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南充浩 オフィシャルブログ

トンでも理論に閉口

2014年9月2日 未分類 0

 先日、久しぶりにお会いした方がいる。
実際にお会いするのは1年弱ぶりだが、電話やメールなどでやり取りしているからそれほど久しぶりという印象はない。

その方が、今度、某産地企業の製品化ビジネスを手伝うことになったそうだ。
ビジネスといってもこれから自社生地を使った製品を考えていくという段階なので、
製品開発の手伝いと言った方が正しいだろう。

なぜ、産地企業が製品開発に乗り出したのかというと、助成金・補助金の申請が認可されたからである。
筆者は別に補助金・助成金のすべてが悪いとは思っていない。
それを使って製品化に取り組むのも悪いこととは思っていない。

ただ、ちょっと安直だとは思うし、補助金・助成金で製品化に乗り出して、その後も製品ビジネスを続けている産地企業の方が少数派だというのが実情である。

そして、その方は「実際のところ、今の某産地内で自社でリスクを取ってでも製品化しようと考えている会社なんてありませんよ」と指摘されたのだが、まさにその通りだろうと思う。
別にその某産地に限らず、産地全体に通じる機運だろうとも思う。

産地企業の製品化に実際に何度か参加した感想でいうと、まず、
「その商品を買ってくれる市場がどれくらいの規模で存在するのか」という視点があまりない。

「〇〇という生地を使って××という商品を作ったら面白いだろうからたぶん売れると思う」

だいたいこんなノリから始まる。

で、仮にその商品に対するニーズが一定数あったとして、そこに対して

いくらの価格で
どれほどの数量を供給するのか

そして、どこで販売するのか

という視点も欠落している。

価格は、単なる原価積み上げ方式で設定される場合が多いように感じるが、
果たしてその値段がその市場で通用するのかどうかは冷静に再考する必要があるのではないか。

ブランド価値を上げるためにあえて高い価格設定にすることもある。

それはそれで良いのだが、その高い価格で売るためには販促や広報が必要となる。
販促も広報もなくて、バカ高い無名のブランド品が売れるはずもない。

昨今は売れ行きに陰りが出始めているとはいえ、ルイ・ヴィトンがあの価格で売るためには、どれほどの販促広報費を使っているかを考えてみれば良い。

黙って並べて「触ればその良さがわかる」なんていう商法はほとんど成功しない。

また販路設定も重要だ。
百貨店なのかインターネット通販なのか量販店なのか、自前で直営店を構えるのか。

そして、最後にいつも首を傾げるのが、デザインを産地企業の社長自らが行おうとすることである。

社長にデザイン経験があればまだしも、まったくズブの素人なのに「OEMを手掛けているから他社のデザイン手法はわかっている。それと同じことをすればワシもデザインできる」という趣旨のことを言い放つことがある。
このトンでも理論には閉口するほかない。

以前、某染工場がグラフィック系デザイナーと組んで製品開発をしたことがある。
デザイナーが書いたグラフィックを自社で染めて製品にするわけである。
しかし、2年くらいしてデザイナーとの契約を解除した。
契約解除自体は普通にあることだから驚くには値しないが、デザイナーの後任は社長の息子だったという。
しかもその息子はグラフィックデザイン経験もなく、染工場で働いていた従業員だったというから驚きである。
素人の書いたグラフィックが売れるはずもなく、そのブランドの動向はその後聞こえてこない。

何でもかんでもデザイナーに依頼すれば成功するというものではないが、「代打オレ」ならぬ「デザイナー=ワシ」というのはさらに成功率が低下する。可能性はほぼゼロに近い。

これから製品化に乗り出す産地企業には、以上のようなことを念頭に置いて取り組んで、そして成功してもらいたいと思う。

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