「人工知能によるアパレル需要予測は不要」で「川下業者は製造の知識が無さ過ぎる」という話
2022年6月8日 ファッションテック 2
ひところ、盛んに「人工知能(Ai)による需要予測ガー」が盛んだった。
2019年ごろまでの話だ。2020年からコロナ禍が始まりこれまで通りの消費行動ではなくなったから、「Aiによる需要予測ガー」は全く聞こえてこなくなった。
新型コロナという感染症が落ち着いてきて、消費行動が復旧し始めているから「Aiによる需要予測ガー」も復活するのだろうか?(笑)
繊維・アパレル業界の熱しやすく冷めやすい体質から考えると、一度過ぎ去ったブームは戻ってこないと考えられるがどうだろうか。
今回は2つの点で興味深い記事を拝読したのでご紹介したい。
1つはアパレルの需要予測についてである。
もう1つはアパレル小売と製造の意識のギャップについてである。
アパレル販売の需要予測とは?: ファッション流通ブログde業界関心事 (cocolog-nifty.com)
まずはアパレル需要予測の問題について見てみよう。
筆者はアパレルの「需要予測」が語られる時、多くの誤解があると思っています。
多くの場合、例えば、シーズン毎にヒット商品を当てること、そして、それがどれだけ売れるかを事前に予測して、ドーンと計画生産することが需要予測であると思わている方が少なくないようです。
半期やシーズン単位で考えるメーカーの場合はそうかも知れません。
しかし、少なくとも、アパレル小売業の場合は・・・シーズン中の需要の高まる実売期(ピーク週と呼びます)が何時で、その時に何をどれだけ販売して目標を達成するか?という品揃え計画と商品販売計画の仮説を立てることが「需要予測」に当たるのです。
この計画を立てる上で第一に前提にすべきは、
顧客購買行動です。
気温と共に装いを変える生活者はわかりやすいくらい、季節の最高気温や最低気温に反応しますし、そして、連休やイベントに連動した行動をとることがわかっています。
とのことで、繊維業界人はもとより、メディア業界人こそが「シーズンごとのヒット商品を当てて、それがどれだけ売れるか」を需要予測と認識しているように感じられる。なぜなら、メディアで「アパレル需要予測ガー」という記事は読んだことがあっても、需要予測とはどういうものか、という記事を読んだ記憶がほとんど無いからだ。
わかりやすいくらい、季節の最高気温や最低気温に反応しますし、そして、連休やイベントに連動した行動をとることがわかっています。
とある。これは全くその通りで、例えば、大型連休前の祝日は商業施設が決まって混雑する。また平日の昼間は商業施設は比較的閑散としているが、夕方以降はそれなりに混雑する。
夏日が続けば半袖・半ズボンが売れるし、最高気温15度を下回る日が続けば冬服が売れる。
多くの人は自由意志とか個性とか言いたがるが、生活リズムや体感温度はほとんど誰も同じだから、必然的に同じ購買行動を取る。実際に売り場に立ったことがある人ならお分かりだろう。
逆に卸売りメーカーや工場の人間、コンサルは一度、定期的に売り場に立ってみてはどうか。そうすれば購買行動が理解できるだろう。
では、その需要の波が高まる実売期=ピーク週周辺にどんな商品を販売するか?
こちらもビジネスでよく用いられるパレートの法則のように、面白いように、売上上位商品に大多数の割合が集中するのが常です。
そこまで販売機会と枠組みがわかっていれば、あとは、
「生活者はコーディネートして着用する」
その真理を前提にして、その枠組みにどんな商品を当て込むのか?
という仮説と議論になります。
当て込めさえすれば販売目標に対する計画数はある程度、ほぼ自動的に計算することができるものです。
これがアパレル小売業の「需要予測」にあたるものです。
とのことで、衣料品小売り経験者や本部でのMD経験者なら、ここまで読むと「この作業に人工知能なんか必要か?」という思いを抱かれるのではないかと思う。
通常のアパレル関連企業はほとんどの場合、過去のデータを基づいて日別・月別・シーズン別の予算と商品計画を組んでいるのだから、すでにある程度やってきているわけである。噂に聞いたところによると某人工知能は年間費用が何億円とするらしいのだが、そんなお高い物を導入せずとも過去からやってきた計画づくりの精度を上げれば済む話である。
そりゃ、「人工知能によるアパレル需要予測ガー」が廃れるのも当然である。
で、興味深いのもう1点の製造と小売りの意識のギャップについてである。
この記事のかなり後半に
かつては販売をしていた人が調達側にまわった途端、作り手の都合に変わってしまうことを痛感します。
という一節がある。
小売り側の意識は低いままだということが如実に分かる一節である。
もちろん、業界には鼻持ちならない製造側の人間も多々いる。それは自分も数え上げることができる。しかし、小売り側にも鼻持ちならない人間が多々いることも事実であり、言ってみればお互い様である。
そして、作る側も売る側もお互いに多少は譲歩する必要があり、小売り側の都合ばかり押し付けられても製造側にはできないこともある。
小売り側は製造側のできることとできないことをもっと勉強すべきで、製造の知識があまりにも欠如した小売り側の人間が多すぎるというのが当方の見てきた感想である。
多少の押し問答というのはアパレルに限らず仕事ならどの分野にもあるが、無理難題を吹っ掛けることは愚行である。
例えば、デザイン作りから製品完成まで3日でやれ、というのは無理難題だし、人員が10人くらいしかいない縫製工場に3日で500枚縫えというのも無理難題である。
そういう無理難題を吹っ掛けるアパレルブランドはいまだに珍しくない。理由は製造に対する知識が無いからだ。
もちろん、製造側に対して当方も「小売りを多少は勉強しろよ」とは思うが、世界情勢が混とんとしてこれまでのように中国の工場・物流が使えない今、小売り側が製造のことをきちんと勉強して把握する必要が生じている。いまだに製造側に対して小売り側の全て合わせろとも読める主張をする人間は時代遅れの化石というほかない。
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BOCONON より: 2022/06/10(金) 12:29 PM
前回の話題とも関係すると思いますが,需要予測はまだしもこの価格最適化の手法のようなものは実績を上げているのだから導入しない手はない・・・と思うのだけれど,南さんや kta さんのお話聞いていると日本のアパレル業界はいろんな意味でそういうレヴェルにも達していそうにもないですね。
↓
https://md-next.jp/19412
切って縫ってで形になるってのを未だに想像すらしてない人間が多いですからねぇ…
縫製工場に生地が届くのだって最短で翌日だし、工場から届くのも最短で翌日だし、そこで何も手を加えられない2日間はどーやってもかかる。
魔法でも使ってると思ってんですかね。