「衣料品の50%が売れ残って不良在庫になる」論のおかしさ
2021年6月22日 考察 1
以前に、繊研新聞に掲載された環境省の統計データ記事をご紹介した。
「手放された衣類」大半は家庭から 環境省報告 | 繊研新聞 (senken.co.jp)
報告によると20年の「手放された衣類」は78.7万トン。このうち家庭からは75.1万トンと大半を占め、ごみとして廃棄(焼却・埋め立て)されたのは49.6万トン(構成比66%)を占めた。リユースが15万トン、リサイクルが10.4万トン。
一方、企業など事業者から手放された衣類は3.6万トン。廃棄が1.4万トンで廃棄量全体の2.7%ということになる。リユースは0.4万トン、リサイクルは1.9万トン。手放されたもののうち半分以上がリサイクルされている。
である。
いろいろな意見があるが、「単なる感情論」や「根拠不明な陰謀論」は論ずるに値しないから、この統計が最も正確だろうと考えられる。
このことから考えると、メディアで広まっている「衣料品の消費量は50%にとどまる」という論は悪質な勘違いだということになる。
これを自称他称含めて業界の重鎮が言っているのだから、たちが悪い。
もちろん、アパレルメーカーや小売店は在庫を翌年以降に持ち越すという場合がある。ユニクロだって持ち越していて、シーズンインしたときに再び昨年物を値下げして店頭に投入している。
しかし、半数近くも自社倉庫に格納したり、物流業者や商社に持たせていたら、倉庫も物流業者も商社もすぐにパンクしてしまう。アパレルメーカーや小売業者だって減損処理だけでも大赤字になってしまうだろう。
そう考えると、「衣料品は50%しか売れない」「半数は売れ残る」という論はおかしいということがすぐにわかる。
アパレル産業のSDGsをDXで解決する方法とは 余剰在庫問題は課題設定を間違えている _小売・物流業界 ニュースサイト【ダイヤモンド・チェーンストアオンライン】 (diamond-rm.net)
この筆者の論は賛同できないケースも多いのだが、今回のこの部分は正鵠を射ているのでご紹介する。
例えば、「総投入量の50%が売れ残っている」と発言している。
それが事実なら、翌年は20億点がキャリー(持ち越し)され、 さらに40億が投入されれば合計60億点となる。また翌年に20 億点がキャリーされれば80億点になり、100億、 120億点となるわけですね。 そんなバカな話があるはずはないので、よくよく聞いていると、“プロパー消化率が50%であることと最終消化率を混同している”ようなのですね。つまりプロパー消化率50%=半分が売れ残っている、と理解しているわけです。
まさにその通りである。
蛇足ながら付け加えておくと「50%が売れ残っている」ことが仮に事実だとすると、年間流通量は40億点弱だから、20億点弱が売れ残ることになる。
翌年は60億点弱が流通することになり、そうすると30億点残る。その次、その次の次は、という具合に雪だるま式に衣料品の流通点数は増え続けていく。
実際にはそんなことはない。
現実には、残品率というのですが、正規価格で売れない商品は売価変更を行って換金率を上げ、それでも動かない商品が残品率です。悪い企業で30%、良い企業だと5%程度です。半分が売れ残るなんてことはあり得ないですね。
というのが現実に近いだろう。
どうしてそうなるかというと、繊研新聞の記事にもあるように、アパレル業界では在庫品を処分するシステムが幾重にも張り巡らされているからである。
店頭での値引きセールが終わったあとも、定期的なファミリーセールがあるし、百貨店やファッションビル、ショッピングセンターでの定期的な催事処分セールもある。また最近ならネット通販でも処分セールが続く。さらにはアウトレットストアでの販売もあるし、最終的には二束三文で在庫処分業者に払い下げる。さらにいうと、SPA型アパレルは入荷1か月後くらいから徐々に値下げして売り減らしていく。
一時期、どこの百貨店に行っても、9階の催事場で「イトキン商品3000円均一セール」が行われていて、中高年女性が多数群がっていた。百貨店やファッションビル、ショッピングセンターの定期的な催事というのはこれである。
また、ネット通販の例でいうと、愛用しているアダストリアのドットエスティだと昨年夏物とか昨年春物が売り切れるまで値下げ販売されている。
当方はそれを毎月2枚か3枚買っているわけである。去年の夏に買い逃したアイテムを今年夏に買うということも珍しくない。ユニクロ、ジーユーだって同様で、店頭になくなった物がネット販売では安く売られていることもある。もちろんその逆もある。ネット通販ではなくなった物が、実店舗店頭では残っていて安く値下げされているということも多々ある。
「大量生産が悪い」というのは、言葉の使い方を間違っています。正しい言い方は、消費者が必要としている以上の過剰生産が悪いのであって、大量生産は産業効率をあげ消費者に高いコスパを提供する手法です。
というのが正論であり、このブログやマサ佐藤氏のブログでも書かれている通りである。
一枚だけの生産とかそういう家内制手工業のような生産形態になると、サンプル製作費の例を見てもわかるように、ごくありふれたベーシックなジーンズやブルゾンでも1着3万円とか4万円という価格になる。まあ、実際はそのサンプル製作費を無料だと勘違いしているアパレルやセレクトショップも多いのだが。(笑)この辺りはサンプル屋さんに語ってもらいたいと思う。
いずれにせよ、統計データから見ても、アパレル業界の構造から見ても、また個々の企業の決算内容から見ても、「年間に50%の服が売れ残る」というのは完全なる誤りだということがわかる。
在庫処分セールで1280円に値下がりしたワンピースをどうぞ~
昔スーツ量販店の店頭では客寄せ用にカジュアル服(どこから流れてきたものやら)とかネクタイをワゴンで売っていて,結構掘り出しものがあったりしたけど,最近とんと見かけなくてつまらない。スーツ量販店以外でも,大方店頭では至極どうでもいいようなシャツとか肌着とかを並べているばかりて,あれでは客寄せにもなりそうにない。
たぶんネットで処分する方が簡単だからでしょうね。僕の都合はとも角,売る方からしてみれば,売れ残り/見切り品の値下げ処分はやりやすくなっているのじゃあるまいか。
ならばますます衣料品の半分は売れ残って不良在庫になっている,なんて事はありそうもないですな。