グンゼとワコールの相違点を考えてみた
2023年11月16日 企業研究 2
繊維ニュースに以下のようなまとめ記事が掲載されていたのでご紹介したい。
大手インナー・レッグウエアメーカー 4~9月期明暗分かれる | THE SEN-I-NEWS 日刊繊維総合紙 繊維ニュース
大手インナー・レッグウエアメーカーの2023年4~9月期連結業績は明暗が分かれる形になった。グンゼが営業増益を確保し、アツギも赤字幅が縮小した一方で、最大手のワコールホールディングス(HD)やMRKホールディングスの苦戦が目立った。
とのことで、ワコールの大幅赤字はこのブログでも取り上げたので同じように見ている記者がいるのだなと感じた。ちなみにいMRKホールディングスというのは、補正下着ブランド「マルコ」を展開している企業である。
ここではグンゼの営業増益が取り上げられているが、毎回、年二回の決算発表会には当方も参加させてもらっている。ありがたいことである。
グンゼの24年3月期第2四半期連結(23年4月~9月)決算は
売上高 651億5300万円(前年同月比3・3%減)
営業利益 32億3000万円(同15・1%増)
経常利益 32億8000万円(同6・3%増)
当期利益 26億5700万円(同20・4%増)
と減収ながらも大幅増益となった。
一方、ワコールHDの24年3月期第2四半期連結は
売上収益 961億3000万円(対前年同期比2・4%減)
営業損失 33億8400万円
四半期損失 43億9600万円
となっている。
通期の売上高見通しはワコールHDが1960億円、グンゼが1400億円となっており、ワコールの方が560億円多いが、どちらも1000億円台ということでは「ある程度近しい企業規模」と言っても間違いではないだろうと思っている。
一般的にはどちらも肌着大手メーカーという認識だろうが、相違点はかなりある。
今回はその相違点を考えてみたい。グンゼの大幅増益はその相違点の中に理由があるからだ。
箇条書きに羅列してみる。
〇ワコールの販路は百貨店、量販店(wingブランドとして)があるが、グンゼも百貨店、量販店だが、百貨店比率はワコールの方が大きくグンゼはそれほど大きくない。グンゼは圧倒的に量販店が大きい。
〇次に、ワコールはレディース肌着が主力商材だが、グンゼはレディース肌着と同等くらいにメンズ肌着もある。あと靴下類も大きい。
〇また、ワコールはレディース肌着の中ではブラジャーが有名商品の1つだが、グンゼはブラジャーもあるが、それほど大きくなくいわゆる肌着類(ババシャツなど)の比率が高い。
という相違点があるが、最も異なるのが事業構造である。
ワコールは、マネキンの「七彩」以外は肌着事業しかほぼない。一方、グンゼはアパレル以外の異業種の売上高構成比が高い。
今回のグンゼの大幅増益は、異業種の堅調によるところが大きい。
グンゼには大きくわけて4つの事業がある。
1、肌着・靴下・一部パジャマのアパレル事業
2、プラスティックフィルムなどの機能ソリューション事業
3、メディカル製品事業
4、スポーツジムなどのライフクリエイト事業
である。
この4事業の今中間連結の売上高を見てみると、
アパレル事業 売上高293億7300万円
機能ソリューション事業 売上高242億5100万円
メディカル事業 売上高54億9200万円
ライフクリエイト事業 売上高64億2800万円
となっていて、アパレル事業が最も大きい売上高だが、機能ソリューション事業もそれとほぼ同額となっている。
売上高構成比でいうと、アパレル事業が45%、機能ソリューションが37%である。
売上高だけでいうとグンゼの最大事業はいまだにアパレルだが、営業利益となると全く異なる。それでは4事業部の営業利益を見てみよう。
アパレル事業 営業利益7億7500万円
機能ソリューション事業 営業利益29億3700万円
メディカル事業 営業利益9億700万円
ライフクリエイト 営業利益2億9700万円
となっていて、機能ソリューション事業の営業利益が圧倒的であり、アパレルの営業利益は売上高が6分の1程度しかないメディカル事業よりも少ない。
営業利益額の構成比でいうと、
機能ソリューション事業 60%
メディカル事業 18%
アパレル事業 16%
ライフクリエイト事業 6%
となっていて、今中間期の大幅増益のほとんどが機能ソリューション事業によってもたらされたものであることがわかる。
機能ソリューション事業がなければグンゼの今中間連結は、増益ではあったものの、小幅な増益額で終わっていただろう。
逆に言うとアパレル事業の利益率がいかに薄いかということである。
一方、ワコールの主要事業は4つで
1、ワコール事業(国内)
2、ワコール事業(海外)
3、ピーチ・ジョン事業
4、その他(七彩、ルシアンなど含む)
となっていて、マネキンの七彩以外はすべて肌着関連である。ちなみにルシアンはその昔に買収したレディース肌着アパレルである。
4事業の売上高と営業利益は以下の通りである
国内ワコール事業 売上高472億7500万円 営業利益13億300万円
