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南充浩 オフィシャルブログ

富裕層の趣味か、大衆のギフト需要か

2013年10月16日 未分類 0

 老舗子供服メーカーのフーセンウサギが自己破産した。負債総額は30億円。

http://www.tsr-net.co.jp/news/flash/1241902_1588.html

創業は大正10年というから相当に歴史がある。
新生児向けのオリジナルブランド「セレク」のほか、ピーク時はライセンスブランドも数多く展開しており「ナイキ」「ポールスミス」「ソニア・リキエル」「オリーブ・デ・オリーブ」「パーソンズキッズ」などがあった。
2007年に子会社のファティエを吸収してからは「リーバイス・キッズ」の展開も引き継いでいた。

大阪市西区立売堀にあった茶色い外装のバカでかい自社ビルがあり、各階でブランドごとの展示会が行われていたことをよく覚えている。
筆者が97年に業界紙に入社して以来、2003年に退職するまで足しげく各ブランドの展示会に通ったものだった。

概要については信用交換所の記事がもっとも詳しいので以下にそちらをご紹介したい。

ピーク時の平成9/2期には299億9682万 円の年商を計上していた。しかし、その後は市況低迷や少子化の影響で 業績は下降線を辿り、16/2期には年商も190億円まで落ち込み、収益面も4億6500万円の大幅赤字を計上、更に17/2期34億4200万円、18/2期36億円と多額の欠損に陥っていた。

こうしたところ、18年6月ポラリス・キャピタル・グループ(株) (東京都千代田区)が運営するポラリス第一号投資事業有限責任組合の 傘下に入り、再建に着手することとなったが、以降も減収に歯止めが掛 からず、 19/2~22/2期も連続赤字決算を余儀なくされ、23/2期は不 動産売却益の計上で黒字化したが、24/2、25/2期も再度欠損を強いら れていた。

この間、不動産売却による債務圧縮や社員の早期希望退職の実施による経費削減などで立て直しに努めていたものの、25年7月にも相次いで金融機関が動産譲渡登記を設定し、資金面の不安も表面化していたところ、遂に今回の事態となった模様。

とのことである。

ピーク時は平成9年とあるから1997年ということになる。
このころには300億円弱も売上高があった。驚くのは、2005年の欠損が34億円、2006年の欠損が36億円という多額であるところだ。
フーセンウサギは上場していなかったから決算短信などは配布されず、こうした状況は業界紙でも報道されていなかった。
筆者も信用交換所の報道で初めて知った。

ファンド傘下に入ったのは2006年のことだが、2011年2月期に不動産売却益が出たと書いてあるから、このころに大阪市西区の巨大な茶色い本社ビルを売却し、南船場4丁目の雑居ビルの一室に移転したのだろう。
今ではあの茶色いビルはモンベルの本社ビルとなっている。

フーセンウサギには、筆者の大学の3学年上の先輩が新卒入社していたので格別の思い入れがある。
展示会にお邪魔するとよく顔を合わせ、少し言葉を交わした。

あ、ちなみにその先輩は男性である。

2003年に筆者が業界紙を退職してから顔を合わすことはなくなったが、ファンド傘下になった後も勤務を続けておられたのだろうか。それともどこかの時点で退職して新しい仕事に就いておられたのだろうか。
気にかかりながらも消息が確認できていない。

それにしても子供服専業アパレルの置かれた状況は厳しい。
9月に「シャーリーテンプル」ブランドを展開していたツイニーエンドーが破産している。
べべだって売上高がピーク時から激減している。一時期は100億円を下回ったとも耳にしている。ファミリアだってピーク時よりも大きく売上高を減らしているという。
ミキハウスブランドを展開する三起商行も一時期財務内容の悪化でファンド傘下にあった。
キムラタンなんて一時期は株価が10円にまで落ち込んでいたので、存続出来たことの方に驚きがあった。

そんな中で、業績がある程度回復し、ファンド傘下から脱することができた三起商行の底力は大したものである。フーセンウサギは同じ状況からついに脱することができずに市場から撤退したのだから。

外野から商品戦略を眺めていた感想だけでいうと、「ミキハウス」ブランドの持つ「高額感」は並々ならぬものがあった。デザインやロゴや色柄の好き嫌いは置いておいて、多くの消費者に「高額である」という事実が根強く刷り込まれていたといえる。
これを逆手にとって「ギフト販売」を強化することに成功した。

一方、フーセンウサギも百貨店・専門店を主戦場としながら、「セレク」はそこまでの「高額感」を消費者に刷り込むことができなかったように感じられる。
「ポールスミス」や「パーソンズ」「ソニア・リキエル」などのブランドは高額だが所詮はライセンス契約であり、いつ無くなるのかもわからない。自社ブランド「ミキハウス」とは立ち位置が異なる。

「ミキハウス」と同じ「高額感」を消費者に刷り込めているのはファミリアくらいではないか、というのが筆者の独断である。

さて、子供服メーカー苦戦の原因として少子化が言われているが、これはその通りだろう。
加えて、低価格ブランドに多くの消費者が流れたことも挙げられる。

赤ちゃん本舗がその代表と見られがちだが、その赤ちゃん本舗ですら苦戦を強いられた時期がある。
業界では低価格の西松屋チェーンが強いと言われている。その証拠に西松屋チェーンはジワジワと売上高を伸ばしている。

2011年2月期の売上高は1178億7100万円
2012年2月期の売上高は1198億1400万円
2013年2月期の売上高は1225億4600万円

となっている。

子供服をユニクロで購入する人も多いといわれているし、リサイクルショップで買う人もいるといわれるが、何よりも親戚やご近所からお古をもらうという人も多い。
筆者の家庭でもそうだったが、意外に知り合いや親戚から子供服のお古が回ってくる。

子供の体が成長するため、子供服は1年でサイズが合わなくなり着られなくなる。
このため、よほど金銭的に余裕のある家庭以外はなるべく安く済ませたい。できればタダがありがたい。
よしんば購入したとしてもそれほど破損せずに残る場合も多い。捨てるにはもったいないから誰かに差し上げたい。

こうして需給バランスが見事に釣り合うこととなる。

このように見ると、高額な子供服というのは富裕層の趣味の世界か、大衆のギフト需要としてしか成り立たないことがわかる。

もちろん、だからと言って、全社が高額子供服を止めてしまえば良いとは思わない。
しかし、事業を継続するなら、市場規模を見極めそこに向けて適切な企画、生産、物流、販促を講じねばならない。
高度経済成長期やバブル期のように、高額子供服ブランドを全国民に広めようと考えるのは無駄な取り組みだろう。

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