70代向けの衣料品ブランドが成功しにくい理由
2023年10月19日 考察 4
最近「シルバーマーケティング」という言葉を聞かなくなった。
シルバーマーケティングが通用するのは最大公約数的に考えても60代までだろう。70代になるとあまり物を買わなくなる。特に洋服は買わないだろう。
10~20年くらい前に盛んに「70代向けの高価格高感度ブランドを開発」なんていう記事を業界紙で見かけたが、普通に考えるなら大多数の70代は「高感度」はまだしも「高価格」ブランドなんてものはもったいなくて買わない。
理由は残り寿命が少ないからだ。
日本人の平均寿命はザックリ言って、男性が81歳、女性が88歳である。
70歳男性からすると平均寿命と照らし合わせると残り寿命は11年しかないということになる。11年というのは長いようで短い。特に中年以降になると年月の経過速度が加速したように感じられ、当方なんて大して何事も成しえていないのに1年間があっという間に過ぎてしまう。
昨年の年末大掃除の反省をしているうちに、今年の年末大掃除を迎えるといった具合である。
そうなると、「たった11年」のために高い服を買おうとは思わなくなる。買うこと自体は否定しないが、死ぬまでにそれを何度着られるのかと考えると、高価格衣料品はもったいないと考えるようになる。現に当方は53歳にしてすでにそう考えている。
もちろん、全裸で暮らすわけにはいかないから衣料品を着用はするだろうが、体型が変わっていなければ50代・60代で着用したものをそのまま着続けるだろうし、買うとしても高額品やデザイナーズ物や最新トレンド品は必要なく、買いやすい価格で(死んだときに遺族が捨てても惜しくないから)、少し綺麗目な服か、あとはデイリーカジュアルで小マシな物かで事足りてしまう。
以前、盛んに70代向けブランドが開発されたがどれもこれも不発に終わったのはそういう理由だろう。
当方が住み続けている実家の周辺は70代・80代の親世代がけっこういるのだが、着用している服を見ると、デイリーカジュアルはだいたいがユニクロである。特に冬場のウルトラライトダウンジャケットの着用人数の多さは異常である。まるで老人のユニフォームのようである。
となると、わざわざナンタラグースとかナンタラクレールとかの高額なダウンジャケットなんて70代・80代が買う必要がない。
亡くなった母は当方と同じで値下がりした服を買うのが大好きだったが、晩年はその数量がめっきり減っていた。まだ完全退職する前のほぼ現役で亡くなったにもかかわらずである。
そんなわけで後期高齢者に旺盛な消費を期待することは無理だろうと思っている。特に衣料品は。
高齢者になるとお金を使わなくなる問題|荒川和久/独身研究家・コラムニスト (nikkei.com)
荒川和久さんの記事である。未婚の男女比率が増えていることに対する考察を当方が一番評価している人である。
しかし、高齢者の消費が増えない一番の理由は「高齢者になるとそもそも欲がなくなる」し、「なんもかんも面倒くさくなって消費しなくなる」からである。そして、意外に忘れていることは「高齢者になると対人関係が極端になくなりお金を使わなくなる」ということである。
消費の原動力は対人関係なのである。誰かと一緒に飯を食いに行くとか旅行に行くとか趣味のために出かけるというのがあるからこそお金を使う。そういうきっかけがなくなった場合、下手をすれば一日中家にいて、テレビを見て、家にある物を食って、1円も使わずに過ごすことも可能だ。
とある。
当方は仕事の出張以外の旅行が嫌いで一切出かけないため、友達は少ない(ほぼいない)ので仕事が無い時は自宅でガンダムのプラモデルを作っているか、本を読んでいるか、SNSで毒を吐いているか、YouTubeを見ているか、自宅周辺をランニングしているかである。ガンダムのプラモデルは買った以降組み立てるまでの期間、料金は発生しない。本も買ったときに料金が発生するが読み終えるまでは料金が発生しない。
ランニングは1年に1度くらいスニーカーを買い替える程度の出費である。あとのTシャツやランニングパンツは1度買うと5年か6年は買い換える必要がない。
となると、当方の仕事の無い日は電気代と水道代以外のカネをほとんど使わずに暮らしているということになる。
休日にわざわざ何人かと集まって野外で肉を焼いて食うなんていうめんどくさいパリピなことはやりたくもないのである。
若い頃には、老人が言う「年を取ると物欲が少なくなる」とか「年を取ると洋服は欲しくなくなる」という言葉が理解できなかったが、自分が老境に足を踏み入れると何となくあの言葉は真実だと感じるようになる。
で、亡くなった父母も合わせて周りの老人の行動を観察していると、ある程度変わらず消費をするのは「食品」「食料」である。ただ、脂っこい牛肉なんかは食べたくなくなるようだし、1回に食べる量は減るが、ある程度は定期的に買っている。また食べる量が少なくなるからこそ、少し高い物を買うということも増える傾向にある。
