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南充浩 オフィシャルブログ

洋服のOEM業者は製造加工業者にとっても不可欠な存在に

2019年1月28日 製造加工業 0

最近、アパレル業界ではOEM・ODM業者の存在が悪かのように言われる場合があるが、個人的には悪だとは思っていない。悪だとするなら絶対的な悪ではなく必要悪といったところだろうか。
もちろん、悪徳業者もいるしそうでない業者もいる。そんなものはどのジャンルでも同じだ。
OEMは相手のブランド名での生産を請け負うこと、ODMは相手のブランドのデザインから生産までを請け負うことだと定義されているが、アパレル業界で「OEM屋さん」「OEM業者」というと、現在ではほとんどの場合、デザイン起こしから生産までのODMを指す場合が多い。
さて、OEM屋さんだが、二通りの出自があるように感じる。
・一つは、洋服のデザインが本業でそこから生産手配にまで手を伸ばした業者
・もう一つは、生産背景がメインで、そこからデザインもやるようになった業者
である。
大雑把にいうと、デザイン出身と生産出身があると感じる。
どちらが良いとか悪いとかいう問題ではなく、そういう傾向があるように感じるということである。
昔は「外注デザイン」とか「振り屋」という業者がいたが、最近だとだんだん減ってきた印象を受ける。
外注デザインは文字通り、アパレルブランドから外注業者としてデザインを請け負うことだが、今のご時世でデザインだけしてもらっても生産の手配がないのでは、ブランド側はメリットを感じない。だから外注デザイン業者はOEMまで手掛けないと生き残れない。
一方、振り屋はまだいるが、それでも今のご時世に仕事にありつこうとすると、以前のように「振っている」だけではブランド側も使うメリットを感じない。
OEM業者のことを振り屋と呼ぶこともあるが、個人的には、生産工場の手配だけで終わってしまう業者が「振り屋」だと認識している。
最近のOEM業者は、生産の手配を「振る」だけでなく、自発的にサンプルを作ってそれを持って提案営業している。それがためにアパレルや大手セレクトショップはオリジナル品が作れており、そういう業者にさらに依存度を高めているのだが、こういう企画提案業者が掃いて捨てるほど存在する中で、受け身で生産背景を「振る」だけの振り屋は存在感をどんどんなくしているし、今後は消えてしまうかもしれない。
そんなふうに感じる。
さて、長々と書いてきたが、D2Cブランドへの注目の高まりによって、これらのOEM屋さんが「悪」だと見なされるケースがある。製造加工業者も「OEMの中抜きが問題」と言うこともあるが、果たしてそれは正しい認識だろうか。個人的にはどうも正しいとは思えない。
カットソーの工場で働いていた経験を持つ山本晴邦さんは、先に挙げた「生産背景出身のOEM業者」だといえる。
山本さんのNOTEとブログはなかなか秀逸で、生産についてここまで「文章化」できる人は業界にもそれほどいないだろう。
最新のNOTEにこんな一節がある。
 

「繊維製造工業マーケティングのすすめ。3」
https://note.mu/halyang/n/nb0db50843a95

 

今や『工業技術のスポット提案』では響きにくくなっています。
(中略)
実はOEM/ODMメーカーがいたからアパレルメーカーとの商売が繋がってたという可能性はないでしょうか。
直近のアパレルメーカーとの商談を思い返してみてください。
染色工場が特殊加工を開発してアパレルメーカーへ提案しても、テキスタイルとしてどのような仕上がりになるのか想像するのは困難です。準じて、編み立て工場が自社しかできない編み組織ができると言っても、その編み地がどのようなアイテムに適しているかなどのイメージを明確に持てるデザイナーも少なくなっています。ましてや糸の見本帳だけで商売を川下から直接得ることは、よっぽど履歴に頼った商売以外は成立しません。
 

とある。
当方もそういう商談に立ち会ったことがあるが、アパレルやブランド側が求めていることは、特定の工程の一部分の技術だけ提案されることではないし、単品アイテムの企画提案ではない。
要するに
「この糸の撚りをナンタラカンタラするというのはすごい特殊技術なんです。だからこの糸を買いませんか?」
というような提案をしたところで、アパレルやブランドは心を動かされないということである。
「だったら、そのナンタラカンタラした糸で織った生地を見せてくれよ」
ということになるし、なんだったら
「その糸で織った生地で作った服を見せてくれよ」
ということになる。
 
その要望には多くの製造加工業者は単独では応えられない。
なぜなら彼らは自分の工程のことしか知らないからだ。
そうすると、糸から製品作りまでパッケージングしてくれるOEM屋の存在は必要不可欠ということになる。
今のアパレル業界では、生地工場とか撚糸工場とか染色加工場が個々に提案したところで通用しない。山本さんが書いているように「よほどの履歴」があった場合を除いて。
よほどの履歴というのは
欧米のナンタラという超有名ブランドが使っている
というような「履歴」である。
それがなければ、アパレル側は個々の生地工場や染色工場の提案など聞く耳を持たない。アパレル側の姿勢も問題だが、製造加工業者側も包括的な提案ができないことも問題だといえる。
それをパッケージングして仲介しているのがOEM屋だというのも、実はこのアパレル業界の真実である。
 

洋服になる一つの要素でしかない各工場のそれぞれの技術を誇示したところで、「それらをまとめていくらで売れるの?」という壁にぶち当たります。
技術が高いから高単価なのは理解していますが、それがその顧客の市場にとってその技術と単価が適正かどうかは顧客側が決めます。なのでバランスをとってパッケージングできるOEM/ODMメーカーが重宝されるのです。
 

まとめるとこうなる。
 
アパレル側も社内にデザイナーやパタンナーをどんどんと置かなくなってきており、自社内で企画することが難しくなっている。だからこそ、一方の製造加工業者もかつてのようなピンポイントの工程での技術提案だけではアパレル側との成約は難しくなっている。
今の繊維業界でOEM屋をなくすことは不可能だし構想としても無理がある。今のOEM屋を残らず排除したところで別のOEM屋が台頭するだけである。
OEM屋悪玉論はナンセンスでしかない。
 
久しぶりにNOTEの有料記事を更新しました~
「アパレルの簡単な潰し方」
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n479cc88c67bf
【告知】2月7日に東京で有料のトークイベントを開催します
https://eventon.jp/15877/
 

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