さて、今日は気分を変えて。

昨日、午後9時に国産Tシャツブランド「ナインオクロック」が正式スタートとなり、同時に直営通販サイトも稼働開始した。

http://9oclock.co.jp/

価格は3500円(税抜き)で、これが高いか妥当かは意見の分かれるところだろう。
オープンに先立って、サンプル品が送られてきた。
60番手のスムース素材だが、光沢があり、ちょっとしっとりとした触感がある。
おそらくシルケット加工か何かを施しているのではないかと思う。
縫製は岩手県久慈市のアクティブという工場が担当している。

形はややタイトで、46歳のオッサンはLサイズでピタっとした感じになる。

これを開始したのは香取正博さんという若い衆なのだが、彼はアパレル勤務経験がない。
もちろん繊維素材メーカー勤務の経験もない。

元オーナー美容師で、都内で2店舗を経営していたが売却して、Tシャツを作って売りたいと思い立ったそうだ。
繊維業界に対して明るい展望をまるで持てない筆者からすると「その選択はどうなん?」と首をかしげざるを得ない。
その香取さんと出会ったのはちょうど1年前である。
昨年5月の東京テキスタイル・マルシェ会場にひょっこり現れた。

「Tシャツ作りたいけどどうすればいいんですかね?」というすさまじくバックリとした質問を投げかけてきた。
一応、縫製工場はこの時点で岩手県の久慈市に目星をつけているようだったが、生地の仕入れ先をまるで知らなかった。

東京マルシェの会期が終わって、丸編み(Tシャツの生地は基本的に丸編みという編み方)生地に強い生地問屋を何社か紹介した。

最初は丸編み生地工場を紹介しようかと思ったが、工場はあくまでも工場でさまざま種類の生地を備蓄しているわけではない。むしろ、「こんな生地がほしい」というのが明確でないときは、さまざまな生地を備蓄している問屋のほうが選びやすい。
工場と直接やる場合は「〇番の糸を使ってこんな風に編んでほしい」というのが明確にあるときだけである。

どうも筆者のところに来るまでに何社かにはバックリとした質問を投げかけて断られた様子だったが、当然といえば当然だろう。

生地問屋各社で何種類もの生地を見せてもらったがなかなか決まらない。
というか香取さんが決められないのである。

筆者は基本的に薄い生地のTシャツは嫌いで分厚い生地のTシャツが好きである。
理由は汗かきなので夏だと薄地のTシャツはすぐボトボトになる。
だから夏に着るのは分厚い生地のTシャツにしている。薄地のTシャツは汗をかかない季節にシャツやニットの下に着ている。

しかし彼は割合に薄地のTシャツを好む。
ただ、ベルシュカあたりで販売されているあまりにも薄すぎる生地はいやだそうで、そのあたりのこだわりは本人の語彙力の乏しさもあって周りの人間にはなかなか伝わらなかった。

でそんな感じでグダグダしたまま11月になった。

正直なところ、この企画は流れるのかなあ?と思っていたが、11月に訪ねたところで「とりあえず気になる生地をいくつか選んでそれをサンプルに仕上げてみましょう。生地だけ見ててもわからないですよ」といわれ、なるほどそうだということで、サンプル縫製に入ってやっと動き始めた。

その後、彼はわざわざ縫製工場のある岩手県久慈市に引っ越してしまったので、今年に入ってからは会っていない。昨年の11月のサンプル縫製からそのあとどのようにして今の生地を選定したのかは詳細を聞けていない。

で、ネット通販用のサイトだがこれも当初の予定から遅れに遅れてしまって、傍から見ていてどうなることかと心配したが何とかオープンにこぎつけた。

サンプルが入っていた箱はこんな箱である。

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白と黒のVネックを1枚ずつ送ってもらった。

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白だけを洗濯して天日干ししてみたが、縦はほとんど縮まないが横幅はだいたい3センチほど縮む。
どんなTシャツでも洗濯して乾燥させれば、縮むのでこれは当たり前である。
ただ、縮み方にもさまざまあり、縦横ともに縮むTシャツもあるが、この「ナインオクロック」は縦にはあまり縮まないようだ。

FullSizeRender

そうそう、ブランド名の「ナインオクロック」だがその由来は、久慈産=クジ=9時=9’oclockというわけである。

そんな感じでようやく始まったブランドだがこれからどうなるのか予断を許さない。

彼の取り組みを一連サポートしてみて、いわばど素人ですらお金さえ払えばオリジナル商品が作れるという業界インフラの整備され具合に改めて驚いた。
ブランドを展開するには、シーズンごと・年間通じての商品計画が必要である。
これをマーチャンダイジングと呼ぶがこれがまともでないと「ブランド」として商品は売れにくい。
もちろん筆者も彼もマーチャンダイジング担当者(マーチャンダイザー)として仕事をしたことがないから、シーズンごと・通年でのマーチャンダイジングは組めない。

しかし、単品だけでよければ、業界の製造インフラは極度に整備されているため、ど素人でも製造することが可能なのである。

これは今に始まったことではなく、すでに2000年ごろには今とほぼ変わらない業界インフラが整備されていた。
2003年の時点ですでに、ある倒産したカジュアルメーカーのベテラン社長は「業界には製造インフラが極度に整備されているから誰でもすぐに物が作れる。この参入障壁の低さがこの業界の特徴だ」と話しておられたくらいである。

業界の製造インフラが整った理由は、政府や行政が整えたわけでもなく、大手の有志が理想を掲げて整備したわけでもない。
倒産やリストラ、独立が繰り返され、そういった人々が自衛のためにOEM/ODM企業を立ち上げた結果である。
いわば自然発生的に業界に製造インフラが整った。

単品を作るだけで良ければ、ど素人にだって簡単にできてしまう。
しかも品質は通常のメーカー品と変わらない。

じゃあ仮にも「ブランド」を名乗っていたら、それと同じレベルだと消費者から支持されないのは明白だろう。
ど素人の単品作りでは到底追いつけないブランドの強みとは何か?
そこを忘れて製造インフラに丸投げ依存しているから、現在のブランドの凋落があるのではないか。
製造インフラに丸投げ依存して原価率を下げることしか考えていない「ブランド」が凋落するのは何の不思議もない。