ほぼ死語化した「アパレルのクイックレスポンス対応」
2023年11月2日 製造加工業 2
クイックレスポンス(QR)対応という言葉も繊維アパレル業界ではなんだか死語の世界に入りつつある。
今、この言葉を公的に使っているアパレル企業は皆無ではないだろうか。
90年代後半から2000年代半ばにかけて、各社ともにQR対応に取り組んできたが、いくら追求したところである一定の日数までは縮めることができてもそれ以上には短縮できないことがハッキリした。
QR対応全盛期では簡単なアイテムなんかは2~3週間で各店頭に納品されることが可能だったが、これ以上には短縮できない。
なぜなら、糸の製造方法や生地の製造方法は自動化されているといっても今以上の自動化は無理だし、ミシンにしても同様である。ある程度の日数はどんなに努力しても削ることはできない。
そうこうしているうちに2020年にコロナ禍が起き、世界的にサプライチェーン、物流網が乱れるようになると最早QR対応なんて言っていられなくなる。
そして22年にロシアによるウクライナ侵略が始まるとその流れはさらに強まってしまった。
何のかんの言いながらも例年とほぼ変わらない程度に店頭に衣料品が入荷しているのは、本当に奇跡的で、各段階に携わる人々が最大限の努力をしてくれたおかげだろう。
もちろん、今後も機会損失を減らすためには生産リードタイムの短縮化というか、現状維持に努めることは必要だろうが、20年前のような勢いでリードタイム短縮化を進めることは世界情勢的に不可能になったといえる。
DX化でリードタイム短縮化を提唱するコンサルタント諸氏やIT系の人がいるが、紡績機や織機、編み機、染色加工機、ミシンなどが変わらないままでDXしたところでさほど短縮化はできないと考えるのが適切ではないだろうか。情報伝達が速くなったところで糸、生地、縫製機器は従来のままなのだから、製造に要する時間は変わらない。情報伝達が速くなった分だけは縮まるかもしれないが、それだけのことだといえる。
その手の提唱、論調の多くはコンサルタントやIT系のためのポジショントークではないかと当方は見ている。
むろんDX化できる部分は進めればいいが、できない部分はいくら声高に叫ぼうができないのである。そんな簡単にできるくらいならとっくの昔にやっている。
さて、衣料品に限らず、全ての製品は「作り込みを最優先にするか、作り込みよりも納品速度を重視するか、どちらもほどほどを目指すか」というところのバランスのとり方が重要ではないかと思う。
この3つのどこに自身のブランドの製品を置くかを決めることが、すなわちブランドコンセプトを決めることの一因であり、顧客ターゲット設定の一因になると思う。
その意味においてはこの記事の以下の部分は当たり前の基本的なことだが改めて重要だと感じる。
完成度を追求すれば、ものづくりの体制もデザインやディティール、パターンや仕様開発から生産工程や前工程・後工程に踏み込み、素材開発や染色整理、果ては撚糸や原糸の開発まで至ることも出来るが、それだけ開発コストがかさみ、市場投入までのリードタイムも長くなって需給ギャップも大きくなり、コストにリスクが乗って売価が高くなってしまう。
自ら開発組織を抱えず、タイパ・コスパを追求してODM/OEM製品仕入れでリードタイムを短縮すれば需給ギャップも小さくなり、コストもリスクも抑制して売価を下げられるが、長らく愛顧したくなるような完成度や趣きを期待するのは難しい。
とのことで、独特の筆致というか文体の癖はあるが、整理して読んでみると原理的にはその通りである。
物作りというのはこだわればいくらでもこだわれるが、その分、完成までに時間はかかるし、時間と手間がかかった分だけ生産コストは上がる。従って店頭販売価格も上がる。
これが行き過ぎると、販売価格がべらぼうに上がりオーバークオリティだと言われるようになる。それこそ「5%の人しか支持しない製品」になってしまう。
一方で、ほどほどの作り込みでほどほどの速さで納品し、ほどほどの価格で販売するというのも立派な販売戦略だし、ブランドコンセプトの1つだと当方は考えている。
巨匠が作る大作みたいに何年もかけて物作りをしてもそんなものは数寄者やマニアの愛好物に過ぎないだろう。一般大衆に供給するには数量が足りない。
要は自社のブランドはどちらのスタンスをとるのか?それともその折衷案的な中間商品を提供するのか?それがブランドコンセプトだろうし、販売戦略、販促戦略にもつながることになる。
ただ、残念なことは衣料品業界にはこのことを理解していない川下の人間があまりにも多すぎることである。特に販売員よりもバイヤーや企画マンあたりにこの流れを知らない人間が多すぎて各工場に無茶な短納期を要請することが今でも珍しくない。
公言されているほどの効果が本当にあるのかどうかもわからないDXを最優先課題として導入を進めるよりも、製品製造の原理原則を川下の人間に教育を徹底する方がよほど効果的ではないかと思ってしまう。その方がDXも勧めやすいだろうし、現実に則した商品企画も組み立てやすいのではないだろうか。2000年代半ばまでのように川下からの無茶な短納期要求をゴリ押しできる状況では国内外ともになくなっていることを強く自覚すべきだろう。
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kた より: 2023/11/04(土) 12:32 PM
QRなんてもはや「QRコード」を連想する人間が98%くらいじゃないですかね。
ゴリ押し連中は正常性バイアスで今まで通りのやり方に固執してるだけで、
現実問題として無理筋なのわかってて向き合ってないのでは。
私の宿敵の某経営コンサルタント(ビッ◯モーターで有名にw)は、自社で「DX認定制度」(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-nintei/dx-nintei.html)とかいう、経済産業省が推進してる胡散臭い認定を取ってました。んで、コンサルタントを受けてる会員企業の多くにも、そのDX認定とやらを取らせて、自社WebサイトにDX認定ロゴを貼って宣伝させています。
なにやらDX認定を取ると、税金の控除とか、DX関連の教育費とかの助成とか色々と優遇があるそうで、たぶんそれ狙いで、どうでも良いデジタルトランスフォーメーションなんてものをデッチ上げてるんだと思いますw
ホント、狡い奴らは色々考えますわ。どうせ、現場では一切役に立たないか、むしろ作業増えるだけの無駄なことでしょうにw