しかし、そんな何の欲も趣味も友達もない高齢者でも必ず使う費目がある。それが食費である。これからは高齢者にいかに「毎日の食でお金を使ってもらえるか」が重要になるだろう。
とある。そして例としてジャパネットたかたを挙げており、
販売アイテム数で比較するとわかりやすい。
エアコン・扇風機関係195点 冷蔵庫・洗濯機関係250点、調理家電関係229点、掃除機関係55点、テレビ・オーディオ関係は149点、お布団・寝具関係は231点。それに対して、グルメ関連商品は309点で唯一300超えともっとも多い。※2023年9月9日時点のもの
とある。品番数は圧倒的に食品が多い。
文中にもあるが、当方も常々書いているように、食は定期的に無くなるから必ず買い足すわけで、食品の需要は生きている限り永遠に続く。洋服はトレンドやら気分やらを気にしなければ、ある程度の枚数を買うとそれを着回し続ければ優に5年間は買う必要がない。その需要の差は大きい。
で、何が言いたいのかというと、現在、40~60代くらいが人口ボリュームが最も大きく、ある程度の購買力と購買意欲もあるためそこに向けて好調な洋服ブランドも少なからずある。いわゆる好調ミセスブランドというやつである。
しかし、あと20年が経過して、今の60代がほとんど死んでしまい、今の50代が70代になるとそのブランドは売上高を稼げなくなるだろう。
そのあたりの設計や販売政策はいまのうちから各アパレル、各ブランドが対策を練る必要があるのではないだろうか。
業界人はともすると自分が服を好きだから大衆も全員服が好きだと考えてしまいがちだが、実際にそこまで服に興味の無い人は世の中に大勢いるし、老人になればその人口比率が高まるという避けられない事実は直視すべきだろう。
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comment
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キム ゴンウ より: 2023/10/19(木) 1:42 PM
>業界人はともすると自分が服を好きだから大衆も全員服が好きだと考えてしまいがちだが、実際にそこまで服に興味の無い人は世の中に大勢いるし、老人になればその人口比率が高まるという避けられない事実は直視すべきだろう。
わかります
もっともこう言うコメントを書くと
70代が買いたくなるブランドあるのによく調べて書けという
人が湧いてきそうで怖いです -
南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/10/20(金) 12:38 PM
どははは(笑)>老人ブランドがあるのをしらねーのかw
20年まえのオーダースーツブームが実はそれに近いのかも?
ただ、男の服なんて、どんなに凝っても
ひととおり揃えさせたら終わりですからねぇ対マスではそれはさておき
「高齢者になると欲がなくなる」
「すべてが面倒くさくなり消費しなくなる」の問題は極めて深刻です
そしてこの傾向は全所得層で共通ですしってる老人で95歳!なんですが、今履いてる
ズボンは現役時代のスーツの下の人がいますちなみに帝大卒の元裁判官!です
同じく88歳の女性ですが、食事は1日1食のみ
高級レンチン冷凍食品ですどちらも年金月額30万はゆうに超える層です
人間最後の10年15年はメシ喰うのに
労力使う事すら
めんどくさくなるみたいですおふたりに「3食ヒルネごはん付きの高級老人ホーム」
にでもいったらどーですか?ともうしあげましたが・探すのがめんどくさい
・引っ越すのがめんどくさい
・とにかくすべてがめんどくさいなんだそーな
こういう人たちに物を買わせるには?
高齢者専用にデザインされた
クリック回数が極端に少ないECサイトぐらいしか
私には販路が思い当たりません商材は食い物と日用品だけです
ただね、人間最終局面に入るとメシ喰うのも
メンドくさくなるからなぁ・・・ -
南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/10/20(金) 12:52 PM
通りすがりきくぞう氏>死んだあとも物だけ送りつけ
実際にあるんですよこれが
ボケて施設に入って、でも宅配だけは毎日来るけど
宅配業者は委託だから配達人にいってもムダ
しょうがないから近所に住む息子さんが宅配食を
毎日とりにいってるなんて話をしってますさらにヤバいのは、高齢両親が引きこもり息子の後を
心配して、チョキン何千万を残したけど、
おうちから出られないから無駄そこで、宅配食を5年先払い契約して
でも親死んで、息子もゴミまみれで死んで
でも宅配食だけは宅配が続いて、
配達の人が行政に通報したとかね・・・
ジャパネットたかた、食べ物のサブスクとかやってるんすね(リンク先記事)。
うまい商売考えるもんだなぁ。
でも、死んだ後も自動で送りつけられてきたら、なかなかのディストピアw