憤然と席を立つ経営者
2011年2月2日 未分類 0
先日、大阪府ものづくり振興協会の新年互礼会で、坂本光司さんの講演を拝聴した。
坂本さんは企業研究者であり、「日本でいちばん大切にしたい会社」という本の著者でもある。
自分が講演の眼目だと感じた部分を手短にご紹介したい。
まず、企業は「5人」を大切にせよとおっしゃっている。
5人とは
1、社員とその家族
2、社外社員とその家族(=下請け企業の社員と家族)
3、顧客
4、地域住民
5、株主・関係者
であり、大切にする順番は番号順である。
(間違っても株主が1番ではない)
坂本さんは「6500社をヒアリングした」とのことで、
そのうち650社が一度も減収減益に陥ったことのない会社だという。
そして「モチベーションの低い企業が不況に陥る。景気は待つものではなく、作りだすもの」であると主張されている。
また、リストラ(=首切り)をする企業は、社員のモチベーションが低下するからリストラをしてはいけないとのことである。
講演のこの辺りで、なんだか憤然として席を立つ年配経営者が多かったのだが、心あたりのある方々だったのではないかと推測してしまった。(笑)
で、自分もこの辺りから「そうは言ってもJALなどはリストラせざるをえないよなあ」と考えたのだが、坂本さんは明快に「大企業と、自分がヒアリングした従業員数百人規模の中小企業はまったく別物です。中小企業と大企業を一緒に考えるから話がややこしくなる。大企業と中小企業の生きる世界は全然別です」と言い切られており、なるほどと首肯する部分もあった。
坂本さんの挙げた実例から引用すると、
ある数百人規模の企業で、新社長が再建を担うこととなった。
新社長は、全社員を集めて「リストラはしない。当面自分の給料は無給にする。部課長は申し訳ないが年俸を2~3割減らさせていただきたい。その代わりに指示責任のない現場の平社員の給料は手を付けない」と講和をしたところ、上下一体感が生まれて、その会社は1年間でギリギリの黒字転換ができたという。
おそらく「リストラは社員のモチベーション低下につながる。モチベーションの高い企業は不況に陥らない」という坂本さんの主張はこういう事例を基にしておられたのだろう。
アパレル・繊維業界に翻って見ればどうだろうか?
アパレル業界で数百人の従業員がいればいっぱしの大企業であるが、その内情はリストラの嵐である。雇用流動性が高いという側面があり、それはそれなりに評価できると思うのだが、社としてのモチベーションが高くなるはずはない。もちろん数千人規模の大企業は別だが、数十人規模の会社でリストラを繰り返すのは余り得策ではないのではないか。
あまりに社員が入れ替わるアパレル・繊維企業は経営側にも多大な問題がある。
また坂本さんは、下請け企業を大事にしないから、今、下請け企業が反乱をおこしているともおっしゃっている。
その反乱とは①廃業②自立化である。
不況による廃業と言われているが、廃業できる企業は資金的にまだ少しのゆとりがある。「上から無茶言われるなら、ゆとりのあるうちに止めてしまおう」という消極的反乱であるとも捉える事ができる。
また、下請けから脱却して自社ブランド品、自社オリジナル製品を作り始める自立化は積極的反乱だと言えるのではないだろうか。
繊維業界で見てみれば、廃業・自立化ともに相次いでいる。
とくに繊維産地の廃業はかなりのペースで進んでいる。自分を含めた繊維業界人はとかく「不況のせい」と「海外への生産基地の移転」と見なしがちだが、こういう消極的反乱という見方も必要ではないかと思う。
また、産地企業の自立化も珍しいことではなくなった。もっとも、あまり成功した企業はなく、行政からの助成金目当ての「似非自立化」がほとんどだったとも言えるのだが。
坂本さんを繊維・アパレル業界のセミナー講師にお招きすれば、セミナー開始20分後くらいから、かなりの数の経営者が憤然として席を立つことが予想される。かなり面白い光景なので、ぜひどこかの組合で実現してもらいたい。(笑)