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南充浩 オフィシャルブログ

国内製造スペースがアパレル間で凄まじい奪い合いになっているという話

2022年12月13日 製造加工業 1

先日、久しぶりに児島に行ってきた。

洗い加工場や縫製、織布、地元のジーンズメーカーなどの近況を聞くことができた。昨年から国内工場の生産ラインが満杯になっていて、「サンプル生産さえできないブランドもある」という。

理由はこれまでの中国のゼロコロナ政策による相次ぐロックダウンによる工場停止である。また東南アジアの工場もこれまでロックダウンによる工場停止が相次いでいたこと、さらには電力不足による工場の制限などもあり、海外生産が非常に不安定になっていた。

これによって、昨年くらいから国内生産ムードが強まり、今年初めの円安進行によってさらに国産回帰ムードが強まったといえる。

だが、国内の生産キャパは増えるどころか減る一方なので、国内工場のラインから溢れてしまったブランドが多数生まれてしまったというわけである。

 

アパレル業界の川下の人間からすれば、資金を投資して、人を雇用して機械設備を増設すればいいじゃないかと考えるだろうが、それをやろうと思う国内工場はほとんどない。

だから今後も国内生産キャパは良くて現状維持で増えることは難しいだろう。

 

まず、雇用人数を増やすとなると、従業員の立場で想像するよりも投資額は大きくなる

だいたい給料の倍の支出が会社から発生すると言われている。従業員の給料を支払えばいいだけではなく、年金や健康保険料、雇用保険料なども支払わねばならない。

また、機械設備は基本的に何百万円以上の費用がかかる。最近だとミシン1台で最低100万円するという話になっているそうだから、例えば10台導入するとミシン購入費だけで1000万円の支出となる。そして当然ながらそれ以外の設備も必要になるからもっとお金がかかる。

織機や紡績機になるともっと金額は跳ね上がる。

 

しかし、国内生産の受注が活況であるなら、投資する価値はあるのではないか?と考える川下の人もおられるだろうが、その考えを支持する国内の製造加工業者はほとんどいない。

理由は、これまで何度も国産回帰ムードが漂ったが、それはいずれも長続きせず、コスト安を求めて海外に再流出してきたという過去があるからだ。

国内の製造加工業者は、去年から国産需要が高まっているが、いつ再び生産加工が海外へ再流出するかもわからないからだ。もっとハッキリ言えば、製造加工業者は昨年からの国内生産回帰ムードを全く信用していないということである。

このムードが今後、5年~10年くらい続くことが確約されているなら、投資に踏み切る国内製造加工業者も出てくるだろうが、そんな確約は無いから、人員雇用増と設備投資なんてまるでやる気がないのである。

個人的には、今後も最低でも3年後くらいまではどこの工場も雇用も増やさないだろうし、設備投資も行わないだろうと見ている。

 

ただ、今回の国内生産回帰ムードは過去の物とは違って、各ブランドとも本気度は少し高いように感じられるし、今後の中国への再流出も以前よりは少なくなるのではないかと感じられる。

理由は、中国を始めとする海外工場での生産の不安定さと物流網の不安定さが挙げられるだろう。

中国は政策によって、どう左右されるか分からない上に、台湾との有事も想定される。その際どのような措置が取られるのか全く不透明である。また電力不足も解消はされていない。

東南アジア諸国も国によって政情は異なるが、不安定な国もあるし、同じく今回のコロナ禍で物流が滞ったことがあった。

だから、海外で生産するといつ何時、物流が混乱するかもわからないという不安がある。

さらにいうと、為替が今後どのように推移するかも不透明である。現在は135円前後で落ち着いているが、また150円まで上がる可能性もあるし、逆に円高になる可能性もある。

まあ、某ハイパーなんたら氏が20年間主張して外し続けているように「1ドル300円時代」とか「1ドル500円時代」なんていうのは今後も訪れないだろうが。(笑)

ただ、これだけ為替が乱高下すると、海外生産がめんどくさくなることは間違いない。

 

それでもやっぱり国内の製造加工場のキャパは増えないだろう。

さらにいえば、従業員の確保や機械設備の問題もあるが、何よりも工場経営者が今後減ることが予想される。仮にいくら従業員がいて機械設備があったとしても、経営者がいなければ工場は運営できない。

現在、40代・50代の工場経営者もそれなりにいるが、当方の知り合いのその年代の工場経営者のほとんどは「息子や娘には継がせる気がない。70歳ぐらいで廃業したい」と言っている。

今後、気が変わることはあるかもしれないが、20年後には宣言通りに廃業する工場も多いだろう。逆に、今から工場を創業しようという日本人はほぼ皆無だろう。となると、国内の工場は減ることはあっても増えることはないから、国産を飛躍的に伸ばすことは物理的に不可能といえる。

 

今回のコロナ禍、ウクライナ侵略によって、海外生産の不安定さが長期間に渡って続いていることから、これまで理想とされてきた「欲しい物を欲しい時に欲しいだけ」調達するというクイックレスポンス体制を基軸としたSPAアパレルというのは、平時のグローバリズムが前提でなければ成立できないということが露見したといえる。

90年代~2010年頃までのグローバリズムこそ正義という考え方は今後修正されざるを得ないだろう。とは言っても、すべて国産ということも物理的には不可能なので、国産と海外生産のバランスを見ながらの生産とならざるを得ない。

 

今回、児島での製造加工業者を回った結果をまとめると、「なるべく在庫を持たないという形態のアパレルは今後、安定した商品調達は難しくなるだろうし、そういう形態のアパレルとは取引をしたくない。ある程度在庫を積みながら、年間通して注文のある旧来型アパレルと取り組むことをメインとしたい」という意見が多かった。

90年代半ばから2010年ごろまでのような世界の雰囲気には回帰しそうにないから、アパレルブランドの在り方も変容していくのではないだろうか。

 

 

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 comment
  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/12/14(水) 9:34 AM

    カッコイイ話はさておき、激安価格の商品は
    絶対に人件費の安いところに回帰します

    納期はしらんw安いんだから我慢しるw
    国としてはミャンマーでしょう

    問題は中~高価格帯の商品です

    フランス・イタリアはヨーロッパだから
    陸続きにルーマニアのような最貧国がある
    あとは旧ロシア圏など

    この「陸続き」というのが大事で
    輸送コストが安い上、裁断やプレスは本国で
    けど、技術がいらない直線縫いは海外で
    といった分業が可能です

    日本の場合「そこそこの技術がある第3国」
    が陸続きじゃないのがとても痛いわけです

    では国内となっても、南サンの指摘の通り
    品質管理がある程度できる工場は
    キャパオーバーです

    10年15年単位で北朝鮮を考える必要があります
    デフレ初期に重衣料はキタチョが注目されて
    いましたが、どうなることやら・・・

    芯地を縫い付ける必要がある作りの服以外は
    オール第3国です。この流れは絶対に止まりません

    納期もろもろを考えると、オール国内で成り立つのは
    パンツで上代3万~ 上衣で上代5万~ です
    今後はこの金額でも正直きびしいと思います

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