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南充浩 オフィシャルブログ

「定番服」であっても必ずトレンドには左右される

2021年4月5日 トレンド 3

今回は、メディアや経営コンサル界隈で注目されている「アパレルは定番を長く売り続けろ」ということについて考えてみたいと思う。

この論の根拠となっているのが、ユニクロやワークマンである。

だが、多くのメディアや経営コンサルはアパレルの商品をあまり見ていない。特定の商品の良し悪しを議論することはあるが、それが昨年物や一昨年物と比べてどうか?というところまでは考えない。

 

まず、ユニクロだが、多くのメディアやコンサル界隈は、どんなに定番に見える商品でも「年番号」と「季節番号」が付与されていることについて言及しない。これはジーユーも同じシステムである。

 

青丸部分に(74-13)という表記があるがこの(74)が年度番号と季節番号。7は2017年、4は冬品番という意味

 

 

「年番号」と「季節番号」があるということは、どんなに定番ベーシックに見える商品でも「年度内には売り切る」という決まり事があるからだと推測される。もっとも、ユニクロがここまで大規模になるとその決まり事も完璧には守りにくくなっており、2年前くらいの商品を超値引きで販売しているケースもあるが。

ユニクロがベーシック品であっても常に年度ごとに少しずつ変化させていることは、ときどきファッショニスタあたりからは指摘がある。

 

 

次にワークマンだが、だいたい1つの商品を3年~5年かけて完売させ、完売するとモデルチェンジすると公にされている。

だが、ワークマンという店は元々は作業服屋だったわけで、作業服というジャンルに季節ごとのトレンドはあまり必要ない。長い目で見ると、作業着にもトレンドがあることがわかるが、そんなに短期間では変化しない。何故かというと、作業着は所詮作業着だからである。仕事をするために便利な機能は必須だが、トレンドかどうかとかオシャレかどうかは二の次である。

我々が若い頃の工事現場の作業員は、だいたいダボダボのズボンを穿いていた。今は、スキニーやそれに近いような細身のズボンが人気だ。これはストレッチ生地の普及によるものだろう。またストレッチデニム生地の細身上下セットが人気である。デニム上下というのは、20年前、30年前ではあまり見られなかった。この辺りは作業服にもトレンドがある証拠だろう。

 

中長期的なトレンド変化はあるが、作業服というジャンルにおいて、「あれ、めちゃ便利だったからもう一度買いたい」という需要はカジュアルよりも多いだろうと考えられる。

何せ仕事で使う「道具」だから、具合が良ければ何回もリピートしたくなる。

下手に短期間でモデルチェンジをされた方が、仕事がやりにくくなる。

だから、ワークマンの3~5年というモデルチェンジ周期は作業服としての理に適っているということがわかる。

だがカジュアルとしてはいかがなものか。

 

前回のブログでも少し触れたが、ワークマンは従来型の作業服店「ワークマン」と、カジュアル向けの「ワークマンプラス」「ワークマン女子」を分離させる方向に舵を切っている。

 

 

商品自体は共通するが、ワークマン人気によって、一般カジュアル客が従来店にも来店するようになり、駐車場スペースの確保が難しくなったことや、品切れによって固定客の工員が買えないなどの不具合が生じ始めている。このため、一般客はワークマンプラス、ワークマン女子に吸収したいというのがワークマン本部の考えで、これも当然の政策だといえる。

 

で、一般客向けとして1年で売り切るトレンド品番「20番」というのが存在するようになった。もちろん売れ残った場合は次年度も売ることになるが、売り切れた時点で補充追加はない。

逆に言えば、一般客相手を意識するならそういう品番も作らざるを得ない。その理屈が分からない人がいるなら、アパレル店頭の経験が圧倒的に欠如しているといえ、アパレル小売を論評する資質に著しく欠けるといえる。

 

そして、これはワークマン商品部の方の生の声だが

 

「定番品と言っても、カジュアル分野ではその時々のトレンドがあります。定番のワークシャツでもポケットの位置が上になったり下になったり工夫せざるを得なくなっています」

 

とのことであり、「長期間に渡ってモデルチェンジなしで売り続けられる定番」などというのはカジュアル分野においてはほとんど幻想に過ぎないことが分かる。

 

以前にもご紹介したが、ユニクロの「定番フルジップスエットパーカ」だが、年度ごとに少しずつ変化している。例えば、以前はフロントにダブルジップを使っていたが、最近は普通のジッパーしか使っていない。

また身幅もトレンドによって変化している。

Tシャツや定番無地トレーナーが顕著だが、2010年ごろまではピチピチピタピタのシルエットだったが、2015年以降はサイズ感は1サイズ大きくなっている。これは取りも直さず、トレンドの変化に対応しているからである。2000年代前半から2010年代前半の10年間は、ビッグトレンドがピチピチだった。2015年以降、その揺り戻しからルーズシルエットが復活した。

