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南充浩 オフィシャルブログ

セブンアイが百貨店を真っ先に売却するのは当たり前の判断という話

2023年3月10日 企業研究 1

セブンアイホールディングスからイトーヨーカドーの店舗数削減と自社アパレル事業撤退が発表されたが、各メディアの記事を読んでみても詳細はさっぱりわからない。

店舗数削減は不採算店を直近では14店舗、中期的には33店舗(年度の区切りによっては36店舗との報道も)と報道されているので、まあわからなくはないが、それでも見出しが14店舗だったり33店舗だったりと、各メディアがバラバラである。おまけに「年度」が見出しから抜けているから、すぐに33店舗削減と読めてしまう報道も多々あり、記事を書いている記者も見出しを付けるデスクも恐らくは流通の知識が少ないと考えられる。

さらに、「自社アパレル事業撤退」についてはもっと詳細が分からない。他社製品の販売を指しているのか、PBの企画生産販売を指しているのかさえ不明だ。

そこでセブンアイのIR発表を読んでみたがこれも「自社アパレル事業」とあるのみでハッキリしない。というよりハッキリしない記事の元凶はセブンアイのIR発表であることがわかる。

2023_0309_ir02.pdf (7andi.com)

 

そんな中、「自社アパレル事業撤退」について最もわかりやすく書いているのはこの記事だろう。

セブン&アイHDがアパレルから撤退 バーニーズ ニューヨーク事業は継続 (fashionsnap.com)

イトーヨーカ堂が展開するアパレルのうち、肌着を除く紳士、婦人、子どもの衣料品からの撤退を発表。そのほか、セブンプレミアムのアパレルアイテムなどについては現在協議中で、傘下である「バーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK)」事業は、今後も継続する方針だという。

とのことである。

大手総合スーパー各社は自社PBのアパレル製品を企画製造販売している。もちろん、生地工場や縫製工場は所有していないから、商社製品部隊や大手OEM業者を介しての生産(場合によっては企画デザインも)になることは言うまでもない。イトーヨーカドーも当然やっている。

というか、セブンアイの祖業であるイトーヨーカードーは元々洋品小売店なので、ヨーカドーはアパレルには昔から熱心で業界では「アパレルに強い総合スーパー」として知られている。もっとも、最近の若い業界人にはそんな認識はゼロだろうが、50代後半以上の業界人はその頃のことをご存知の方も多いはずだ。

現在、どれほどのアパレルPBが残っているのかわからないが、ピービ―アイとかグッデイとかその他数多くの自社開発ブランドを投入してきた。

オサレな業界人の皆様方が記憶しているだろう事案ならこんなのもあった。

 

ジャンポール・ゴルチエ×セブン&アイ、高感度なウィメンズウェアが登場 – 発売日にゴルチエが来店 – ファッションプレス (fashion-press.net)

 

セブン&アイ/世界的デザイナー高田賢三氏とコラボ | 流通ニュース (ryutsuu.biz)

 

しかし、全然売れなくてこの「セットプルミエ」というPB自体廃止となった。ちなみにこの商品もそごう西武と16店舗のイトーヨーカドーで販売されている。あべのキューズモール奥にあるヨーカドー衣料品売り場にも並んでいたが全然客が寄り付いていなかったことを今でも鮮明に覚えている。

恐らくはこの手のアウター、カジュアル、ファッション需要向けPBを廃止し、実用品である肌着類は残すということになる。

衣料品の自社売り場(いわゆる平場)まで廃止になるのかどうかはわからない。ただ、大手総合スーパー向けの量販店アパレルメーカーの多くはイトーヨーカドーは有力な卸先の1つなので、売り場自体を廃止することは無く、卸ブランドだけで平場売り場を構成するのではないかと個人的には考えている。

もし、平場売り場自体が廃止になれば、例えばグンゼとかカイタックファミリーとかクロスプラスとか、そういう大手量販店向け卸売りアパレル各社の経営が傾くことは必至といえる。

 

セブンアイはこれまでから、株主の1つでもある米国投資会社のバリューアクト・キャピタルからコンビニエンスストア事業に集中するように強い要望を突き付けられており、バリューアクトはイトーヨーカドーの切り離しも求めてきた。

セブンアイは、米国のコンビニチェーンである「スピードウェイ」の買収を2021年5月に完了させた。

 

これによって、セグメント別営業収益では、海外コンビニ事業(スピードウェイ)が59・0%を占め、国内コンビニ事業は9・9%の比率となった。バリューアクトが言うように、両方合わせて70%も営業収益を占めるのでこれに専念せよというのは理解できないではない。

2023_0309ks_01.pdf (7andi.com)

 

 

しかし、国内に限って言えば、コンビニが大きく伸長できる余地はほとんどない。コンビニ自体がすでに飽和状態であり、都心だとコンビニの向かいにもコンビニという出店が珍しくない。

