すっかり消え去ってしまった巨大ブランドロゴブーム
2023年10月6日 トレンド 1
先日、ユニクロの1500円バッグ「ラウンドミニショルダーバッグ」人気を伝える記事がヤフージャパンに掲載された。
どんな記事にもヤフコメはつくものだが、この記事に関してはいわゆる業界人や経済人のコメントも多かった。ニューズピックスというサイトもそうだが、衣料品・ファッション関連の話題となると、ユニクロと百貨店のことばかりである。あと何十歩下がってジーユー、しまむらあたりへのコメントだろうか。それ以外の事柄にはあまりコメントは寄せられない。なので、もう何年も前からニューズピックスは見ることさえしなくなった。
で、業界人や著名人のヤフコメの中に「このバッグはクワイエットラグジュアリーの流れで云々」というものがあたのだが、1500円バッグのどこにラグジュアリーさがあるのかと訝しく思った。
さて、ユニクロの1500円バッグは置いていて、今年に入ってから「クワイエットラグジュアリー」という言葉が衣料品業界メディアで伝えられることが増えたと感じる。
ではクワイエットラグジュアリーとは何かというと
控えめでいて上質、最注目のトレンド「クワイエット・ラグジュアリー」という美学|Pen Online (pen-online.jp)
ロゴはもちろん過度な装飾もなく、その印象はシックでクラシカル。でも、上質な素材や繊細な仕立てからはひと目で、その服が高級であることが伝わってくる。海外のセレブリティのそんな出で立ちが注目を集め、新たなトレンドとして脚光を浴びているのが「クワイエット・ラグジュアリー」だ。セオリーは存在しないものの、カラーパレットは白、黒、グレー、ベージュなどの無彩色が主。控えめだけれど、それらを纏うことによって、確かな品格やその人の自信さえも感じられるようなスタイルである。
とある。
まあ、当方なりに平たくまとめると「ブランドロゴや特徴的な色・柄を排した無地のラグジュアリーブランドの服」というところだろうか。
一々、新しい言葉を作って流行らせようとするのがこの業界の宿病である。
ノームコアしかりY2Kしかり、である。そして数年後はすっかり死語の世界へと誘われる。
「精神性」やら「哲学」やらを新造語に後付けするものだから、極めて意味不明な修飾語が多用されてしまうことになり、引用した文章で言うなら「確かな品格やその人の自信さえも感じられるようなスタイルである」という一節があるが、じゃあ、これまでの派手派手しいデカいロゴ付きの服を着ていたと多くの人々は「品格や自信に欠けた人々だった」とでも言うつもりなのだろうかと思ってしまう。
個人的にはこの洋服の「無地化」、「ロゴの縮小化」の流れは2000年代後半以降約10年弱続いた「デカいロゴ服」「ロゴの巨大化」に対する人々の飽きとアンチテーゼだと思って眺めている。
ブランドロゴの巨大化というのは、当方の感覚でいうと2008年の北京オリンピックに対応するための施策、もっと平たくいうと中国人に売るための施策だったと思っている。
ラルフローレンの馬マークは巨大化し、ラコステのワニマークも巨大化し、バーバリーの馬?マークも巨大化し続けた。
2016年にはこの動きを皮肉ったこんな記事も作成されたことがある。SNSでよく見かけた方もおられるだろう。
面白い画像なので記事からお借りしてここに貼り付ける。
記事によると、ラルフローレンの馬マークが大きくなったのは
ラルフローレンが2005年のUSオープンテニスのオフィシャルスポンサーとなったことを記念し、公式ウェアとして「ビッグポニー」が発表されました。※通常の3倍以上の5インチ(13センチ)のポロプレイヤーロゴが左胸に刺繍されました。
とのことである。
まあ、結局2020年にはラルフの馬は元の小さいサイズに戻ってしまったのだが(笑)。
2000年代後半以降~2010年代前半はそういえば、ビッグポニーマークが付いていて肩口にデカい数字が貼り付けられたポロシャツを着ていた日本人成金、中国人、日本人マイルドヤンキー上がりのオジサンなんかが繁華街を闊歩していた記憶がある。
しかし、2020年代手前ごろからビッグポニーにしろ、ビッグワニにしろ着用している人を見かけることが減ってきて、2023年夏には皆無という状態になった。
どのブランドもロゴの巨大化に走った理由として、「ブランド物ということがわかりやすい服を好む中国人の嗜好に対応するためだった」と業界では定説として語られていた。当方もその通りだろうと思う。
個人的な好みでいえばデカいロゴマークの服は下品すぎると感じられて好きではなかったので一枚も買っていない。
そして、ラルフローレンにせよ、ラコステにせよ、フレッドペリにせよ、デカいワンポイントマークの服が消えたのは消費者の飽きやアンチテーゼもさることながら、中国経済の不況突入の影響もあるのではないかと見ている。もう以前ほどには中国人需要が見込めないから嗜好に対応する必要も無いというところが大いにあるのではないか。
そして、この「ロゴ問題」で言うなら、ラグジュアリーブランドに限らず、ビッグポニーとほぼ同時期にロゴ入りTシャツ、トレーナーが大流行していたのだが、2020年のコロナ禍を最後にピタリと消えてしまった。
例えばチャンピオン、フィラ、Leeである。
この3ブランドのTシャツ・トレーナー・スエットパーカはセレクトショップ、ジーンズチェーン店、一部SPA型ブランドまで猫も杓子も店頭に並べたり、別注商品を発注したりしていた。ファッション雑誌でもよく特集が組まれていたが、2023年になるとLeeのジーンズはまだしもTシャツやトレーナーは壊滅的だし、チャンピオンのTシャツ・トレーナー類はあまり店頭で見かけなくなった。フィラなんてTシャツもトレーナーも全く見かけない。恐らくLee、チャンピオンの2ブランド以上にフィラのTシャツやトレーナー類は消えているのではないかと感じる。
チャンピオン、フィラの2ブランドについてはセレクトショップやジーンズチェーン店関係者からは「インバウンドの中国人や韓国人の買い占めが多かった」との証言を得ている。そしてコロナ禍でインバウンドが壊滅した結果、ピーク時に比べると店頭に並ぶ枚数が激減してしまったと考えられる。
そしてここにきて「クワイエット」の流行と謎のゴリ押しでとどめを刺されてしまったのではないか。
結論からいえば、無地物は流行り廃りに関係なく、長期間に渡って着ようと思えば着られる。一方の過剰な巨大ロゴ物はトレンドが終わってしまうと気恥ずかしくて着づらくなる。そういう意味では無地物の流れは当分続くだろうし、巨大ロゴ物が復活するのは早くて10年後~20年後ということになるだろう。
ラグジュアリーに限らず一般カジュアルブランドでも「巨大ロゴブーム」が消えて沈静化したというのは、中国経済の不況が数値に表れている以上に心情的にも深刻だということではないかと思っている。
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車だと、BMWなんかは中国人の嗜好に合わせて、フロントグリル(キドニーグリルと言われるBMWのアイコン的グリル)がどんどん巨大化していってネタになってましたが、今もデッカイままですね。中国の凋落が極まったら小さくなるんだろうか?w