱い思い「だけ」を語るのはディレクションではない
2014年11月20日 未分類 0
SNS上で幾人かから流れてきた「デザイナーあるある」の漫画が秀逸だ。
ファッション業界でも深く肯くデザイナーも多いのではないか。
とくにこのエントリーが素晴らしい。
http://www.aruaru.unsung.jp/2014/07/13/188/
「デザイナー探しの旅」
あらすじをまとめるとこうなる。
とある経営者飲み会にて、経営者が
「いいデザイナーがいないんだよね。ビビッと表現してくれるデザインが欲しいんだけどね~」
↓
主人公のディレクター
「どうやってデザイナーに依頼してるんです?」
↓
経営者
「俺の熱い思いを説明しているんだよ」
↓
主人公
「ディレクターはいるんですか?」
↓
経営者
「もちろん俺」
↓
主人公
「具体的なイメージはあるんですか?」
↓
経営者
「 それを考えるのがデザイナーでしょ? 」
そして絶句。
という展開である。
まあ、この繊維・衣料品業界でもこういう謎な会話は多い。
最近では産地企業が自社でオリジナル製品の開発に乗り出すことが増えた。
一部は成功しつつあるものの、大半は製品化すらできずに終わる。
中には単に助成金を費やしたのみで何のノウハウも蓄積できずに終わる場合もある。
要因はさまざまあろうが、その一つには上のような経営者の考え方がある。
はっきりいうと、上のような考え方をする経営者では百万年かけても良いデザインの製品なんてできない。
なぜなら、
1、ディレクションとしての体をなしていない
2、自称ディレクター(経営者)の脳内に製品やデザインの具体的イメージがない
この二つの理由でデザインは永遠に完成しない。
デザイナーが自分で自分をディレクションする場合は往々にしてある。
しかし、それができるデザイナーは能力として優れており、当然、ギャランティーも高額になる。
一人二役を兼ねているのだから当たり前である。
繊維製造業に限らず、世の中の製造業者はデザイナーに高いギャランティーを払いたがらない。
そこに価値を見出していないからである。
勢い、低価格のデザイナーに依頼することになる。低価格のデザイナーはデザイン作業のみを請け負う。
ディレクションがなくてデザイナーに丸投げするとどうなるか、それはデザイナー個人の感性でデザインを完成させる。
製造業経営者はきっとこういうだろう。
「俺の熱い思いを長時間説明したじゃないか(ビールを呑みながら)」
と。
しかし、「熱い思い」なんて何時間語られたってデザインの具体化にはほとんど役に立たない。
それはディレクションではなく、コンセプト作りという作業である。
筆者が業務として経験したことのある雑誌ページの編集作業を例にとってみようか。
「黒を背景にして、バッグを手前に大写しにして、その奥に、置き撮りしたジーンズの切り抜きを4本横に並べてみよう」
と指示しても、誌面デザイナーにはまったく具体的イメージがわかない。
バッグってどんなバッグ?
大写しってどれくらいの大きさ?
ジーンズを横に4本並べるって、その大きさは?並べる間隔は?
黒の背景は分かったけど、それ以外の部分の色は?
これらのことが一切不明である。
こんなことを何時間しゃべったところで時間の無駄である。
それよりも手描きのラフスケッチを渡した方が早い。
さらにイメージを具体化させるなら、自分が理想とするイメージに近い雑誌のページを見せた方が確実である。
衣料品や繊維製品に置き換えると、
手描きのラフスケッチと、理想とする他社製品のサンプルを見せた方が早くて確実である。
デザイナーはテレパシー能力者ではないから、製造業経営者が自分の脳裏に描いている理想的デザインなんてものを直接受信はできない。
それは製造業経営者が自分で具体像をある程度示して見せる必要がある。
それがディレクターの仕事であり、熱い思い「だけ」を語るのはディレクターの仕事ではない。
まあ、そんなわけで今日も繊維業界は平常運転である。