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南充浩 オフィシャルブログ

生地問屋でも在庫をほとんど抱えなくなりつつあるという話

2022年1月27日 トレンド 0

繊維・アパレル業界は川上・川中・川下に分類される。

店舗やスタイリストは川下に属する。川下が最も消費者に近い。消費者が想像するアパレル業界というのはほとんどが川下である。

川上は糸、生地、染色などの製造加工業者である。

最近の過剰な業界内ブームともいえるサステナブルで、衣料品の廃棄を減らす最適解が受注生産ブランド、オーダーブランドであると川下の人たちは考えているように映る。また業界も含めた各種メディアもそれを推している。

だが、受注生産ブランドやオーダーブランドが増えれば増えるほど、糸、生地の在庫ストックも薄くなるということを川下の人、メディアは想像だにすらしていないのではないか。

一口に受注生産と言っても、最近のメディアの注目は短納期オーダーブランドではないかと感じる。例えばカシヤマ・ザ・スマートテーラーのようにオーダー後10日で届くというようなあれである。

ブランドごとに納期設定は異なるがだいたい2週間以内であることが多い。

だが、それは生地在庫をどこかの工程がリスクを冒してストックしているからこそ可能な業態である。一部にはまともな長期間納期の受注生産ブランドも存在するが、納品まで3カ月くらいかかるようなブランドがマス層に支持されるわけもなく、ビッグブランドには成長しえない。

短納期オーダーは生地在庫、糸在庫のリスクを川上業者に押し付けることで成り立っている業態だといえる。

 

国内の生地工場は基本的に10年以上前から在庫リスクをほとんど持たなくなっている。受注した数量を作ればそれで終わりで余分に作ることはしない。あるとすればよほどの定番生地だけだが、その定番生地も今ではあまり作り置きしなくなっている。

10年くらい前までは大手の生地問屋や繊維商社が在庫をリスクしていた。瀧定名古屋、瀧定大阪、タキヒヨー、ヤギなどがそれにあたる。しかし、その生地問屋、繊維商社もどんどんと手持ちの在庫を減らしている。

理由は

 

1、大手ブランドがどんどん縮小している(要は売り先が減っている)

2、受注生産ブランド、オーダーブランドが増えている

 

である。

大手ブランドの縮小の一例としては、以前にも書いたストライプインターナショナルが挙げられる。イーハイフンやセブンデイズサンデーなど次々とブランドを廃止している。

売上高も900億円台から600億円台まで低下している。

ストライプインターナショナル1社だけでもどれほど生地の取引が減ったかは業界人なら想像できるだろう。

また別の大手も、まだ発表されていないが、大型ブランドを縮小する方針を決めたと伝わってきている。ピーク時には200億円規模があった有名基幹ブランドの1つを実店舗を全部閉めてネット通販に特化すると聞いている。これが本当に実施されれば、このブランドの売上高は間違いなく100億円以上縮小するだろう。

となると、どれほど生地の取引量が減るかということである。

 

生地工場も生地問屋も民間の営利企業なので業界のために在庫リスクを抱え続ける必要などさらさらない。自社が生き残るためには、在庫リスクを極力減らすのは当然である。

というのは、川上を少しでもかじったことのある人なら誰でも考え得る推論である。

 

先日、久しぶりに20年来の付き合いのある小規模ブランドを訪問した。

コロナ禍で、訪問するのも気を使う。相手が異様に気にする場合があるからだ。そんなわけでしばらく足が遠のいていた。

ここは根強いファンがいるので、底堅い売れ行きが続いている。決して大きくは伸びないが。

最近の状況をヒアリングすると

「生地が入手できなくなっている。ほとんどの生地品番が追加注文できない」

という。

理由は上に挙げた2つである。

追加で生地が欲しい場合、新たに製造することになるため、生地作りと縫製を含めると最低でも2カ月前後はかかることとなる。

2カ月もかかると、シーズンは変わっている。

例えば、11月に注文して1月に上がってきたとしてももうバーゲンシーズンである。3月に注文して5月に上がってきても春物商戦は終わっており夏物商戦に変わっている。

最近の店頭を見ていても、体感気温での買われ方がさらに強まっているので、このズレは致命的となる。

 

今の状態では、クイックレスポンス(QR)対応は不可能である。似たような生地を代わりに使えばいいという声が聞こえてきそうだが、ほとんどの生地の在庫が薄いため似たような別生地を探すのも難しいし、生地を変えると着用感も変わるので、同じように売れるとは限らない。

で、このままの生地在庫が減り続けると短納期オーダーブランドも存在自体が危うくなる。

 

そして最終的には、国内外問わず糸作り、生地作り、染色、整理加工などの工場が無くなってしまい、新しい糸、生地などを作ることができなくなってしまう。

環境ガーの人たちの中には、製造加工業を守りたいという人が多く含まれているという体感があるが、大量生産を否定しながら川上を守ることは現時点では不可能に近い。

生地が手に入りにくいという状況は今後強まることはあっても緩和されることは考えにくく、川上業者は今後ますます減少の一途をたどるのではないかと思う。

 

 

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