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南充浩 オフィシャルブログ

繊維の製造加工業は外野が想像するよりも自動化・省人化は進んでいるが・・・

2023年8月10日 製造加工業 3

世間はそろそろお盆休みである。もちろん多くの小売店や飲食店はそうではない。

そんなわけで明日から15日まで更新しないでおく。

 

何年も前から言われていたが、コロナ禍以降、国内のあらゆる分野で人手不足が顕在化している。移民を受け入れたがっている人もいるが、欧州の暴動の惨状やアメリカの暴動を見ていると、安易な移民受け入れには当方は反対である。

とはいえ、外から持ってこなければ人口は増えないから、人手が今以上に増えることはない。それを克服するには今以上の機械化・自動化を推し進めるほかない。

 

もうだいぶと前になるが、獺祭という日本酒が杜氏無しでコンピュータ制御で作られているという記事が盛んに掲載された。例えばこれ。

最高の酒に杜氏はいらない 「獺祭」支えるITの技 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

「実は経営危機の時に杜氏(とうじ)に逃げられてね。社員だけで酒造りに挑むしかなかった」と桜井社長は打ち明ける。

(中略)

象徴が検査室だ。酒造りの全行程で詳細なデータを取り、検査室のパソコンに蓄積して分析することで、酒造りの最適解を見つけ出してきた。日本酒は、米を麹で糖化させる工程などを経て「もろみ」にして、それを酵母で発酵させて造る。

という具合だ。

要するに専門職である杜氏が集められなくなり、仕方なくコンピュータ制御に切り替えたというわけで、この切り替えには相当の時間とコストがかかっている。最初からうまく行ったわけではない。

 

この獺祭という日本酒が美味しいかどうかは、人間の味覚の好みの問題なので意見は当然分かれるだろう。不味いという人がいてもそれは不思議ではない。そういう人がいるのも当然である。

ただ、この日本酒がそれなりに世間的には評価されているから最大公約数的なおいしさは最低限確保できているのだろうと思う。だったらそれで当方は十分だと思う。

杜氏が集まらなくなった原因については、もちろん後継者難ということが前提にあるのだろうが、それだけではないだろう。他の酒蔵には杜氏がいるわけだから集まらないには集まらないなりの原因が酒蔵側にもあるのだろう。

とはいえ、そこに固執していても物事は何も前には進まないので、コンピュータ制御に切り替えるという酒蔵側の判断を当方は否定しない。

「暗黙知が云々」とか批判する人もいるが、杜氏が確保できないなら暗黙知ガーと言い募っても時間と体力の無駄でしかないから何を言っているのかわからない。(笑)

 

個人的には、人手不足のあらゆる分野はこの酒蔵のように機械化・省人化・自動化を推し進めることが良策だと考えている。

 

さて繊維業界の製造加工業についても機械化・自動化・省人化を進めるべきだと思っているし、そういう意見を業界内からもよく聞く。

しかし、製造加工業のエキスパートには遠く足元にも及ばないが、年に何度かくらいは国内で工場見学に招いていただくことがある。

その際、実際に工場の現場を拝見すると、世間一般が持っているイメージよりもずっと人員が少ない。恐らく80年代末期まではもっと多くの工員が従事していたのだろうと思うが、後継者難などで少なくなったままなのだろう。そして少なくなったままで稼働させるためには、かなりの部分をすでに機械化・自動化してしまっているというのが現状だといえる。

 

4月・5月と三備地区の工場を回らせてもらう機会にめぐまれた。

工場ごとに大小の規模はあるが、例えばセイショク、山陽染工あたりは大規模工場だと言って差し支えないと思うが、大きな工場の中には驚くほど工員の数は少なめだった。逆にあの工場現場を実際に見てみると、機械化・自動化が遅れているとは口が裂けても言えないだろう。

もちろん、従来の大規模工場から縮小した工場もあったが、この2工場に関しては現在も規模を維持しているが、中で従事している人数はどうだろうか、目についただけでも20~30人弱程度ではないかと思う。

