MENU

南充浩 オフィシャルブログ

繊維業界は各工程で不良在庫が発生しやすい構造になっている

2019年1月29日 考察 0

アパレル製品の売れ残りが問題になっているが、国内の個々のアパレルは、品番によっては謎の作り込みはあるものの、総数としては生産数量を絞る傾向が強い。
それにもかかわらず、どうして売れ残りが多数出るのかというと、店頭やネットでの販売不振があるだろう。
作っている物自体がイマイチなのか、売り方・見せ方がイマイチなのか、もしくはその両方なのか。
個々のアパレルが改善できるのは、物自体のデザインや品質を見直すこと、もっと売れる売り方・見せ方を研究すること、そして、僥倖を期待した数量多めの製造はやめること、になる。
これ以上のことは個々のアパレルではやりようがないと思う。
 
以前に告知しながらなんやかんやで手付かずになっているが、在庫処分業者や在庫処分サービスの取材を行っており、それを
https://www.style-picks.com/
で掲載する予定なのだが、情けないことにまだ手が付けられていない。
その一環で、先日、在庫処分の企業向けフリマサイト「スマセル」
https://www.smasell.jp/
を展開するウィファブリックの 福屋剛社長にインタビューをした。
 
福屋社長は瀧定大阪の出身なので、いわゆる生地問屋(洋服・繊維雑貨のOEM機能もある)の出身で、生地と洋服・雑貨のOEM生産については現場で体験をしておられる。
現在は、洋服の在庫廃棄にある程度の注目が集まっているが、実は生地の在庫も存在する。生地関係の人からすると何を当たり前のことを、と思われるかもしれないが、多分、アパレル関係やもっとライトな業界人はその問題を知らないのだと思う。
生地の在庫、デッドストックは生地工場にあると思いがちだが(当方も8年くらい前まではそう思っていた)、実際のところ工場にはほとんど不良在庫はない。
なぜなら、生地工場の多くは、発注のあった生地を発注数量だけ製造するので、基本的に不良在庫はない。(不法返品や未引き取りがあった場合は除く)
サンプルで作った1反や2反、B反(いわゆる不良品)などは残るが、その程度の在庫がほとんどである。
一部の生地工場は「手張り」と呼ばれる自社リスクでの生産を行っているが、当方が、過去に取材した経験でいうと、手張りを行っている生地工場の方が少ない。
手張りは自社リスクで生地を開発し、ある程度の数量を作り込んで、アパレルや生地問屋に自ら売り込むというスタイルだが、これをやるには相当の資本力が必要で、それ以外にも企画力・営業力・業界への影響力が必要とされるため、小規模・零細工場はそのスタイルが採りづらい。
また、リスク回避の性向が強い経営者なら大手工場といえども取り組まない。
工場に代わって、生地をストックしているのは大手の生地問屋で、生地のデッドストックが溜まりやすいのは工場ではなく、生地問屋(生地商社)である。
だからスマセルにも名前は明かせないが、工場ではなく、多くの生地問屋が加盟しているという。
 
そういう事情に加えて、福屋社長が指摘したのは

「在庫が溜まりやすいのは、繊維業界特有の業界構造にも原因がある」

ということであり

「糸・染色・整理加工・織布or編み・縫製とすべての工程が分業化されており、その工程のそれぞれのミニマムロット数が異なるから各工程での不良在庫が溜まりやすくなってしまう」

ことが根本的な原因の一つということだった。
生産や加工のことをご存知の方なら納得されるのではないかと思う。
例えば、生地を作るには糸が必要だから、当然、生地工場は糸を紡績や合繊メーカー、撚糸工場、糸商社から買う。その場合のミニマムロットは生地生産のミニマムロットより多めに設定されていることが多い。
染色にしろ生地生産にしろ同じであり、また染色技法や生地生産技法によってもミニマムロットは異なる。
そして、アパレル企業の規模にもよるが、本当に必要な着分よりもそれらのミニマムロットは多めに設定されていることが多い。
別に製造加工業者が暴利を貪っているのではない。自社・自工場の採算ラインを考えるとそういうミニマムロット設定にならざるを得ないことがほとんどなのである。
そうすると、ちょっと多めに買った・引き取ったものの、需要よりも多めなのだから必然的にいくらかの数量は残ってしまうことになってしまう。
だから各工程で売れ残り在庫はどうしても発生しやすくなっている。
 
そして恐らく、この構造は国内だけでなく海外でも細部は異なるにしてもほとんど当てはまるのではないかと思う。
海外に詳しい人に解説してもらう必要があるが、中国や東南アジアの大工場は一貫生産しているとはいえ、糸からアパレルブランド運営まで一気通貫で行える企業はないはずである。
紡績・染色・織布・整理加工を一貫生産できる工場はある。また縫製全般を一貫できる工場もある。
まれに織布から縫製までを一貫生産している工場もあるだろうが、糸からアパレルブランド運営まで一貫している工場(企業)は存在していると聞いたことがない。
 
個々の企業の努力は大切だが、各工程でのミニマムロット設定が異なっているのだから、その都度、不良在庫や過剰生産があるのは当然であり、これを解決するにはもっと根本的な仕組み作りが必要なのではないかと思う。
そうすると河合拓さんが主張しておられるように、「莫大な投資が必要になるだろうから巨大商社が各工程を統合するシステムを構築し、投資すべきではないか」ということになる。
なかなか壮大な構想で、それ以外に根本的解決は見いだせないと思うのだが、果たしてこれをまとめて牽引できるようなスーパーパワーを持った企業やブランド、個人が存在するのかというと、かなり難しいのではないかと思う。
過剰在庫問題は感情論だけでは決して解決できない。
 
 
 

久しぶりにNOTEの有料記事を更新しました~
「アパレルの簡単な潰し方」
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n479cc88c67bf

 
 

【告知】2月7日に東京で有料のトークイベントを開催します
https://eventon.jp/15877/

 
これ、どんな小説なんだろうな~

この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