セブンイレブンを今以上に国内で伸ばそうとするなら、ファミリーマート、ローソンのパイをさらに奪う必要があるが、それは難しいだろう。また消費者の視点でいえば、選択肢が3つあるからそれぞれに違う商品を楽しめる余地があるわけで、セブンイレブンだけになってしまうと、商品のバリエーションは激減し。それこそ飽きが来てしまう。

バリューアクトが疑問視するイトーヨーカドーなどのスーパー事業だが、セグメント別営業収益では国内コンビニを上回る20・6%もある。

スピードウェイ買収前なら31・1%を占める。

そして祖業がイトーヨーカドーということも考えると、創業家や現在の経営役員陣がイトーヨーカドーはなるべく温存したいと考えるのは極めて当然である。

 

そして、ファッションスナップの先ほどの記事では「バーニーズニューヨークは継続」と伝えられているが、そごう西武の売却はセブンアイ側から見ると、極めて当たり前の結論といえる。何なら当方はバーニーズニューヨークも売却してしまえば良いとさえ思っている。

セグメント別営業収益に戻ると、スピードウェイ買収前の百貨店・専門店は11・8%、スピードウェイ買収後は8・1%となっている。祖業であり営業収益的にも占有率の高いスーパーマーケットよりも百貨店を売却するというのは経営上全く正しい。

さらに言うなら、そごう西武は、かなり最近(そごう西武の買収は2006年)買収したにもかかわらず、百貨店業界の中でも特に収益性が低いまま低空飛行を続けてきた。2015年に買収したバーニーズなんて売り上げ規模が小さいからセブンアイからすれば焼け石に水だろうし、いまだに何のシナジー効果も見えてこない。

そして、百貨店という業態が全体的には成長性が全く見込めない業態(伊勢丹新宿とか阪急梅田のような単店舗での好調店はあるが)であることも合わせて考えると、そごう西武の売却という判断は極めて当たり前である。当方は、そごう西武を買収したこと自体が失敗だったとさえ見ている。

 

イトーヨーカドーが「食」を強化するというのは理にかなっており、肌着や靴下などの実用品を除いては大手総合スーパーに衣料品を期待している消費者は年々減っている。

また日本人は食へのこだわりが極めて強い。

日本人がセックスより気持ちいいと感じる「美味しいものを食べる」ことへの欲望(荒川和久) – 個人 – Yahoo!ニュース

アメリカ・イギリスフランスなど欧米諸国だけではなく、中国・韓国も1位は「セックス」であるのに対して、日本だけがなぜか「美味しいものを食べる」が1位である。

というアンケート結果があるほどである。

 

余談だが、日本人たる当方はこのアンケート結果には全く納得であり、当方は比較的食へのこだわりが少ない方だが、セックスをするよりは美味しい物を食べる方が心地良いというのは激しく同意できる。極言すれば当方はセックスできなくても全然困らないが食べ物が無くなると死んでしまうので困る。

ヨーカドーの食強化は理解できるものの、店舗数の削減については、その地域の住民にとってはかなり生活に大きな影響を及ぼしてしまうだろう。負の影響が及ぼされる人の数は相当に上るのではないかと考えられるので慎重に精査することを求めたい。

 

ハッキリ言って、困る人の数は西武池袋店からスーパーブランド店が無くなることよりもはるかに多いだろうし、食という生活の根幹にかかわる部分で困ることになるだろう。ヨーカドーの撤退こそは地域住民との丁寧な話し合いが必要となる。

 

 

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 comment
  • 読者 より: 2023/03/10(金) 10:31 PM

    これはキレッキレの記事やねさすがプロの記者さんとかオモタ。
    ニュースでなんか不明瞭やな思ってたことがクリアーなってて流石思いました。

    閉店店舗名が発表されてないのが不安感じたけど地元との調整が必要なんかね?
    小売業でも大規模だと閉店は簡単ではないのかな?
    イオンはイメージ悪いのか閉店でも全く気にせずバリバリやっていてそれは問題ない気がするw

    自分はグンゼの綿製品愛好してるのでグンゼ傾くとツラいなぁ。
    でもグンゼはイオンやユニー等よりドンキが一番安いので既存のスーパーは価格交渉力弱いんだろな思った。
    ドンキばっかり強いけどメーカーが儲からずやがて淘汰され世の中安物ばっかになるんだろな。
    そしてユニクロとしまむら・ワークマンとドンキだけになるのが地方の近い未来か…。
    日本は順調に貧しくなっているんだろうね。

    セブンも正しい経営判断とはいえ外資ファンドに圧力かけられて行動してるのが情けない。
    主体性がなくて行き当たりばったりな感じする。
    こんな経営陣だと百貨店売却もディールの詰めが甘いんだろうなぁと思ってしまう。
    今のセブンって焼畑農業というか前経営者の遺産で食ってる感じで収益は良いけど将来が暗いですな。
    弁当上げ底とか改良新発売で必ず量が減るとか良い印象がなく
    いまや企業としてはイオンの方がイメージ良くなった感すらある。

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