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南充浩 オフィシャルブログ

小粒なインフルエンサーブランドやD2Cブランドが増えている理由

2022年6月10日 トレンド 0

洋服という商品は、作ることと売ることで全く異なるノウハウが必要になる。

逆にどちらかが欠けてもビジネスとしては成り立たない。ここが洋服を商売のネタとすることの難しさだと思う。

これは縫製工場や原料メーカー、ODM屋、商社がオリジナルブランドを作ってもほとんどが離陸できないままに終わることで証明されている。逆に販売員上がりの人がノリで開始したオリジナルブランドも短命に終わるものが多い。理由は製造側には衣料品を販売するノウハウや店舗を運営するノウハウがないし、販売員上がりの人には衣料品を製造するノウハウが無いからである。

両輪が揃わないと一定規模の売上高は稼げないし、ブランドとして長期的に運営することはできない。もちろん、売上高数億円で仲間と細く長く楽しめればいいというならそういう運営スタイルもありだが、売上高30億円とか50億円を目指したいなら、作ることと売ることの両輪が必要になる。

 

2010年代後半からのSNSの普及によってインフルエンサーなる人たちが誕生した。一昔前なら読者モデルと呼ばれていた「著名な素人」みたいな人たちである。

多くの人は有名になると何故か洋服のオリジナルブランドを作りたがるという不思議な習性がある。まあ、飲食店をやりたがるという人もいるが。有名になったら服か食のどちらかをやりたがるというのはなかなか不思議な習性である。

さらに2020年手前くらいから、D2Cなるものが異様に業界で(業界メディアの煽り過ぎもあった)注目され、新規ブランドの立ち上げがそれこそ記憶にとどめられないほどに多くあった。

そして、それらの売上規模はあまり大きくない。実際に現在OEMに携わっている人も「ほとんどのインフルエンサーブランド、D2Cブランド(一部に例外あり)は生産数量があまり多くない」と言っていて旨味を感じていないのが現状である。

 

2000年代の読者モデルブランド、2000年代後半からのタレントブランドと比べ、2010年代後半からのインフルエンサーブランド、D2Cブランドはブランド数は多いものの、売り上げ規模は伸び悩みが多く、同質化して埋没しているケースが多いように感じる。

良く言えば、業界参入障壁が無きに等しいものとなって誰でも参入できるようになったということだろうが、シビアに言えば簡単に始められるがビジネス規模にはなりにくいということでもある。

様々な理由があるのだろう。一つには消費者の消費マインドが年々停滞してきていることが挙げられるのではないかと思う。

自分自身を振り返っても、加齢のせいもあるだろうが、年々、衣料品に対する興味や購買意欲が低下してきている。自分よりも年下の世代も「〇〇ブランドが欲しい」と強烈に思う人は減っているのではないかと想像している。

そして、もう一つ挙げるとするなら、バックアップ体制の変化ではないかと思う。

 

2000年代の読モブランド(読モによる商品ラインも)や2010年代のタレントブランドの多くは、著名なアパレルブランドや有名セレクトショップなどがバックアップを行っていた。

例えば、梨花さんの「メゾン・ド・リーファー」はジュン、辺見えみりさんが当初はコンセプターだった「プラージュ」はベイクルーズ、若槻千夏さんがディレクターだった「WC」はウィゴー、という具合だった。

タレント側がコンセプトやイメージを出して、アパレルが製造し、店舗運営するという形態で、タレントの知名度と相まって短期間のうちに直営店舗数も拡大して行った。

もちろん、人間同士の取り組みなので中長期的にはお互いのスタンスが変化するから、タレントが現在は関与していないが、一つの成功事例となった。

 

一方、現在のインフルエンサーブランドやD2Cブランドの多くは、著名なアパレルブランドやセレクトショップがバックアップすることは少なく、ほとんどがODM屋や商社の製品部にバックアップされている。

インフルエンサーブランドやD2Cブランドの多くが往年のタレントブランドと比べて小粒なのは、バックアップ企業の差ではないかと当方は見ている。

業界外の人からすれば商社の製品部もアパレル企業もどちらもあまり変わらないのではないかと思うだろうが、なるほどピンポイントで商品を作るという点においては変わらない。むしろODM屋や商社にデザインから製造までを丸投げしているアパレル企業やセレクトショップも珍しくない。

とは言っても、アパレルやセレクトショップは、通常はコンセプトやトレンドに沿って年間の商品計画を立てている。これをマーチャンダイジングというのだが、この商品計画が重要になる。また直営実店舗で販売するなら店舗運営のノウハウが必要になる。ODM屋、商社の製品部門にはこの2つのノウハウが欠けている。

 

ほとんどのODM屋や商社の製品部門は「こんなイメージの〇〇アイテムを1型100枚作ってくれ」という依頼を受けてデザイン作りから生産までを手掛ける。極端にいえば、そのアイテムを作ることだけに集中し、その前シーズンや後シーズンに展開するアイテムとの連動性などは考えなくても良い。

しかし、ブランドとして運営するなら、毎月売る物が必要になり、毎月の商品計画が必要になる。前月と今月、来月の展開アイテムの連続性などが求められるわけだが、アパレルブランドやセレクトショップはこれまでそれをやり続けてきたわけだからそのノウハウがある。

インフルエンサーブランドやD2CブランドはODM屋(商社含めて)にバックアップされているため、年間の商品計画が弱い場合が多く、ともすると単品売り切りブランドになってしまっていることが珍しくない。

これでは売上高は一定規模以上にはなりにくいし、単品が発売されたときだけ、それぞれの信者に何百枚か何千枚か売れてお終いということになる。

 

ただ、今後の新規参入ブランドもますます「素人+ODM屋」という形態が増えるだろうから、ブランド数ばかりが増えるが市場規模は拡大しないという状況が続くのではないかと思う。

 

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