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南充浩 オフィシャルブログ

デジタル化とかDXとかは「目的」ではなくて「手段」に過ぎないという話

2022年8月22日 ファッションテック 1

2020年のコロナ禍による実店舗の長期営業停止によって、強制的にではあるが一気に国内のネット通販が浸透した。

衣料品もネット通販比率が20%ほど高まったが、2022年現在ではそこから伸び悩みだいたい横ばいで推移する。

当方は、これが現時点での衣料品のネット通販需要の限界点ではないかと思っている。青天井に無制限にネット通販へ日本の消費者は転向するわけではない。

アパレル各社もそろそろネット通販の伸び代に上限が見え始めているのではないかと思うが、コロナ前の2019年まではまだ楽観論が衣料品業界の大勢を占めていた。

そんなに知名度もなく、実店舗での売れ行きも苦戦傾向の有象無象のアパレル経営者が

・「ネット通販なら売れるらしい」

・「ZOZOに出店すれば(必ず)売れるらしい」

という謎の楽観的意見を声高に叫んでおり、当方も何度か実際に耳にした。

もちろん、商圏エリアが定まっている実店舗に比べると、世界のどこからでもアクセスできるネット通販は「上手く行けば」圧倒的に売れる可能性はある。

だが、ネット上にショップは星の数ほどある。どうして知名度も無いブランドの店をわざわざ検索してまで訪れる客がいるというのか、それ以前に、知名度が無いなら検索されることさえないのである。検索されないのだから当然来客もない。これがネット通販の実態である。

実店舗で売れない物がネットで売れる可能性は低い。逆にネットで売るか実店舗で売るかは手段の問題であって目的ではない。売れるならネットで売ろうが実店舗で売ろうがカタログ通販で売ろうが何でも構わない。

我が国の繊維アパレル業界はメディアも自称識者もいつも「手段」のことばかり話題にして「目的」を考慮しない。必然的に業界の実務者もそちらに引っ張られることとなる。

 

 

ネット通販への注目度が高まるとともに、デジタル化・IT化が商売の肝だという論調が支配的となり、その集大成としてDX(デジタルトランスフォーメーション)が不可欠だということになった。

そして、毎度のことながら

・デジタル化すれば売れる

・DXすれば売れる

みたいな論調が支配的となってしまった。支配的となってしまったというのは当方の主観ということになるが。

だが「目的」があやふやなままでデジタル化しようがDXしようが売れないし、そもそもデジタル・DXという手段を成立させることを第一義としたところで、消費者の行動やニーズ、生活スタイルにマッチしていなければ営利的なビジネスは成り立たない。

そんな事例が飲食業界であった。

IT駆使して人気だった「ブルースターバーガー」なぜ閉店? プロが指摘する「接客不要」の落とし穴:長浜淳之介のトレンドアンテナ(1/7 ページ) – ITmedia ビジネスオンライン

である。

かなりの長文なので抜粋して引用したい。

ブルースターバーガーは、ITを駆使した「超スマートモデル」が特徴。オーダー・決済・受け取りまで、全てを完全非接触で実現する、ニューノーマル時代にフィットしたテークアウト専門のプチグルメバーガーを標榜。オープン時の圧倒的なにぎわいから、日本発の世界ブランドを目指す、外食DX(デジタルトランスフォーメーション)の成功例ともてはやされた。

 

しかし、店舗数は思ったように伸びず、今年になって次々に閉店。最後まで残っていた創業店の中目黒店も閉店してしまった。わずか2年足らずの短いブランドの命をあっけなく終えた。

 

とある。

クリックして全文を読むのがめんどくさいという方のためにシステムを説明した箇所を抜粋する。

 

ダイニングイノベーションは完全キャッシュレスを実現するために、モバイルオーダー&ペイシステム分野で豊富な実績を持つ、Okage(東京都中央区)と共同で、独自のモバイルオーダーシステムを開発。

オリジナルアプリまたは、店頭のタブレットで、商品を注文して決済すると、受け取り番号が発行される。そして、受け取り時間が来ると、店頭にあるピックアップ専用棚より、セルフで商品を受け取る仕組みになっていた。

店内はテークアウトに特化した効率的なレイアウト。顧客はでき上がった商品をピックアップするだけなので、イートインスペースが不要。接客サービスも不要だ。

 

とある。

しかし、現実は彼らの理論通りには行かなかった。

まず、我が国は現金比率が高いため、完全キャッシュレスは早々につまずいて現金専用レジを設置するようになった。またテークアウトに特化と言いながら、後日にはテーブル席が50席ほど設けられるようになった。

完全キャッシュレスが上手く行かないことは、事前に我が国の現金比率の高さを鑑みれば簡単に分かることだが、その現実を無視したため破綻したといえる。

またテークアウト特化だが、第1号店が中目黒、その後、東京立川市、渋谷、兵庫県神戸市などに出店しているが、いずれも都心である。都心でテークアウト専門にする意味があるのだろうか?2020年のコロナ自粛期間ならまだその需要もあったかもしれないが、店頭に行って注文している人間がわざわざテークアウトして自宅まで持ち帰るなんていうことはしないだろう。また近隣の公園で食べたとしても最近はゴミ箱がほとんど設置されていないから、食べ終わった後のゴミの処理に困る。自分なら絶対に利用しない。

結局は理論が客のニーズや生活スタイルに適していなかったから支持されなかったということになる。

中目黒店オープン時には黒山の人だかりができたと記事に書かれているが、じゃあその人達がなぜリピーターにならなかったのかを考える必要がある。

要するに、デジタル化は「手段」であるにもかかわらず、この店はデジタル化を「目的」として設立されたからなのではないかと当方は考える。当方の目には経営者が「デジタル化をやりたいがために作った店」というふうにしか見えない。

この店の事例は、繊維・アパレル業界でも研究すべきだといえる。

IT化・デジタル化・DXをやったって売れない物は売れないし、やらなくても売れるならやらなくてもいい。ただし、社会環境や経済環境は時々刻々と変わるので、それに対する対応は必要不可欠である。そういうシンプルな話だと当方は考えている。

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2022/08/22(月) 12:53 PM

    ブルースターバーガーってダイニングプランニングの社長が、大学生の息子の道楽でやらせたような会社みたいじゃないですか。

    今年の前半までは、メディアで取り上げられていたみたいですけど、口コミサイトちょっと見たら、
    「12時前にアプリで注文したけど、商品受け取り時間は15:30〜しか選択できなかった」
    「肉に赤いところが残っていた。大丈夫なのか?」
    「ポテト好きだけど、味が濃くて残してしまった」
    「記載されている受け取り時間に行ってもまだ出来上がっていない」
    「ドリンクはセルフだが機械が一台だけで行列になっていた」
    「バーガーの味、、、はっきり言ってまずい。味がしない。」
    「チキンナゲットも美味しくない。ナゲットソースのテリヤキソースがとにかくしょっぱくて美味しくない。」
    「二度と行かないです」
    とか、ひどい評価がいっぱいありました。
    でも、レモネードは美味しかったみたいですね。

    ま、日本でマクドナルドとモスバーガーに勝つのは容易じゃないということでしょう・・・

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