歴史だけは買収できない
2014年5月14日 未分類 0
先日、若いデザイナーと「歴史だけは買えないよね」という話をした。
仮に、今年立ち上げたブランドが、すさまじい売れ方をしたとしよう。
ありえないが、5年後くらいに1000億円くらいの売上高になったとする。
資金的にも潤沢だから、自社にない機能を持つ企業をM&Aできる。
またさまざまな人材も獲得できる。
自社ビルだって建てられるだろうし、いろんな設備だって買える。
でもこの会社は5年の歴史しかない。
繊維・衣料品業界には創業百年とか数十年という会社がある。
この創業5年の会社の資金がいくら潤沢だからといって、創業百年の歴史を買うことはできない。
あと95年が経過しないと「創業百年」とは言えないわけである。
数年くらい活動するのはそれほど難しいことではない。
しかし、数十年とか百年とか企業活動を継続するには、さまざまな苦境を乗り越えなくてはならない。
いくら堅実経営をしていても外的要因で資金ショートしかけたこともあるだろうし、頼りにしていた人材が去ってしまったこともあっただろう。
たまたま偶然上手く行ったときもあっただろう。
それでも、数十年や百年も企業活動が続いてきたというのは、単純にすごいと感じる。
企業にとってはものすごい価値である。
こういう歴史のアピールは京都の会社が上手いと思う。
一方、繊維・衣料品業界には「歴史」の活用が上手くない企業も多い。
非常にもったいない。
そんなことを考えていたら、ある事柄を思い出した。
以前に民事再生法を申請し、新会社として出発した会社がある。仮に「A」とする。
Aは創業が古く、名門企業だとされていた。
しかし、数十年前に実は「B」という会社に買収されたそうである。
ここからは業界紙時代の大先輩に聞いた話だが、このBは社名をAのままにしたそうである。
結局、民事再生法を申請するまでその社名を使い続けたし、再生後もその社名を使い続けている。
通常、創業者なら自分が創業した社名に愛着があるはずだ。
なぜBという社名を捨ててAの社名を存続させたのだろうか。
つい最近までその気持ちはわからなかった。
けれどももしかしたら、B社はA社の歴史が欲しかったのではないかと最近思うようになった。
業界は異なるが、昨年ヤンマーが創業100年を越え、ブランドイメージのリニューアルに取り組むことを発表した。
佐藤可士和さんの作ったロゴに対する好き嫌いはある。
農業服のデザインに対する好き嫌いもある。
しかし、ヤンマーが自社の持つ歴史と、世界的シェアを日本の消費者に正しく伝えられていなかったのは事実であり、それは佐藤可士和さんの指摘する通りである。
でも似たような企業は繊維・衣料品業界にも数多くある。
今では希少価値となった国内自家縫製工場を持ち続けているアパレルだってある。
創業数十年を越えるジーンズメーカーだってある。
「物作り」を売り物にしているビンテージ系ジーンズブランドは数多い。
とくに90年代半ばから登場したブランドはそういう傾向があるが、自家縫製工場を構えているブランドは一部を除いて皆無に等しい。
一方、エドウインを筆頭としてブルーウェイ、ドミンゴ、ベティスミス、ジョンブルなどは今でも国内自家縫製工場を維持している。
果たしてどちらが「真の物作り」体質なのかは、一目瞭然だろう。
ジーンズメーカーに限らず自家縫製工場を維持するアパレルはある。
それらの多くは創業数十年を越える歴史を持っている。
その2つは企業にとって大きな価値であるにもかかわらず、上手く伝えられていない。
ヤンマーと同様に、その価値を自分たちが認識する必要があるし、上手く世間に伝えてもらいたいと思う。
もしご要望があれば筆者も微力ながらご助力したい。