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南充浩 オフィシャルブログ

購入単価が1万円上昇したから27万円の商品を投入するという意味不明なオンワード樫山の施策

2022年9月28日 企業研究 4

基本的に売上高というのは、客単価×買い上げ客数である。

売上高を増やすには客単価を上げるか、買い上げ客数を増やすか、その両方を上げるかしかない。そのため買い上げ客数が増えにくい分野や商品、サービスは客単価を上げるほかない。

カジュアル服には時折「ブーム」というものがやってきて、ある品番だけやたらに買い上げ客数が増えることがある。2022年現在は、昔ほど「大ブーム」は起きなくなったが、レディースカジュアルでは局地的に見られるし、メンズカジュアルでも時々ある。

だからカジュアルは客単価を上げなくても買い上げ客数を増やすことで売上高を増やせる場合がある。カジュアル分野は価格値上げよりも「売れ筋」「ブーム」を仕掛けて作り出すことで売上高を増やそうとする傾向が強いのはそのせいかもしれないと思う。

 

一方で、かつてはクラシコイタリアブームなんかがあってブームを起こすことによって買い上げ客数増加が見込めたが、クールビズ以降、ますますビジネスウェアがカジュアル化しているため、今ではメンズスーツでは一時的にせよ買い上げ客数を飛躍的に増加させられる手段がない。

そのため、メンズスーツは今後、いかに客単価を上げるか、値引きを少なくして売るか、が課題となる。

客単価を上げるにはセット販売というやり方もあるが、単純に高額な商品を売ればいいということでもある。この報道にはそんな意図が感じられる。

手軽で値ごろなオンワードのオーダースーツ店 「ヘンリープール」の最高級品を展開

オンワードパーソナルスタイルのスーツを主軸とするオーダーメイドブランド「カシヤマ(KASHIYAMA)」は、英高級紳士服「ヘンリープール(HENRY POOLE)」のオーダー商品の展開を、都心8店舗で10月1日からスタートする。

商品価格帯はオーダースーツが27万5000円〜、オーダージャケットが17万6000円〜、オーダースラックスが9万9000円〜、オーダーコートが33万円〜。

 

とのことで、このカシヤマは基本的には3万円台からの低価格イージーオーダースーツを販売している。

客単価を上げるには高価格品を売ればいいという考え方での導入だろうと思う。また高級品を置くことで、すぐには売れないまでも啓蒙活動を行い、草の根で認知度やニーズを高めて行こうという狙いもあるのだろうと当方は推測する。

しかし、3万円のイージーオーダー店に27万円のイージーオーダーを置いて売れるとは到底思えない。もちろん、見せることによる啓蒙活動という一環は否定しないが、すぐに効果が出るものではなく、中長期的な視点で捉えることが必要になる。

 

ただ、この記事で最も驚かされたのが、次の導入理由の一節である。

 

新型コロナ禍でスーツの購買そのものは目減りしているものの、「少ない着用シーンのために高品質なスーツを購入する方が増えている」と同社。「五大陸」など同社グループの紳士服ブランドでは、客一人あたりのスーツの平均購入単価はコロナ禍以前から1万円弱上昇しているという。

 

とのことだが、特に赤字の部分を読んで「そら、そう

やなあ」と納得できる人がいるのだろうか?恐らくほとんどいないと思うし、納得できるという人がいるならちょっと脳構造を見てみたいと思う。

1万円弱購入単価が上昇しているから、単価の高い商品を投入しましょうという提案は理解ができる。当方が担当者でもそのように提案する。

しかし、理解できないのが、27万円のイージーオーダーを投入した点である。

もちろん記事というのは必ずしも会見やインタビューを完全に反映させているわけではない。マスコミによる切り貼り報道なんて日常茶飯事である。

だから、この記事にもそういう可能性があったということは全否定できない。

それでも、出された文書を公式なものとして判断するなら、この理由付けは全くおかしいと言わざるを得ない。

 

購入単価が1万円弱上昇しました → だから27万円の商品を投入します

 

単純に図式化すればこうなる。「だから」が意味をなしていない。

通常の考え方なら、購入単価が1万円弱上昇すれば、1万円~2万円高い新ラインを投入するだろう。確実に売れそうだからである。

しかし、27万円の商品を投入しても意味は無いと普通は判断する。何せ金額が違いすぎる。

「1万円くらい余分に払えるでしょ?」とは言えても「27万円くらい余分に払えるでしょ?」とは到底言えない。そんなことが言える営業マン・販売員がいたらよほどの強者か馬鹿かのどちらかである。

 

ビジネスで物事を決める時にはそれ相応の「理由」が必要となる。そのため大義名分をでっち上げることもある。今回の「購入単価が1万円弱上昇した」というのは27万円を導入するための「理由付け」だったと考えられるのだが、それにしてもこの「理由付け」はあまりにも雑過ぎるだろう。またこの雑過ぎる理由付けでイケると判断したオンワードの経営陣はどういう思考をしているのだろうか。理解に苦しむ。

 

