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南充浩 オフィシャルブログ

国産デニム生地を伝統工芸品にしないために

2014年11月18日 未分類 1

 今日はWWDの日本製デニム生地に関する記事が割合に面白かったのでご紹介したい。

http://www.wwdjapan.com/focus/column/denim/2014-11-17/2493

ここではこれまでの国産デニム生地生産大手だったカイハラ、日清紡、クラボウの現状と、最近のデニム生地の潮流が書かれているが、何となく尻切れトンボで終わっている感がもあるため、私見を加えてまとめてみたい。

まず、カイハラの現状である。
押しも押されぬ現在の国産デニム生地工場最大手である。

年間3600万mの生産能力を持つカイハラは、日本製のデニム生地では圧倒的なシェアを占めていると見られている。貝原良治・代表取締役会長は「日本の雇用は当然守るという前提」というものの、海外では年産1億mを超えるなど有力デニム生地メーカーが巨大化しており、海外進出は国際競争を勝ち抜くためにも避けては通れない道とも言える。

とのことであり、これは以前にもこのブログで書いたことがあるように、国内最大手といえども海外の大手とは生産数量が格段に落ちる。
それは抱える織機の数が少ないためである。
海外大手に追いつくためには織機の数を増やさねばならないが、それを国内でやるのかアジアでやるのかとなった場合に、カイハラはアジアでやると決めたということになる。
また、噂にしかすぎないが、某大手ブランドが東南アジアに大規模工場を作る計画があり、それへの生地供給を見込んでいるのではないかという指摘もある。

次は日清紡とクラボウだ。

紡績大手の日清紡は11年、繊維事業の構造改革に伴い、国内でのデニム生産を縮小し、大半をインドネシアに移管した。同社の撤退前の生産能力は日本で年産600万メートルで、3番手。昨年4月には長く日本のデニム生地開発を牽引してきた紡績大手のクラボウが香港の自社工場を売却し、香港の有力デニム生地メーカーの合弁会社にデニム生地の生産および販売を移管。同社がコントロールするデニム生地の生産能力は1.5倍の年2500万〜2600万mに増加したものの、実質的に自社生産からは撤退した。

とのことである。

さて、この記事は最近のストレッチデニム需要の高まりについてこんな事例を挙げている。

東レインターナショナルが躍進している理由は、大きなトレンドの変化にある。つい数年前までは重くてゴワゴワしていたデニムが正統派と見られていたが、デニムらしいユーズド感のあるルックスはそのままに、快適性や着やすさが求められているのだ。素材もコットンにレーヨンやポリエステル、スパンデックスなど化学繊維をミックスし、柔らかさとストレッチ性が不可欠になっている。

とのことであり、今後は東レインター以外の合繊メーカーにも商機があるかもしれないとして文章を結んでいる。

この指摘は正しい。

ただ、今でも正統派デニムは重くて凹凸感のあるビンテージタイプのデニム生地だと考えられている。
少なくともデニム・ジーンズ村の大多数の住人の間では。

しかし、2008年にスキニージーンズが流行したときから、消費者はストレッチデニムを求め続けており、その潮流に対してデニム・ジーンズ村の多くの住人は「邪道だ」と言い続けたが、結局のところ消費者需要を覆せなかったというだけのことである。

もちろん、旧来の凹凸感のあるビンテージタイプのデニム生地は今後も一定数の需要はあり続けるし、その製造技法も維持され続ける必要はあると個人的には考えている。

しかし、一度、ストレッチ素材のラクさに慣れてしまうと、それが標準となってしまう。
また夏冬の気温に対応した吸水速乾のライトオンスデニムや、防風・発熱デニムなどは今後も季節の必需品として一定の売れ行きを維持し続けるだろう。
また、肉厚軽量デニムの需要も増えるかもしれないし、昨今では「色落ちしにくい」デニム生地の需要も高まっている。

こうした機能がなくとも、単純に「デニムに見えないデニム生地」の需要すら高まっている。

先日、クロキで多くの欧米ブランドに好評だったという生地を見せていただいた。
ストレッチ混であることは言うまでもないが、一見するとデニムには見えず、濃紺のカツラギのように見える。
平均的なデニム生地は、インディゴ染めの経糸3本に白い緯糸1本の割合で織られている。
表地は経糸と経糸の間からところどころに緯糸の白が見えている。
これによってデニム生地を、のっぺりとした単なる紺色の生地に見えさせないキモの部分である。

欧米ブランドに好評だったデニム生地はこのところどころに見える白い部分を極力見えないようにしたため、カツラギ素材のように見えるというわけだ。

これが現在の欧米ブランドが考える最先端トレンドということになっており、デニムに見えないデニム、ドレスアイテムと組み合わせても溶け込むデニムが注目されているといえる。

トレンドなんて常に揺り戻しのあるものなので、今のトレンドがいつまでも続くわけではないし、何年か後にはビンテージタイプのデニム生地が最先端トレンドに躍り出ていることも十分に考えられるが、それでも機能性デニム生地の需要はなくなることはなく、残り続けるだろう。

と、なると、次なるトレンドはビンテージ感と機能性の融合ではないだろうか。

例えば、スーパーストレッチ性のあるセルビッジデニムとか、色落ちしにくいセルビッジデニムだとか、そういう素材が求められるのではないかと考えている。

従来からの技法は伝承する必要はあるが、同時に固定概念は捨て去らないとファッションの潮流からは取り残される可能性が高い。そうなると日本製デニム生地は伝統工芸品と同じような位置づけになってしまうのではないか。

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 comment
  • 南ミツヒロ的Gパン愛好者 より: 2022/09/05(月) 9:07 AM

    さすが専門分野。20年近く前の記事でも勉強になります

    クラボウさん、デニム生産から撤退済だったか・・・

    え~伝統工芸品とは「過去数十年、需要を踏まえない乱脈生産・
    乱脈販売を続け、一時的に潤ったが、需要が細り、
    作り手も先細りで崩壊寸前の疑似工業」という認識で正しいですか?

    和服の世界がまさにそれなので

    実用衣料としては20年前に終わっていた素材なのにも関わらず
    ごく一部の愛好者向けの製品が話題になったため
    実際の需要を踏まえた製品の改良に結びつかなかった

    という南サンのデニム分析とよく似た構図になっています
    流通がまともなだけマシといえばマシですが・・・

    カツラギもソフトデニムも本家リーバイスやLeeが70年代に
    手がけたことのある素材だったんですけどねぇ・・・

    過去のマーケティングを踏まえればソフトでフラット・クリアな
    デニムに需要があった時代があった事は誰でも判ったはずです

    でも、マァ1本2万近いGパンがそこそこ売れてりゃ
    先の先まで誰も考えませんわな

    ただ、それを10年も20年も続けたのだから
    追い込まれて当然だともいえます

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