生地製造工場だけが残っても国内で生地は生産できなくなるという話
2023年10月25日 産地 1
朝晩はメッキリ涼しくなったが、昼間は相変わらず夏日一歩手前の気温まで上昇する。
暑すぎてどうしようもないというほどではないが、暑がりの当方は、昼間に15分も歩けばうなじから汗が噴き出る。そのため、半袖Tシャツに薄い長袖シャツを羽織るというスタイルで過ごしている。
綿セーターや綿トレーナー、スエットパーカを着用するのはもう少し先のことになるだろう。
綿100%製品や綿高混率製品は新品の状態と洗濯した状態では生地の柔らかさが大きく異なることが多い。ただし、洗い加工(ウォッシュ)を施したジーンズやTシャツ、トレーナーなどを除いての話である。
ウォッシュを施した綿製品・綿高混率製品は洗濯をしても生地の風合いが変わらない。一方、ウォッシュを施していない綿製品は洗濯をすると全く生地の風合いが変わる。
理由はウォッシュを施していない綿製品は「糊付けされた」状態にあるからである。
洗濯をするとこの糊が落ちて生地は柔らかくなる。ウォッシュが施された商品はすでに加工場で糊が落とされた状態になっている。
そんなわけで、当方はウォッシュされていない綿製品を買うと必ず一度洗濯してから着用するようにしている。
ではなぜ、糊付けされた状態にあるかというと、そもそも織布をする前段階として綿糸は必ず糊付けされるからである。糊付けされた糸で織られた生地は当然糊付けされた状態になるというわけである。
地味であまり知名度もないが、糊付けは織布の前段階として必要不可欠な工程である。
さて、先日、7~8年ぶりにわざわざ出張で大阪まで面談に来てくださった産地関係者がおられる。
SNSやメッセンジャーでは年に何度かやり取りはしていたので、実際に会うとそれほど久しぶりという感じではなかったが、7~8年間が経過しても見た目はあまり変わっておられない。
業界メディアや一部の経済メディアでは、国内の繊維製造加工業者が新たな取り組みを始めていることが時々報道される。それはそれで喜ばしいことではあるが、実際はそれは業者の一部であり、全体的に見ると高齢化や不採算によって倒産や廃業が毎年複数起きている。国内の製造加工場は年々減少し続けているのが現状である。
そんな情報交換をし合っていると、
「某産地の綿細番手向けの糊付け屋さんの経営者が高齢化で廃業のカウントダウンが始まっている。産地内には糊付け屋は1軒しかなく、ここが無くなってしまうと他産地の糊付け屋を使わざるを得ないが、ここでしかできない技術もあるのでなかなか困った状況にある」
という話が出てきた。
当方も含めて、工程に詳しくない人からすると「糊付けなんてどこでやっても同じじゃないのか?」と考えてしまうが、それがそうでもないらしい。
長年産地の仕事に携わってこられた別の人に尋ねてみると
「綿太番手と綿細番手では糊付けの技術が全く異なる。太番手が得意な糊付け屋が細番手の糊付けをすることはすぐには無理」
とのことで、地味で目立たず知名度も低い糊付けという工程にもそれほどの技術が必要であり、傍から見るとわずかな違いでも大きな違いになるということである。
何事も奥深いものである。
現在の国内の製造加工場の状態では、糊付けやというのは各産地に1軒か2軒しか残っていない状況にある。そして各産地ごとに得意とする生地が異なるように、その産地の糊付け屋もその各生地に特化した技術を持っているということで、他産地向けの糊付け屋で代替するのはかなり難しいというのが現状である。
「国内の繊維製造加工場の話題となると、真っ先に生地製造工場がメディアで取り上げられ、消費者もそのイメージが強いが、例えば糊付け屋や整理加工場も必要不可欠であり、今回の糊付け屋がこのまま廃業してしまうと、その産地内で作れなくなる生地が何種類も出てくる。生地製造工場だけが残っても国内で生地を作れなくなる」
とのことだった。
もう10年ほど前に、当方も少し面識のあった西脇産地の大手整理加工場が倒産してしまったことがあった。この時も西脇産地では危機感は高まったが、岡山やその他の近隣の産地の整理加工場へ手配することで、現在も概ね変わらず生地製造が続いているが、現在受け入れてもらっている他産地の整理加工場もいつまで健在なのかはわからない。現在受け入れてもらっている各整理加工場が1つずつ倒産や廃業をするごとに、西脇産地の生地生産量も低下するということになってしまうのだろうと考えられる。
業界メディア、経済メディアは国内の繊維製造加工場についての話題では、生地製造工場を取り上げることが多い。受け手の読者や視聴者も「匠のナンチャラ」として生地工場を想定することが多い。違う工程で次いで取り上げられるのはプリント・染色加工場だろうか。しかし、撚糸工程や糊付け工程、整理加工工程はめったに取り上げられない。たしかに記事化したり動画化したりすることは難しい工程だし、記事化・動画化しても面白味も伝わりにくいことも多い。
しかし、分業で成り立っている国内の繊維製造加工工程は、花形ともいえる生地製造工場だけでは物作りはできないというのが現状であり、生地製造を支える撚糸や糊付け、整理加工場は年々減少し続けており、それらがゼロになる産地も遠からず出現してしまうことはもう避けようがない。
百貨店ゼロの県が増えることよりも、ある意味でこちらの方が重要で深刻だと言えるのではないかと思う。
仕事のご依頼はこちらからお願いします↓
市販のシャツが糊付けされてるのは見栄え良くするためだとばかり思ってましたが、まさか布地より前の糸の段階で糊付けされてるとは思いもしませんでしたw
軽くググったら経糸に糊を付けるっぽいですね。「糊を付けて糸に硬さや張りを持たせることで作業中の糸の絡まりを防ぎ、滑りを良くし、扱いやすくするため」(https://teorimono.exblog.jp/13352346/)だとか。
しかし、日本の企業が儲からないのは、やっぱり細かい会社が多すぎるからなんじゃないですかね?
工業だけじゃなく農業とかも集約して大規模にしたら儲かるようになるとかもいわれてますし、大資本の企業がちっさい工場をまとめちゃえば良いんじゃなかろうか?