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南充浩 オフィシャルブログ

Eコマースは重要だが、実店舗での勤務経験はもっと重要

2021年2月5日 ネット通販 1

コロナ禍による長期間の店舗休業という事態を受けて、アパレルビジネスにおいてのWEBの重要性が増した。

また店頭の商況の悪さから、旧来型卸売りメーカーも避難路の一つとして、ネット通販への進出の必要性も増した。

そのため、WEBやEコマースへの関心が高まったのは当然といえるが、逆に過信しすぎ、商売の基本をおろそかにする風潮も強まったように感じられる。

 

多くの人が見落としているが、アパレルのEC化率というのは、ネット通販専業ブランド(有象無象のD2Cも含む)や通販出身ブランドを除くと、最も高いと言われているナノユニバースでさえ40%くらいである。逆に考えればナノユニバースですら60%は店頭で売れているということになる。

業界全体の平均では2019年で14%弱。2020年の統計はまだ出ていないようだが、恐らく伸びたとして

20%台だろうと個人的には見ている。

Eコマースの勝ち組としては、売上高でいうと1000億円強のユニクロが圧倒的だが国内売上高が8000億円もあるため、EC化率はさほど高くない。

ベイクルーズ、ユナイテッドアローズ、アダストリア、オンワード樫山あたりはネット通販を順調に拡大しているが、前回のワールドに関するブログでも書いたように、各社ともネット通販売上高が急増しても、実店舗売上高の激減をまったく埋め合わせられていないというのが実情である。

業界平均と考えれば、80%以上は実店舗で売れているということになる。

 

そうなると、直営店を持っているアパレルブランドや小売出身のブランドは、店舗業務こそが基本中の基本ということになる。(EC専業ブランドは除く)

全社員がトップセラーになる必要性はないが、全社員が実店舗業務を経験し、ある程度の知識を共有することが必要になる。

主戦場を経験したことのない人間が作戦立案しても机上の空論に過ぎない。

多くのWEB屋はアパレル店舗やひいてはアパレル業界そのものに対しての知見がない。逆にアパレルはWEBに関する知見が少ない。そのため、上手くかみ合わないケースが多い。

 

ワールドにせよ、直営店で成り立っているアパレルの多くは、新入社員はまず販売員を経験させられることになる。いくら企画職で採用とはいえ、だいたい2年くらいは店舗配属からスタートする場合が多い。

もちろん、人間には向き不向きがあり、店舗勤務がまるで向いてない人もいるとは思うが、この業界で長く仕事をしたいと考えるのであれば、一度は店舗勤務を経験しておいた方が良いと思う。

 

業界メディアの中では過去の蓄積や報道姿勢に関してはもっとも評価している繊研新聞だが、コラムに関しては首を傾げたくなるものが時々ある。

例えばこれ。

 

《視点》EC人材が企業トップに | 繊研新聞 (senken.co.jp)

 

まあ、今後、ECの重要性から考えるとそういう人事は大いにありだろう。しかしその主張は疑問でしかない。

 

勢いのある新興EC企業のトップ取材で「アパレル業界の組織のあり方が今の時代に合っていない」とよく聞く。数年は販売員としてキャリアを積まないと本部で働けないといった慣習などに疑問を呈し、能力のある人が最適な場所で活躍できるようにするべきだと考えている。

 

とのことだが、EC企業はそういう考え方になるのも当然だろう。何せ彼らには実店舗がないのだから。しかし、業界のトップ新聞がそれを是認するのはいかがなものか。

先ほども書いたようにネット専業ブランドならこの考えでやればいい。ただし、そういう会社が実店舗を出店した場合、実店舗運営ノウハウがないので、多くの場合は上手く行かない。餅は餅屋である。そうでなければ餅屋が存在できる理由がない。

今後、Eコマースの比重は増すので、Eコマース担当者が社長に就任するというのは、当然増えるだろう。また増えてもおかしくはない。

だが、実店舗を主力としているような企業で、実店舗経験を経ないままEコマース担当になった者がトップに立つことはなかなか企業そのものの存亡を危うくするのではないかと思う。

繰り返すがネット専業企業ならそれでもかまわない。

 

業界にはエラい先生方がたくさんおられる。様々なジャンルのコンサルタントがいる。

経営や経営戦略に関するコンサルタントがいつも現場に関する施策で効果があまり出ないのは、店舗勤務経験がないからだと見ている。

MDに関する施策なんて、店舗勤務経験がなければ絶対に地に足の着いたものが出来上がらない。特に実店舗が主販路であるブランドに関する施策では勤務経験は必要不可欠である。

商品を投入するにせよ、ストックの広さがどれくらいあるのかとか、どれくらいまで圧縮して積み上げられることが可能か、なんてことはよほどの天才的想像力がない限りは現場で経験してみないとピンと来ないだろう。

販売期間の設定だって、店頭ではどれくらいの時期にその商品に対する反応が無くなるのかなんていうのも経験しないとわからないだろう。

実店舗ありきのECだって実店舗勤務の経験がなければ、効果を発揮しにくい。逆に店舗での販売経験者がEC業務を勉強した方が効果が出やすいだろう。当方はEC担当者も2年くらいは実店舗勤務を経験すべきだと考えている。

EC専業ブランドを除いてはほとんどのブランドの「米の飯」は実店舗である。その実店舗の業務をおろそかにしても構わないと読み取られるような主張を業界紙が発表するのは、自殺行為ではないかとすら思える。

 

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2021/02/05(金) 4:02 PM

    日産のGTR造った水野和敏氏も、その後を引き継いだ田村宏志氏も若い頃は、日産ディーラーで販売員させられた経験があって、面白い話してましたね。
    水野氏は自著で、身体障害者のお客さんが買った車の色を変えたいから買い換える、って言ってきたそうで、それに対して「良い身分ですね」みたいな嫌味を言っちゃったそうです。そしたらお客さんは「身体が不自由な私には車は身体の一部なんですよ。車の色を変えるのは、健康な人が服を変えるようなものなんです。」とか言われたとか(うろ覚えですが)。それから、自分が売ってる車への見方が変わったらしいっす。
    田村氏は、最初は全く車が売れず大阪だったから関西人じゃない田村氏はよそ者扱いで大変だったようですが、途中から技術者じゃないと話せない車の話をするようにしたらトップセールスになったとか(こちらもうろおぼえ)。
    お二人共、技術者としての能力が高い方のはずですが、販売員時代の話をメディアに残してるということは、やっぱり店舗の経験が役に立ってるんだと思いますね。

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