当方がもしオンワード経営陣で、客単価を上げるために高い価格の商品を投入するとしたら、5万~7万円の価格帯のラインを新たに投入する。5万円なら3万数千円のイージーオーダーを買いに来たお客にも手が届くだろうし、上積みできる範囲といえる。で、さらに上の価格帯を投入するなら、上限を税込み99000円か税込み10万円に設定する。3万数千円のお客からすれば随分と高額だが、それでも出せない範囲ではない。これが10万円を越えてしまうとその層にとっては「最早別世界」と感じられるだろうが、10万円でおさまる・おつりが来るというなら、心理的には買いやすいだろう。

 

当方はキッチリしたスーツを買う際、安ければ安いにこしたことはないが、5万円を上限に設定している。カシヤマの3万数千円とかツープライスの2万円前後なんていうのは当方の金銭感覚にマッチする。その当方が売る立場になったと考えて客単価上昇を企画するなら5万~7万円を投入して、最高級で10万円ジャストを投入する。それを越えると当方にとって「最早別世界」の価格帯となる。

アパレルの人は変態的洋服好きが多いから、恐らく「あのヘンリープールやで。普段3万のスーツしか買わない人でも27万円くらい出すやろ」と考えているのではないかと思うが、実際にヘンリープールの知名度はマスにはそれほど高くないし、3万円のスーツを買う人が27万円のスーツを買うことはない。もっと現実を見てはどうか。

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2022/09/28(水) 11:31 AM

    ヘンリープールのオーダーってイージーオーダーなんすかね?
    採寸だけ日本でやって、イギリスのヘンリープールで造ってくれるってサービスなのかと思いました。仮縫いとかどうするのか不明ですが、それだったら需要はあるんじゃないかなぁとも思います。でも、KASHIYAMAの店舗にフィッターだけ居るんじゃ富裕層には刺さりそうもないから、全然客が来ずに数年で無かったことにされそうな気もw

  • とおりすがりのオッサン より: 2022/09/28(水) 1:38 PM

    でも、27万円じゃ本国ヘンリープールで造るには全然安すぎだろうから、イージーオーダーなんですかね?
    だとすると、一人も客が来なくて終わったりしてw

  • BOCONON より: 2022/09/28(水) 8:03 PM

    “とおりすがりのオッサン” 氏の言う通りで,「オーダー」 ってどういう意味で言っているのやら,元のWWDの記事を読んでもまったく判然としませんね。スーツ1着27万円なんてイージーオーダーの価格じゃない(よほど凝った生地を使うなら別ですが)。比較的お高くない日本のテーラーならフルオーダーで1着作れる価格だ。洋服に詳しい人ならそっちを選ぶでしょう。

    と言ってまさか本当のヘンリー・プールのフルオーダーを日本で引き受ける,なんて話ではさすがにないと思う。確かにそれにしては安すぎるし,そもそも本国のお店の店員でなければフィッティングもできまい。その上三笠宮寛仁親王と服部晋氏が語っていたように,そもそも英国のテイラー(昔松坂屋に出店していたH.プールの英国人職人でも)には日本人体型に合わせる技術,あるいはその気がない。それならたしか昔樫山がライセンス生産していた日本人向けのヘンリー・プールブランドの既製スーツの方がたぶんずっとマシである。

    もしかして “ヘンリー・プール” というのはブランド名だけで,実際はどこかの日本の(英国調を得意とする)テーラーに出すのだろうか。・・・それも変な話だな。
    それともH.プールも経営が傾いて日本からのイージーオーダーだかパターンオーダーだかを引き受けるほど窮地に陥っているのだろうか。
    いづれ金持ちの道楽みたいな世界の話だからどうでもいいようなものですが,僕なら10万円程度ながら徹底して僕の体形に合わせかつ体形の欠点を補正して見栄えがするように作ってくれたティモシー・エベレストあたりを選びますね。池袋西武からは撤退してしまったのがまことに残念であります。

    スーツの客一人あたりの平均購入価格が1万円程度上がった,というのはある意味当たり前ですね。MACKINTOSH LONDN その他おじさん向けブランドの店頭にはもうスーツなんて大して並んでもいないし,あってもたいへんに高価で「店頭のスーツやジャケットを見本にしてオーダーでどうぞ」と云った風になっている。そういうものを注文する奇特なお客がそんなに沢山いるわけもない。オジサン向きでなくても,百貨店のスーツ売り場はたとえば東武は全体としては縮小する一方だから,あんまりお安いスーツなんて並べている場所もない。西武は高級店路線だから結果としては同じようなもの。つまりは分母が小さく分子が大きくなった,というだけの話であります。

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/10/06(木) 10:18 AM

    「デパートのオーダーサロンを樫山がやるようになった」

    という事だけでは?

    にしても、この記者・取材力無杉
    商品の具体的内容についてなにも触れてないのがね・・・

    既存の樫山ネームのEOとの違いは

    1.仮縫あり
    2.服地の選択肢が多い
    3.縫製は手縫行程が多い工房

    なので、既存の樫山EOとは「完全な別物」の商品です

    樫山は、紳士服が工房直売方式が主流だった時代に
    吊るしの既製服をやって会社を大きくしましたが
    今、逆のルートで売上を取るという事ですな

    もっとも樫山が直接雇用している人間で手仕事を
    する人はいないだろうから、外の会社に職だしする
    のは間違いないでしょう

    樫山は手仕事比率が高いグレードの縫製ができる
    工場は持っていない筈です

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