
大手紡績が消費者に役立つ素材開発の姿勢へシフトしている
2023年9月21日 素材 1
糸でも生地でもメーカーの展示会や工場にお邪魔すると、知らない事だらけで勉強させてもらうことばかりである。
ただ、ともすると「技術論」に終始することがあり、それはそれで勉強になり興味深いのだが、製品化を担当するブランドやひいては消費者には伝わりにくいというきらいがある。
もちろん、その「技術論」に終始する姿勢こそが物作りを支えている長所であることは間違いないが、アパレルの企画担当者や商品を購入する消費者には理解されにくいという短所にもなっている。
何度も言うように長所と短所は同じことが多いから、慎重と捉えれば長所だが、優柔不断・決断が遅いと捉えれば短所になる。世の中の事象はそんなもんである。
技術論が重要なことには変わりはないが、もう少しその糸や生地を使った場合の製品的効能や機能なんかをわかりやすく説明することが増えた方が、アパレルとの商談もスムーズになり、ひいては消費者に製品も買ってもらいやすくなるのではないかと思っている。
そんな中に繊研新聞にこんな興味深い生地が掲載された。
紡績大手各社 エンドユーザーに役立つ開発へ転換 多様化するニーズに対応 | 繊研新聞 (senken.co.jp)
紡績大手による商品開発の出発点が、〝エンドユーザーに役立つ〟という使用価値に転換してきた。製造拠点を持つメーカーである以上、安定操業は前提だが、メーカー都合を優先しすぎれば多様化するニーズに応えきれず、顧客離れとともに操業度のさらなる低下を招きかねない。各社が得意とする繊維加工技術を生かした差別化素材を提案するにしても、素材の特徴を前面に打ち出すのではなく、「この技術、素材を使って実現できる価値」の訴求を重視する。
とのことである。
今更、国内アパレル各社の企画担当者の素材知識の低下を嘆いても始まらないし、育成することは急務であることも間違いないが、まずは知識の無い相手にもわかりやすく説明するということが喫緊の課題ではないか。育成するのは時間がかかるものだが、日々のビジネスは待ってはくれない。
今回の記事では、クラボウ、日清紡、シキボウの事例が採りあげられており、特にユニフォーム向けの話題がメインとなっている。
ユニフォーム向けの糸や生地というのは、大量生産で安定操業が見込める反面、機能性が最重要視されるばかりでなく、価格が安いということも最重要視される。
そのため、各社のユニフォーム向け素材は、安くて機能性があるというところに主眼が置かれている。ただ、大量生産が見込めるので、スケールメリットによって低価格の割には品質はそこそこ高いというところも特徴である。
クラボウ繊維事業部長の北畠篤代表取締役専務執行役員。「新素材も大事だが、あくまで最終製品に役立つ素材を作るという発想で、そこに経営資源を集中していった方がいいと考えている」という。
とあるが、素材開発は重要だが、最終製品を見据えた機能性の付与が重要となるということには同意する。
これまでの自分の経験で言うと、20年くらい前まで、紡績や生地メーカーの展示会に伺うと「開発のための開発」みたいな素材や二次加工がけっこうあった。
実際に担当者に「これ、何の役に立つんですか?」と尋ねると「いや、我々もちょっとわからないんですよ」という答えが返ってくることもあった。
残り少なくなってきたがワイシャツメーカーというのは元来、紡績とのパイプが太かった。シキボウ、日清紡あたりは双璧で、その他のクラボウ、東洋紡、ダイワボウなんかも同様だった。
95年頃に形態安定加工ワイシャツが爆発的に大ヒットし、この形態安定加工生地を供給していたのが大手紡績各社だったわけだが、以前から何度か書いているように、形態安定加工ワイシャツの人気が落ち着いてくると、ワイシャツメーカーと大手紡績各社は、さらなる機能加工の追加によって売上高を維持しようとした。
消臭加工を付与して、その翌年には形態安定+消臭+防汚加工を打ち出し、さらにその翌年には抗菌加工を付与するといった具合で、最終的には6つか7つくらいの機能加工盛り盛りのワイシャツが出来上がってしまった。
最末期になると、ビタミンC加工やら、血行促進加工やらそんな機能性まで付与されていたのだが、ビタミンC加工は美白に効くと言われている加工だが、メンズワイシャツにそんな加工が必要とされているのだろうか?需要はゼロではないと思うがその需要は極めて小さいだろう。実際、ワイシャツに美白機能を付けてほしいと思っているサラリーマンなんて会ったことがない。
血行促進はもっと効能が体感しにくい。長期間に渡って着続ければいつの間にか体が楽になると感じるのかもしれないが、実際に効いているのか効いていないのかもわからない。当方も血行促進加工を施したサポーターやらアクセサリーやらをサンプルでいただいたことがあるが、効能がさっぱり体感できないので捨ててしまった。
もちろん、メーカー側の工夫も理解できる。毎年新製品開発・新素材開発が業務として求められるので、何か1つでも開発しないわけにはいかない。そうすると、まあ、使い道はイマイチわからないけどビタミンC加工でも付けてみようかとか、効能がイマイチ体感しづらいけど血行促進加工でも付けてみようか、ということになる。当方が開発担当でも同じように考えるだろうと思う。
現在も新技術は日々研究されているだろうが、それでも毎年画期的な新技術が開発できるわけではない。それよりも既に存在する素材やロングランで取引されている素材を使って製品化した場合の効能や機能、使い勝手などを説明した方がアパレル側にも喜ばれるだろう。紡績各社もその見地にたどり着いたといえる。
しかし、その一方で懸念もある。素材や糸について「過度な嘘の神話」が捏造されないかということである。本当かどうかも分からないがさも有難そうな神話を作ってしまうということは繊維・衣料品業界には昔から結構ある。そしてそれが人々の認知をややこしくさせてしまっている。そういうことが行き過ぎた物にならないようにしてもらいたいと思うばかりである。
薄手の織物では、業務用を中心に
化繊比率が綿を上回る商品がぐっと増えました
いずれも高耐久・速乾・シワゼロですが
趣味で着るには厳しい質感・色だしです
イオンが生地提供社のタグを付けた製品を
春夏フルラインで出したものの
1着せんえんで大量処分されておしまい
ポリナイロン系の薄物だと
ウルトラフラットな質感になります
ところが、多くのユーザーの記憶にあるシャツは
しなやかで柔らかな、綿にしかないあの質感です
実用度100%の仕事着なら問題ないけど
オサレ着として売りたいなら、
織物の化繊製品とりわけ薄物には
まだまだ課題が多いですね