ユニクロの定番品といえどもこのトレンド変化には対応している。だから2010年前半までは、オッサン連中からは「最近のユニクロはピチピチすぎる」という文句が多かったが、現在はその声はあまり聞こえてこない。当時のLサイズが今のMサイズくらいになっている。

これを見てもわかるように永遠不変の定番というのは存在しない。

ただ、2015年以降、ファッション傾向は分散化し、急激なトレンド変化も少ないから「2年間売り続ける品番」くらいの企画は可能ではないかと思うが、これもジャンルやマーケットによっては成立しにくいこともある。

 

アパレル不況とよくわからないサステナビリティ(笑)の盛り上がりとかで「定番を長く売る」ということがやけに注目されているが、作業服のような実用衣料以外ではそれは成立しにくいということである。そんなファッションビジネスが成立できるのであれば、定番を長く売っていたジーンズメーカーやワイシャツメーカーは今も破綻せずに健在だっただろう。

 

 

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 comment
  • OZ より: 2021/04/05(月) 8:40 PM

    僕の思う定番物ってのは不変なもののイメージですね。
    “仕方のない劣化”に対して同じ物を再度購入し、愛着を続けられるもの、てゆう感じです。

    ディテールなり、シルエットなりが微妙に変化をされると、アタリの場合もあれば、ハズレの場合もあり、なんだかなぁって。
    または、
    ブランドの方向感にもよるとは思いますが、
    例えば原料高の場合に、上代をキープして素材がチープになる場合や、素材をキープして上代を上げる場合があったり。

    定番とはなんぞや?って思ってしまいます。

    シャツとかパンツとか専業系のブランドしか成り立たないんじゃないですかね。
    いわゆる普通のコーディネイト提案型のファッションブランドには難しいなと思います。

  • BOCONON より: 2021/04/06(火) 8:53 PM

    “定番” とか “長く着られる服” とか言ったところで,具体的にはどんなものか,今のお若い人たち(おおよそ30代以下)にそれが分かるか,は甚だ疑わしい。以前も引用した事がある気がするけど,この手のまとめサイトに限って言えば,飽きもせずこんな事をしょっちゅう話題にしている。
             ↓
    http://mens-fashion.blog.jp/archives/cat_97758.html

    「何をって,普通の服着ればいいだろ」と言っても無理。彼らは物心ついた時すでに不景気だったから,定番商品もたぶん知らない。知っているのはその時々の流行りものだけみたいなもの。
    バラクータもマグレガーも知らない から,それよりは少し安くて似たデザインのジャンパーを買う,なんて発想もない。むしろ「ブルゾンなんておっさんくさい」なんて要らん事を言う。Dickies も R.ローレンのドレスチノも知らないから「ベージュのチノパンなんてオタクの穿くものだ」なんて実につまらぬ事を言う。リーバイス501も知らないくせに「ジーパンなんておっさん爺さんの穿くものだ」なんてナマイキな事を言う。
    それでいて「さすがにいい歳してスキニーは・・・最近流行り出してるワイドパンツもちょっと・・・」というのでは「何着ればいいんだ?」とか「どこで買えばいいんだ?」とか言われても「知らんがな」としか言いようもないですな。

  • BOCONON より: 2021/04/07(水) 12:43 PM

    そう言や,以前このブログのコメントでも「無印良品やブルックス・ブラザーズの服のどこが良いのか分からない」と云った意味の事を書いている人がいたな。ファッションまとめサイトのたぐいを見ていても「ラルフ・ローレンて誰? どんな服?」と云った案配だ。(まぁブルックス・ブラズはまだしも,今現在の無印良品やR.ローレンが “定番” 的な商品を売っているか,は少し疑わしい気もするけど。無印良品の「アンコンジャケット,既製服なのに袖ボタンが本開き」とか,POLOの巨大ポロマークや巨大ポロ熊アップリケのついた些かヤケクソ気味なデザインのTシャツポロシャツとかw)。
    先日コメントに書いた「去年のユニクロのバブァー風ジャケット」というのもお若い人たちはバブァーなんてほとんど知るまい。元ネタが分からないんじゃ単に「なんだかよく分からないデザインの妙なジャケット」でしかなくて「そりゃ売れ残るわな」ではある。ユニクロもツイード「風」ジャケットとか,案外定番商品的なものは多いけれど,買う人もそれが定番だから買うのではなく「ユニクロで売っているんだからそう変なものではなかろう」と思って買う,というだけの話でしょう。
    そもそも「メディアや経営コンサル界隈で “アパレルは定番を長く売り続けろ” 」なんて事を言う人たちとてギョーカイ人だから,自身でも定番的で長く着られる服が好きでずっと着ている,なんて事はあまりありそうもない。革ズボンやダメージジーンズやイタ物風ツンツルテンスーツなど着てそうな感じがする。そうでもないですか?

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