海外ワコール事業 売上高350億2800万円 営業損失50億2300万円
ピーチ・ジョン事業 売上高55億200万円 営業損失3700万円
その他事業 売上高73億2500万円 営業利益3億7300万円
となっていて、国内ワコールと海外ワコールの売上高が圧倒的に大きいものの、海外ワコールで巨額の営業赤字を計上していることがわかる。あとピーチ・ジョンも地味に赤字である。
海外の巨額赤字はアメリカの新規事業失敗によるところが大きいが中国も赤字である。アメリカの営業赤字が67億1600万円、中国の営業赤字が2億2000万円となっている。
これまで女性肌着分野での絶対王者であり続けたがゆえにワコールはほぼアパレル専業だったのだろう。一方、グンゼはもともと低価格の量販店向け肌着・靴下アパレルだったがゆえに、プラスティックフィルムやメディカル製品などの異業種を育成してきたのだろうと考えられ、2020年代の経済環境を考えると、異業種を大きく育てたグンゼの方が現在に適しているのではないかといえる。
話は横道に少し逸れるが、駆け出しのころ大手紡績各社を研修も兼ねて担当させてもらったことがあった。東洋紡や日清紡、クラボウ、シキボウなどと言った各社である。
これらの大手紡績各社はいまも健在だが、繊維の売上高比率は小さくなり、異業種で稼いでいる。
例えば、東洋紡だと繊維・商事の売上高は462億6400万円なのに対して、フィルム事業は791億8900万円もある。また環境・機能材は573億500万円ですでに繊維よりも大きい。
さらに言うと、営業損益については各事業部は黒字だが、繊維・商事だけが8億5400万円の赤字を計上している。
クラボウも同様で、繊維事業は売上高こそ化成品事業についで2位の247億1000万円(化成品は292億8400万円)だが、営業損益では繊維だけが3億7300万円の赤字で、その他事業部は黒字である。化成品事業が16億3000万円、環境メカトロニクスが16億1600万円、不動産が12億4000万円、食品・サービスが2億7200万円のそれぞれ黒字となっている。
大手紡績各社もグンゼも似たような企業設計をしていると感じられてならない。
要するに繊維は残しているが異業種で稼ぐという考え方だ。そして現在の世情にはこの考え方の方が適しているといえる。特に売り上げ規模が500億円を越えるような大手企業にとっては。(小規模企業なら繊維一本槍でも食えるだろう)
ただ、どちらが正しいとは言えない。世情が変われば、繊維一本鎗のワコールの方が効力を発揮することもあるだろうし、異業種が不振に転ずればグンゼや大手紡績各社が苦戦することもある。
今年のプロ野球日本シリーズは阪神とオリックスの対決となった。阪神はスタメンとポジションと打順はほぼ固定、一方オリックスはポジション交換・メンバー入れ替え・140通りの打線の組み換えでパリーグ3連覇を成し遂げた。どちらが正解ということではなく、その時の首脳陣や現場メンバーの特質や考え方、特技によってどちらを採用するかという話である。どっちの体制を採るにせよ勝てればいいのである。
事業構造も同じで、絶対的な正解は無い。要は儲かれば良いのである。ただ、現在の世情や企業特性を考えると繊維一本鎗のワコールの方が企業としては厳しい状況にあるということになる。
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南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/11/16(木) 1:21 PM
この手の記事は多角化マンセ~かん違いを
誘発しがちです個人的には、非紡績分野を各社が何十年かけて
今日の姿まで育てたかに興味があります同時に、その何十年間でいくつの事業が
起こされて、途中でいくつの新事業がポシャッたか紡績各社はようするに金持ち会社で、歴史があるから
中に能力がある人はゴマンといるわけですそれでも畑違いの事業を安定して利益を上げるまでに
なるには、運も併せて、途方もない努力が必要でしょうワコールは・・・中小オーナー企業がデカくなっただけで
中にろくな人がいないのが実情じゃないでしょうか裏を返せば典型的なアパレルということですw
やっぱ、今の時代は一本足打法は弱いんじゃないんすかね。
うちの会社の取引先のリ◯ーとかは複合機メインで他の商売開拓してなかったんで傾いてきてるけど、同じく取引先のキヤ◯ンなんかは複合機以外も色々やってて、どうにかこうにか成長してるっぽいですし。ま、うちの会社は複合機の仕事なんで先細り決定で、この先どうしようか思案中って感じです。儲からないけど売上大きくて、簡単に取引き辞められないというダメパターンw
写真フィルムの需要がほぼ無くなって存亡の危機だった富士フイルムなんかは、今の稼ぎ頭はフィルム事業繋がりのイメージング事業(写真、映像関連)を抜いたヘルスケア事業(化粧品、医薬品、診断器具)になっちゃってますね。
ホント、現代の経営者は先を読んで事業を変えていかないとダメなんでしょうね。(どっかの中古屋みたいに素手でトイレ掃除とか環境整備とかやってる場合ではないw)