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南充浩 オフィシャルブログ

今の国内縫製工場の活況は長くは続かない

2014年11月11日 未分類 0

 このところの円安傾向と中国の人件費高騰によって、国内縫製工場への注文回帰がさらに激しさを増している。
国内縫製工場の数は年々減少する一方のところに、注文が激増しているわけだから当然注文が受けてもらえなくてあぶれるブランドが数多く発生することになる。

大量生産品の縫製現場が中国へ移転してから、国内縫製工場の多くは、多品種小ロットの小規模高額ブランドの縫製を請け負うことで何とか凌いできた。
ここにきて、本来中国工場に送っていたようなシンプル・ベーシックな大量生産品の一部までもが国内縫製工場へ回帰しており、小規模高額ブランドと縫製スペースを奪い合うケースが増えているという。

そんな中、先日、長らく付き合いのある小規模デザイナーブランドが「これまで縫製を受けてくれていた工場が、受けなくなってきた」と困っていた。
筆者の友人のOEM請負業も、これまで取り組んでいたカジュアルシャツ系の縫製工場の縫製スペースが抑えられなかったと嘆いていた。

理由はどちらも工場側が「中国から戻ってきたシンプルな大量生産品をやりたいから」だったという。
1点当たりの工賃は安いが、1000枚単位のロットと、製造に手間のかからないシンプルなデザインが魅力なのだろう。

まず、これまでの国内縫製工場へ年間を通じて平均的に仕事を出し続けてきたのはこういう小規模ブランドである。
縫製工場側としては背に腹は代えられないという側面もあったかもしれないが、何年間も続けてきた先をこんな形で取引を終わらせるのはどうなのだろうと感じてしまう。

さらに言うなら、この手の工場は先見の明がない。

なぜなら、現在の円安基調は一過性のものかもしれず、3年後や5年後はどうなっているかわからない。
どこぞの紫の人が主張するような1ドル=50円時代は永遠に到来しないとは思うが、ふたたび90円くらいになる可能性はある。

そうなった場合、シンプルな大量生産品の縫製は再び海外へと戻ってしまう。
次は中国ではなく、東南アジア諸国やインドあたりになるだろう。

また円高基調が是正されない場合でも、東南アジアやインドの縫製工場が整備でき次第、低価格大量生産品はそちらに移る可能性が高い。
それは10年も先のことではなく、遅くとも数年内には工場整備は完了するだろう。

いずれにせよ、今の国内縫製工場の活況はそう長くは続かないと推測できる。

そうなれば、件の縫製工場の仕事はなくなってしまう。
低価格大量生産品がなくなるばかりでなく、先ほどの小ロットブランドの注文も無くなってしまっているからだ。
先ほどのような小ロットブランドはその縫製工場にいくらスペースができても発注することは二度とない。

それにしてもこの20年間、何度同じパターンで国内工場が倒産してきたのだろうか。

大手による大量生産品が未来永劫国内工場を使い続けることはない。
実際に過去もそうだった。
何年かの間に、コストメリットのある海外工場を見つけて、そちらに注文を映してしまう。
国内工場との契約期間は年数が区切られており、それが終了次第、海外工場へ注文は移る。
そして工場は倒産してしまう。

今度も同じパターンを繰り返すことになるだろう。

縫製工場に限らず、生地工場もなぜこのことがわからないのだろうか。
不思議でならない。
「今度ばかりは違う」と毎回、なぜ思えるのだろうか。
何とも幸せな頭脳構造である。

「高付加価値商品で国産品を」なんてお役所や業界団体や組合はスローガンを掲げている。
しかし、そんなのは建前であり、本音は件の縫製工場のように「工賃は安くても手間のかからない簡単なつくりの大量生産品を請け負いたい」である。
そうではないという工場もあるだろうが、多くはそう考えているのではないか。
これが国内の繊維製造業の本音であり、極言すれば、しちめんどくさい「高付加価値商品」とか「高品質商品」なんて作りたくもなければ開発したくもないのが実際のところだろう。

そんなわけで今日も繊維業界は平常運転である。

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