飽和によるDtoCブランドの失速は当然の結果
2022年12月9日 トレンド 0
案の定、DtoC(D2Cとも表記される)の勢いが無くなってきたと言われることが増えた。
直近でいえばこの記事。
Vol.20 D2Cブランド、SNSでバズること激減【SNSトレンドに、業界は「どうする」?】 – WWDJAPAN
これはコスメのD2Cブランドの凋落ぶりを指摘している。
最近は“飽和状態”です。最初こそインフルエンサーを起用したコスメブランドは新鮮だったし手頃で、ファンも手に取りやすくビジネスとしても相性が良いなと思いましたが、増えすぎたせいか鮮度は薄れ、ピークアウト感はいなめません。コスメという商材は、よほどプロダクトが良くないと差別化が難しいのも理由だと思います。SNSを見ていても、話題に上がることが減りました。
とある。
そういえば、最近、宮脇咲良とかいう女性がプロデュースするコスメブランドが開始からわずか1年間で終了するというニュースもあった。
たったの1年間で廃止になるほどだからよほど売れ行きが鈍かったのだろう。
ちなみに当方はこの宮脇咲良という人間が何者なのか知らない。
普通に考えて、衣料品のオリジナル品を作ることよりも、コスメやサプリのオリジナル品を作る方がよほどハードルが高いはずである。衣料品の製造も突き詰めれば特殊な技術は必要となるが、特殊な技術が無くとも普通に着用できるレベルくらいであれば、素人でも製造できなくはない。(シルエットの美しさとか型紙の工夫とかは除いて)
しかし、化学の知識が必要な上に肌に塗ったり経口摂取するようなコスメやサプリというのは、設備も資金も持たない素人がおいそれとオリジナル品を作ることができるような代物では元来ないはずである。
ろくに化学の知識もなさそうで、実験や治験などまともにやれているとも思えないようなド素人が開発したコスメやサプリなんて体に塗ったり経口摂取したりする蛮勇は当方には無い。
それならど素人が作った服を着る方がよほど安心安全である。
実際にど素人プロデュースのD2Cサプリはあちこちで様々な訴訟が起きている。売る側もアホだが買う側も考えが足りない。
コスメも衣料品もD2Cブランドはかなり飽和し、飽きられ、埋没しているといえる。
“飽和状態”、もっと言っちゃえば“ちょっと飽きてきた”カンジは、ファッション業界のD2C市場でも同様です。たとえインフルエンサーが手掛けていても、フツーじゃ売れないのは明らか。
という一文があり、それはその通りだが、これまで散々D2Cを煽ってきたこの媒体が何を他人事のように暢気に話しているのかと思う。
衣料品D2Cについて考えれば、小規模零細ブランドの有象無象が乱立しすぎて、コアなファン以外には見分けがつかないし、そもそもブランド名を一々記憶すらできない。
じゃあ、商品に物凄い特徴があるのかといえば、そんなこともない。あるのは嘘か本当なのかわからないイシキタカイ系のフィクションぽいストーリーだけだが、その各ストーリーすら似たり寄ったりである。
そもそもD2Cとはdirect to consumerの略で直訳すると「消費者に直接売る」という意味で、ブランドや製造業者がインターネット通販によって消費者に直接販売することで、流通段階の中間マージンを排除することで、割安な商品を提供できるという主旨だった。
ただ、当方にはこの主旨がそれほど画期的とは思えず、何がそんなに特筆すべきことがあるのかと当初から疑問しかなかった。
まあ、強いて挙げれば、縫製工場や生地工場がオリジナルブランドを立ち上げてそれが売れやすい販路となれば良いなと思っていた程度だった。
当初こそ、そういう製造加工業系D2Cが立ち上がったが、徐々にD2C市場は変貌していった。製造加工業者は基本的に消費者へ販売することが苦手である。そのため、目覚ましい売れ方をしたオリジナルブランドは少なかった。代わって雨後の筍のように新規参入してきたのが、売ることに長けた通販業者だったり、多くのフォロワー数を抱えたインフルエンサーと呼ばれるド素人たちだったりであった。
彼らは製造加工業者よりも売る力にははるかに長けているからあっという間にD2C市場を席巻した。ただし、作る力は皆無だから、コロナ前だと中国の広州市場、韓国の東大門市場あたりから買い付けてきた安い服を高値で販売するという手法が多く、コロナ以降はOEM業者・ODM業者に丸投げして製造した商品を販売することが増えた。まあ、一体どの辺りが「ダイレクト」なのかさっぱりわからないが。
某OEM業者によると、「インフルエンサーブランドは売れ行きが確かに好調だが、その寿命は短い」という。ただし、3年くらいでポシャってもまた別のインフルエンサーブランドが伸び、また3年くらいは売れてそして消える、というサイクルを繰り返しているという。素人が作ったオリジナル品なんて3年もやればアイデアが枯渇してしまうから、極めて当然の結果だといえる。
この飽和と飽きによるD2C市場の凋落は、少し内容が異なるかもしれないが、当方には「高級食パンの凋落」と重なって見える部分が多い。
「このままでは自己破産するしか…」高級食パン「乃が美」運営会社にフランチャイズ店オーナー有志が“要望書”を提出 | 文春オンライン (bunshun.jp)
「この30カ月ぐらい、12月の繁忙期を除きずっと赤字が続いています。にもかかわらず、乃が美ホールディングスと、同社に出資するファンド『クレアシオン・キャピタル』が本部の収益を維持するため、FCオーナーから徴収するロイヤリティを下げようとしないのです。経営に行き詰まり、『このままでは自己破産するしかない』と考えるオーナーが相次いでいます」
とある。
乃が美に限らず、おかしな名前の高級食パン店も少し前に閉店ラッシュが報道された。
元来食パンというのは日本人にとって主食の1つで、毎月膨大な量を必要とする。毎日食べる物にそれほど金をかけられる人間は本物の富裕層か宵越の金は持たない主義の変わり者かのどちらかだろう。もちろん、ギフト需要や自分へのご褒美需要などはあるが、それは毎日発生するものではない。
となると、高級食パンという商品に対する需要はゼロではないが、決して大きなものではないということになり、その市場は小規模にならざるを得ない。
そんな小規模な市場に何ブランドもが殺到し、出店数を増やし続ければあっという間に飽和してしまう。D2Cの飽和と似ていると感じる。高級食パンの凋落もD2Cの失速も極めて当然の結末である。
高級食パンは当方は興味の範囲外なのでどうなろうと知ったことではないが、D2Cブランドの方は仕事という観点からは多少の興味を持って眺めている。D2Cという言葉はすっかり手垢にまみれて聞き飽きた言葉となってしまったから、今後は地に足のついた業者が細く長く続けられる小規模市場として落ち着くのではないかと思っているがどうだろうか。
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