ファッション業界の説明では一般消費者を納得させられない
2016年6月6日 トレンド 0
一般の人から「ファッションは難しい」「ファッションは特殊」「ファッションは分かりにくい」と言われる所以は様々あるが、その中の一つの要因として「ダブルスタンダード」が挙げられるのではないか。
ある時期まで「これはNG」と言われていた事柄が、ある時期から「これが新しい」に変わってしまう。
これが一般の人には理解しにくい。
一般人の心境を代弁すると「お前、去年までその組み合わせはNGて言うてたやろ」というところである。
例えば、以前にも書いたことがあるが、2000年代前半までは、カーゴパンツ(両腿の脇にポケットがあるパンツ)とネクタイのコーディネイトはNGだと当時のメンズクラブに書かれていた。
その理由は、カーゴパンツは軍用アイテムでネクタイはエレガントアイテムだからこの組み合わせは避けたほうが良いということだった。
ところが、その数年後には同じメンズクラブが「カーゴパンツとネクタイの組み合わせが新しい」という記事を書いていた。
思わず誌面に向かって「どっちやねん!」と突っ込んでしまった。
ほかにも、白い無地Tシャツとだぼっとしたデニムかチノ素材の膝上丈短パンを穿いた男性に対して「着こなしが地味すぎる」と解説した次の号で、ハリウッドの白人俳優がほぼ同じ服装をしていて、それに対して「シンプルなアイテムの組み合わせがかっこいい」と評論している雑誌もあって、これも「どっちやねん!」大賞を差し上げたくなった。
また、ファッション業界が信用を失う理由の一つして、トレンドの説明姿勢が「いいかげん」ということも挙げられる。
今現在のズボンは股上が浅めである。
これをローライズと呼び、2000年ごろに登場した。
90年代と比べると少なくとも5センチくらいは股上が男女ともに浅くなっている。
もし、今、お手元に90年代のズボンがある方は一昨年くらいに買ったズボンと股上を比べてみてほしい。
5センチ前後は一昨年のズボンのほうが股上が浅いだろう。
2000年ごろにレディースで大ブームとなり、その数年後くらいからメンズのマス層にも波及し始めた。
2000年ごろに各ジーンズメーカーを取材した際、ローライズなるものを全く初めて見た筆者は、そのメリットを訪ねた。
例えば動きやすいとか脱ぎやすいとかそういうメリットである。
各メーカーの答えは「着用者の足が長く見える」で共通していた。
筆者はなるほどそうなのかと一応は納得した。
時は流れて。
それから16年が経過している。
一昨年の2014年ごろからウエスト位置が高いハイウエストパンツがレディースで復活し始めた。
若い層には目新しいかもしれないが、80年代・90年代はハイウエストが標準だったから、オッサン世代にとっては「懐かしい」と映る。
(90年代の標準だったハイウエストジーンズ)
で、ハイウエストのメリットについて各メーカーは「ウエスト位置が高くなるので足が長く見えるのです」と答えている。ファッション雑誌の解説もほぼ同様だ。これも「どっちやねん!」大賞である。
個人的な意見を言えば、足の長い人は何を穿いても長く見える。反対に足の短い人は何を穿いても短く見える。
腰の位置が高くついている人がいる。こういうひとはハイウエストだろうがローライズだろうが何を穿いても長く見える。
腰の位置が低くてお尻の位置が低い人がいる。こういう人はハイウエストだろうがローライズだろうが何を穿いても短く見える。
もっというとハイウエストを穿いたら、前からみると足が長く(正確には下半身が長く)見えるかもしれないが、例えば横や後ろからみたときは、ウエストの最上位からお尻までの間が長く空きすぎて、逆に足の短さを強調することになる。
ローライズならお尻のすぐ上がウエスト位置になるので、間が長く空きすぎて不格好ということは避けられる。
ただし、ウエスト位置がかなり下になることは避けられない。
どちらにしても足が短い人はそれなりに短く見えるということであり、こう考えると、顔の中身が良くて体型の良い人が一番洋服を着てかっこよく見えるといえる。
こういう「どっちやねん!」的な解説は結局のところ、消費者を納得させることはできにくいし、消費者はファッションに不信感を抱く。
ズボンの太さにしても同じで、ワイドパンツがトレンドに浮上したといっても、細身のスキニーの着用者もまだまだ多いし、売り場でも売られている。
太もも部分はそれなりにゆとりがあって、裾が狭くなっているテイパードも売られている。
販売員でこんな人はいないか?
「ワイドパンツがトレンドなんですよ」と勧める傍らで、「やっぱり細身のスキニーは外せませんよね」などと勧め、さらに「テイパードもトレンドですよ」なんて言う人。
こういう販売員はお客を混乱させるだけではないか。
ちょっと詳しい人なら、ワイドパンツにはこういうトップスを合わせて、スキニーにはこんな感じ、テイパードならこういうまとめ方が良いかな、と自分でプランを立てられるが、そうではないお客のほうが多い。
そうではないお客からすると、どのズボンがおすすめなのかまったくわからない。
こうして「ファッションてわかりにくいわ」ということになる。
その結果、ベーシックでちょっとトレンドがあって、しかも失敗しても痛くないくらいに低価格の洋服が喜ばれるようになる。そう、ユニクロとか無印良品とかである。
知識があやふやで平気でダブルスタンダードな説明をするデザイナーや雑誌編集者、販売員が跳梁跋扈しているから、高い洋服が売れなくなったともいえる。ややもするとそういうブランドは経営者や幹部自体が同じレベルである場合も珍しくない。
そんなあやふやな経営者が、あやふやなスタッフを通じて服を作って、あやふやな販売員が販売して、あやふやな雑誌があやふやな内容の記事を掲載しているのだから、消費者から見放されて当たり前だろう。
家電製品や自動車の企画・製造・営業スタッフと販売スタッフに比べると、如何にあやふやな業界かがわかるのではないか。
この一点だけでもファッション業界は負けるべくして負けたといえるのではないか。
こういう、いい加減なダブルスタンダードな体質を改めない限りは消費者がファッションを信用することはないのではないか。