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南充浩 オフィシャルブログ

リサイクル素材の理想と現実

2021年10月11日 トレンド 1

以前、オーガニックコットンの認定偽装が報道されたことをこのブログでお伝えしたが、またサステナブル原料に偽装があった。

個人的には、この手の偽装は他にもあって、発覚したのは氷山の一角ではないかと思っている。

 

田村駒が漁網リサイクル生地に不備発覚、返金対応 – WWDJAPAN

繊維商社の田村駒は7日、漁網のリサイクルナイロン生地「GNB」で、社内で調査した結果、国内で回収した漁網が使用されていなかったことが判明したと発表した。すでに同社を通じて取引先などに供給した「GNB」についても、紡績工場から漁網の原料使用への報告を受けられていないこともわかったという。

 

とある。

経緯は次の通りである。

 

「GNB」は、海洋汚染の原因の一つと言われる廃棄漁網を回収し、リサイクするとともに、売り上げの1%を海洋保全活動の寄付に投じていた。同社によると、「中国の協力工場に提供した国内の回収漁網は、技術的な問題から現在まで製造された『GNB』の生地の原料として使用されていなかった」という。また、現在まで製造された「GNB」生地についても、「中国の仕入先と生地を製織するテキスタイルメーカーからは使用しているという報告を受けていたが、前工程を担う中国の紡績工場から漁網の原料使用について現在まで報告を受けられていない」という。

 

田村駒が隠蔽していたとかそういう問題ではなく、自ら公表しているので、その点に関しては落ち度はない。

説明が正しいとするなら、依頼していた中国の協力工場が偽装していたということになる。

中国工場に限らず、海外の協力工場による偽装というのは珍しくない。以前、起きたカシミヤ偽装事件でも、ユナイテッドアローズや他のブランドのバイヤーが偽装指示をしたわけではなく、海外の工場サイドから「カシミヤ〇〇%です」と上がってくる報告をそのまま表示しただけだという業界内の噂があった。

それにしてもカシミヤ0%かどうかくらいは触ってみれば分かるのではないかと思うが、細番手ウールなら触っただけでは区別できない人も多い。当方も区別できるという自信はない。

そうなると、とりあえず海外工場からの報告を信用して表示するということにせざるを得ない。

 

カシミヤならまだしも、リサイクル素材かどうかは、検査機関でも検証できない。

よく考えてみればわかるだろう。カシミヤとアクリルでは繊維そのものの構造が違うから、電子顕微鏡などで超拡大してみれば、違いはわかる。

しかし、リサイクル素材は、綿なら綿、ポリエステルならポリエステルと繊維そのものとしては同じだから、何も変わらない。いくら拡大しても無駄である。

ということは、リサイクル素材の方が偽装はしやすいということになる。

リサイクルポリエステルも普通のポリエステルも繊維自体はポリエステルなので構造も同じである。もちろん、今回のナイロンも同様だ。

リサイクルではないが、オーガニックコットンも同様で、綿は綿に過ぎない。繊維自体は普通の綿と同じである。だから検査機関でも判別は不可能である。

 

となると、サステナブル全盛だが、他にも偽装サステナブル素材はもっと存在してもおかしくないだろう。当方はもっとたくさん他にも存在していると思っている。

生地・原料段階では、ペットボトルのリサイクルポリエステルは、仕様済でないペットボトルがポリエステル加工向けに生産されているという噂があることを以前お伝えしたが、これも実際は本当ではないかと思っている。

 

 

エコだとかエシカルだとかサステナだとか、そういう理想は理解できるが、今の人間の技術力では完全なるそれは実現できない。

また現在の社会システムではその原料で安定した供給・生産ができるのか?という問題がある。できなければ、工業製品としては使えない。

 

リサイクルポリエステルにしても、恐らくは使い古したペットボトル自体は莫大な量になっているのだろうと思われ、それを再加工したポリエステルも莫大な量になっているのだろうが、使用するブランド数がこれほど多ければ足りなくなる可能性がある。じゃあ使用済みペットボトルがもっと必要になるというわけだが、リサイクルポリエステルの供給量を増やすために、使用済みペットボトルを増やすということは本末転倒である。

また使用者数(要するに人口)が短期間で急増するわけもないから、ポリエステル再加工用にペットボトルを製造するというアホなことは実際に起きているのではないかと思う。

しかし、ポリエステルとして製造する、それを砕くという2工程が加わっているため、電力消費は増えるし、排液なども生じ、逆に環境に悪い。

 

廃棄された漁網もこれと同じで、当方は漁業に詳しくないから間違っているのかもしれないが、廃棄する漁網というのはそれほど大量に毎年生まれるものなのだろうか?ご存知の方がおられたらまたお教えいただきたい。

また一般人から見て大量でも、例えば、田村駒が生地として安定継続供給するほどの数量なのだろうか?という問題があるように思う。さらにニコアンドのような大手ブランドが継続して使用し続けられるほどの供給量が安定して確保できるのだろうか?

 

今回の偽装はそれが背景にあるのではないかと思っているがどうだろうか?

 

漁網やペットボトルに限らず、リサイクル〇〇という素材は大流行りだが、果たしてそれは安定的に一定量を供給し続けられるのだろうか?

それができないのであるなら、現代の工業システムには合わないし、せいぜいがスポット使用できるのが関の山だろう。

 

今回、田村駒にはお気の毒だとは思うが、リサイクル〇〇素材というものの在り方を見直す良いきっかけになるのではないだろうか?

素材として販売するなら、安定して一定量を供給し続けられないと意味はない。あまたあるリサイクル〇〇素材は果たしてそれが可能なのかどうか、もう一度よく考えてみるべきではないか。

 

 

リサイクルナイロンのリュックをどうぞ~

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 comment
  • AA より: 2021/10/11(月) 1:19 PM

    記事の内容はごもっともですが、だからこそGRSやRCSという認証制度が存在しています。
    ナイキやアディダス(存じないですがおそらくFRも)等の大手ブランドはリサイクルを謳う原料の調達に関してはこの認証を得ているサプライヤーに限定しています。
    欧州の認証ビジネスには辟易するばかりですが、こういう話を聞くとある程度の存在価値を認めざるを得ませんね。

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