MENU

南充浩 オフィシャルブログ

衣料品の売上高は実店舗が8割以上を稼いでいる

2021年9月16日 トレンド 1

2018年と比べると、むやみやたらなネット通販礼賛の風潮が減ったように感じる。

メリットもあればデメリットもあるということが報じられるようになっており、かなり健全化したと感じる。

しかし、いまだにネット通販を過剰に信奉する輩も業界には少なくない。そういう輩は業界や関係する企業をミスリードするだけの存在でしかない。

 

20年度ファッションEC市場 コロナ下で急伸、23.9%増 EC比率は17.8% | 繊研新聞 (senken.co.jp)

 

繊研新聞社が推定したファッション商品の20年度消費者向けEC市場規模は約1兆5000億円EC比率(国内ファッション市場に占めるネット販売比率)は17.8%になった。

同調査はネットアンケートおよび、20年度専門店業績アンケートのEC売り上げに回答のあった108社(EC売り上げ高1000万円以上)をベースに、ファッション市場規模とEC比率を割り出したもの。

 

とある。

 

1兆5000億円という市場規模、23・9%増という伸び率を見ると、EC(いわゆるネット通販)は大きいといえるが、衣料品市場はそれ以上に大きく、注目すべきは、これほどに伸びてもEC化率は17・8%にとどまっているという点だろう。

要するに売上高の82%強は実店舗で売れているということになる。

仮に自分がもしも経営者だと仮定し、どちらか一方を強化せねばならない状況に追い込まれたとしたら、どちらを選ぶだろうか?

確率的に考えれば82%強の実店舗だろう。

極端な言い方をすれば、17・8%の販路が無くなったとしても企業は存続が可能だ。しかし、82%の販路を失えば企業は倒産してしまう。

槍玉にあげられることが多い実店舗だが、いまだにこれほどの規模がある。

 

もちろん、この数字は平均だから、中にはEC化率が30%、40%という企業もあるだろうし、もともとがネット通販出身の企業はさらにEC化率は高くなるだろう。しかし、その一方で、EC化率はもっと低く、15%未満や10%未満という企業もあるだろう。

 

EC礼賛が根本的に危ういのは、ECの発達によって衣料品そのものの需要は全く増えていないという点を考慮していないところにある。

アパレル小売市場規模は、EC発達前と発達後は全く変わっていない。

ということは、10~20%程度の売上高が実店舗からECへ移動したに過ぎないということになる。新たな需要を創造したわけではない。

 

とはいえ、ネット通販を否定するつもりはない。特にこの統計にもある2020年はネット通販が無ければ各アパレルの業績はもっと悲惨なことになっていただろう。

アパレルの業績が低下すれば、そこに製品を供給している製造加工業もダメージを食らう。

新型コロナ禍が始まり、昨年春は営業停止や営業時短が相次いだ。ネット通販が無ければこれによる売上高の落ち込みはもっと大きなものになっていただろう。

実店舗の売上高減少を完全には補填できなかったが、衝撃を和らげるという役割は十分に果たしたといえる。

 

2021年は引き続き新型コロナ禍にあるが、各アパレルは生産調整も行っているだけでなく、完全に営業が停止するという期間も短いので、2020年ほどの恐慌ではないだろうと感じる。

一方で、ネット通販の効果が立証されたため、それまで導入に億劫だったブランドも重い腰を上げたので、EC化率は20年よりももう少し高まるだろうと見ている。

 

ただ、個人的に懸念しているのは、ネット通販やWEBのことが全くわからないような老経営者やその老経営者に強い影響を与える層が、いまだにECに対して異様に高い期待をしている点である。

そういう人たちが得てして企業を、業界をミスリードしてしまう。

 

店舗販売の1人当たり売り上げがEC(ネット通販)の10分の1ほどに過ぎない

 

とか

衣料品販売はECが主役

とか

 

そういう根拠なき謎の意見が、業界メディアで踊っている。

 

これらの意見は一体何を根拠にしているのだろうか?当方には理解できない。

EC業界からも多数の疑問が呈されている。

 

EC化率が20%弱の時点で、この意見に踊らされて80%の売上高がある実店舗をないがしろにすれば、そのアパレルは倒産に追い込まれてしまうだろう。

いくら、ECの利益率や効率が高かったと仮定しても、売上高100億円あった企業を、そのうち20億円を占めるECだけで支えることは不可能であることは小学生でもわかる。

逆に80億円の実店舗が維持できれば、20億円のECは最悪消滅してしまっても企業は維持できる。

むろん、それまでの負債だとかそういうことは考慮に入れていないので、現実はこの通りではないが。

 

結局のところ、多くのアパレルにとっては実店舗とECの両方が必要であり、収益体質を維持していくためには、EC対実店舗というアホな対立軸で捉えるべきではなく、どちらも補完関係にあることを意識して、相互乗り入れする仕組みを考えるべきである。

 

そして、実店舗が伸びようが、ECが伸びようが企業としてトータルで収益が上がるという方向がベストだろう。

手詰まり感の強いアパレル業界だが、老経営者はECは美味しいという甘美で安直な囁きにはくれぐれも注意を払ってもらいたい。

 

 

 

この記事をSNSでシェア
 comment
  • お気楽ニャンコ より: 2021/09/16(木) 9:30 PM

    私は実を言うと95%くらい?最近はネットで購入しております
    が…
    ネット通販は買う側も売る側も楽な反面
    商品そのものに対する
    買う側と売る側の意思疎通が難しいと感じます
    返品という大きなハードルが…
    私は今まで一着しか返品した事がないという変人ですが(笑)
    まず、色が違う手触りが違う
    少しでも作る工程での匂いがつくとそれも返品
    僅かなシワ、糸始末の不良、本来は自己責任であるはずの洗濯後のピリング、色落ち
    挙げればキリがありません
    おまけに着てみたらきついゆるい
    極め付けは似合わない
    全てが返品理由に…
    私がネット通販に今後望むとしたらとにかく色と手触りや厚み光沢感
    そして重量!です
    簡単な表記(イメージや曖昧な表現)が多すぎると感じます
    まぁ仮にそこが改善されたとしてもそれを読まない(読み取れない)人は一定数いるので…
    後は、顔もスタイルも良すぎるモデルさんを使いすぎると、とりあえず一旦は売れるかも知れませんが、返品も増える気がします

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