工場の建物内の人口密度は驚くほど低い。

ニット業界では一体成型の編み機ホールガーメントが自動化の1つの手段として長らく注目を集めている。このホールガーメントに対して省人化は怪しからんという意見もあるが、怪しからんと言ったところでリンキング工場は減少しているのだから、受け入れないと仕方がない。

 

これらの状況を鑑みると、当方も含めた外野が想像しているよりも繊維の各工場は機械化・省人化・自動化が行き渡っていると考えられる。

とはいえ、逆に完全に無人で工場や機械を稼働することはできない。最低限の人員は必要になる。獺祭の酒蔵だってコンピュータを管理する人間は最低限必要になる。

また他の分野でも同様で、土木の工事現場だってかなりの機械化が進んでいるが人間の手が必要な工程はあるという。

ホールガーメントだってスイッチオンで無人で編んでくれるわけではない。こちらもコンピュータを操作できる高度な知識を持った人員は必要になるという。

となると、様々な分野で最低限何人かの人間の手は今後も必要不可欠だということになり、機械化・自動化を進めるのもあと何%程度という話ではないかと推察する。

この辺りのバランスを考えるのはそれこそ各分野の専門家ということになるが、どの分野でも当方も含めた外野が想像するようなスイッチ一つで何でもできるような機械化・自動化は漫画やアニメの中だけということを熟知しておく必要があるだろう。

そんなわけでお盆前もテンション低く締めくくってみる。(笑)

 

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 comment
  • sip より: 2023/08/12(土) 4:36 PM

    見出しに何故か興味を持ちました。
    記事の中で、
    実際に工場の現場を拝見すると、世間一般が持っているイメージよりもずっと人員が少ない。恐らく80年代末期まではもっと多くの工員が従事していたのだろうと思うがとありました。
    せっかく工場を見学できたのすから、80年代末の人数を工場関係者に取材していただけていたら、自分にとって過去と今の変化をイメージしやすくなります。ただ繊維に関して関心を持たせていただけた記事です。

  • 読者 より: 2023/08/17(木) 1:54 AM

    コンピュータ化を進めて効率が向上し利益率が上がる。
    他方、人がいなくなるとその業種の知見が低下するし改善をしたりさらに新規に発展させることが難しくなる。
    IT化を進めつつその後の発展性も考えないと事業が行き詰まる可能性が高まってしまう。
    でも効率上げないと他社に負けて事業そのものがなくなるしで難しいですな。
    日本の電気業界とかそんな感じで知見が低下して会社が衰退していった気がする。

    欧米企業はそういうのが上手い気がするが、たんに失敗した企業が淘汰されていなくなっただけなのかも。
    南さんの記事読んでなんか考えてしまったな。
    経営判断はいつも難しい。
    先日ソニーを再生させたという人が自分の判断では後悔してることばっかりだと言っていた。
    たしかに髪の毛真っ白。
    我々は結果だけみてあーだこーだ言うけど、当事者は色々悩んで後から悔やむことも多いのだと思った。

  • とおりすがりのオッサン より: 2023/08/17(木) 11:25 AM

    毎度、自分の業界の話ですが、うちの金属加工工場なんかでも、知らない人から見たらボタン押したら機械が勝手に金属削って加工してくれてるように見えるし、同じ工場内でも事務職の人なんかは正にそう思ってて、ひどい人になると紙の図面を機械に入れたら勝手にモノができるとまで思ってたりしてビビります。

    実際には、図面には書かれていない寸法を計算して出したり、プログラムを作ったり、刃物を選定して機械にネジで取り付けたり、機械のネジの締め付け具合を人間の感覚で調整したり(もう21世紀なのに!w)と人間居ないと出来ない作業がいっぱいあって、ロボットがロボットを勝手に造っちゃうような未来は何百年も先の話な感じっす。

    うちにはありませんが、よく映像で見るようなロボットアームなんかも最初は人間が動作をプログラムしないとダメで、人身事故が起きるのはそういうティーチングのときが多いとか聞きました。

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