サイズピッチを細かくすればするほど不良在庫は発生しやすくなる
2022年1月12日 トレンド 1
洋服が売れ残る理由は様々あるがその一つに「サイズ」がある。
ほとんどの洋服ブランドの場合、最も体型カバー率が高い標準体型のMサイズ、Lサイズは先に売り切れる。ついでSサイズ、XLサイズが売り切れる。XSや3L以上のサイズは売れ残る場合が多い。
これはXSのスモールサイズや3L以上のビッグサイズを必要とする人の人数が少ないからということになるだろう。
例えば、ユニクロでも昨年末あたりから同一商品であるにもかかわらず、XSと3L以上は通常の値引きよりももう一段階さらに値下げた価格で販売するようになっている。いかにこのサイズが売れ残りやすいかということの証明になるだろう。
サイズが小さすぎて身体が入らなければいくら値段が安かろうが、生地や縫製の品質が高かろうが買っても全く意味がない。極端にいえばゴミを買うのと同じである。
一時期、洋服のサイズピッチを細かく分けて作って販売する方式が各ブランドで採用されたことがあった。
代表的なのは、ジーンズのレングス(丈)別製品だろう。
股下の長さを3~5種類くらい分けて生産されたジーンズである。
これが生まれた理由としては
1、裾上げしてもらうのがめんどくさい(待ち時間的にも、費用的にも)
2、ウォッシュジーンズだと裾上げしてもらうと、裾の色落ち部分が無くなる
という2つが大きいだろうと当方は考える。
1については容易に想像していただけるのではないかと思う。
ジーンズショップやユニクロでの裾上げは、待ち時間が必要となる。無料であることがほとんどだが、格安値下げ品だと300円とか500円の追加料金が必要になる場合もある。
これがどうにも面倒である。
ジーンズに限らず、スーツのパンツやスラックス類だと丈上げ必須で、待ち時間もジーンズの裾上げよりも長くなることが多く、ほとんどの場合、受け取りは後日ということになる。
そしてこの裾上げでも追加料金が発生する場合も少なくない。
2である。
2についてはピンと来ない人もおられるだろう。実は当方も最初は言われてみるまでピンとこなかった。
2008年以降のジーンズは「タテ落ちガー」とか「アタリ感ガー」とか「ヒゲがー」とかほとんど言われなくなったが、95年ごろからのビンテージジーンズブームで、メリハリの効いた色落ちというのは、2007年ごろまではジーンズ業界の金科玉条のような存在だった。
せっかくアタリとかヒゲとかでリアルな穿きシワの色落ちを再現しているにもかかわらず、裾上げしてしまうと裾だけは色落ちが少ないという状態となり、甚だバランスが悪いということになる。
指摘されるまでは気が付かなかったが、指摘されてから見てみると、たしかにおかしいと感じるようになる。
騙し絵の答えを指摘されると、もうそのようにしか見えなくなるという心理と似ている。
で、そういう指摘から生まれたのが、レングス別の既製品という解決方法だった。
エドウインやリーバイス、GAPと言ったブランドでだいたい3種類~5種類くらいのレングス別ジーンズが用意されるようになった。
裾上げの待ち時間を削減できるだけでなく、色落ちのバランスもとれるという理論上はベストな対応策だったといえる。あくまでも理論上は。
消費者の利便性だけを考えると、最適解だと思われたのだが、気がついてみると2020年にはこの売り方は消滅していた。いつ頃完全消滅したのかは定かではないが、2010年には完全に消滅していたのではないかと思う。遅くとも2015年には消滅していた。
なぜ、消滅したのかということを考えると、恐らくメーカー、ブランド側の在庫負担リスクが高くなりすぎたからではないかと当方は考えている。
また、短め丈が2010年以降、洋服の着こなしを席捲したということも大きいだろう。
着こなしという点でいうと、2000年前半から2007年までのブーツカットブームの時、ジーンズの丈は少し長めがかっこいいとされていた。ヒールやかかとのあるブーツなどと合わせた。難点は靴を脱ぐと裾を引きずってしまうことで、宴会などで靴を脱いで座敷に上がった際には、松の廊下の浅野内匠頭の長袴みたいになっている男女も珍しくなかった。
ところが、2008年のスキニージーンズブームから徐々に丈短めにシフトし、2010年代にはくるぶしが出ているくらいの短め丈が席捲した。
ここで、レングス別パンツはその役目を完全に終えたと考えられる。
また、ブランドやメーカー側の在庫負担リスクは今にして思えば相当なものだっただろう。
何せ、当時は「短め丈」というのは社会的に認められていなかったから、売れ残った股下の短い製品はいくら値下げしても売れなかっただろう。となると、早晩、メーカーやブランド側は不良在庫品の山ができるということになる。
洋服が売れ残る理由は、色柄、ディテール、シルエット、素材、デザイン、機能性など様々な理由がある。だがサイズというのも大きな理由の一つである。
最近はエスディージーズとかエコとかなんかその手の意味不明なキャンペーンが行われており、またアパレル各社の経営悪化とも相まって、なるべく売れ残りを作らないという取り組みが業界スタンダードとなっている。
サイズということだけで考えると、最も売れ残りが発生しにくいのは、
1、ビッグサイズのトップス&ボトムス
2、丈短めのボトムス
3、腰ゴム入りのボトムス
の3つが兼ね備わった物だということになる。
ビッグサイズだと「小さすぎて着れません」ということはまずない。そしてビッグサイズで丈短め、腰ゴム入りのズボンも「小さすぎて・丈が長すぎて穿けません」ということもまずない。
サイズという観点からいうと、売れ残りが最も出にくい。一方、ピチピチサイズやジャストサイズは1㎝でも合わないと着られないので売れ残りが発生しやすい。
「もうそろそろビッグサイズが終わりそう」というコメントも毎年チラホラと見かけるが、ネット通販で買いやすいという利点以外に、サイズによる売れ残りが発生しにくいという利点から考えてもビッグサイズのトップス、ビッグサイズで丈短め・腰ゴム入りズボンという組み合わせは、半永久的に続くのではないかとさえ思う。
そもそも、エスディージーズな人たちはこれらのサイズ感の服を積極的に支持すべきだろう。
そんなコーエンの2640円のバルーンパンツをどうぞ~
「ウォッシュジーンズだと裾上げしてもらうと、裾の色落ち部分が無くなる」というのは、自分は昔これで失敗して「あぁそういうことか」と気付きを得ました。
ダメージとかもそうですね。
完成品を見ても、「なんかお店で『いいな』と思ったときと違う、違和感がある」が契機でした。
以来、裾上げの必要がないパンツか、もしくは裾上げせず履くようになりました。
最近はそういうジーンズは下火になりつつあるし、自分も買わなくなりましたが、そういうジーンズが廃れた一因がそれ…というのは、さすがに違うでしょうね 笑
GAPはたしか、丈の長さ30、32、34インチで販売してたような気がしましたが、アレもなくなってしまったのでしょうか?
最近見に行ってないので、今度行ったときは見てみようと思います。