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南充浩 オフィシャルブログ

ネット通販を強化すれば必ず収益性が高まるわけではない

2020年10月9日 ネット通販 0

一般的に、ネット通販は実店舗よりもコストが低くて儲けが多いと信じられている。

だが、最近はそうではなくなりつつあると感じる。

とはいえ、一概に「儲からない」わけではなくケースバイケースとしか言いようがないのではないかというのが率直な感想だ。

例えば、品揃えは全く同じで、当方のような個人が徒手空拳で小売店を開設する場合、ネット通販の方が実店舗よりも断然コストが安いと考えられる。

まず、家賃が必要ない。店舗の建築費またはリフォーム費も必要ない。

サイトの構築は建物を建てたり、リフォームしたりするよりもずっと安くでできる。

月々の家賃も必要ないし。規模が大きくなると倉庫代や物流費などがかかるようになるが、個人商店の場合は、必要なくて、自宅の一室や事務所の一画を倉庫代わりに使える。

 

だが、売上高規模が大きくなると、ネット通販は実店舗にも勝るとも劣らないほどコストが増大するのではないかと最近強く感じている。

先ほども述べたようにまず倉庫も含めた大掛かりな物流が必要になる。

次に本部要員も増やさねばならないから人件費が増大する。またWEBのシステムの構築やセキュリティーの充実なども必要になり、これらのソフト関連は一体どれほどの費用が必要になるのかは門外漢にはちょっと見当もつかない。

さらにいえば、ネット通販でもアパレル単独ブランド売上高では国内トップを独走するユニクロは、ここに莫大な資本を投下している。

それ以外にも広告宣伝費や割引クーポン発行など様々なコストが必要となるため、実店舗網を整備するのとさほど変わらないのではないかと思っている。

そして、最近の中堅から大手のネット通販への投資を見ていると、とてもではないが「ネット通販比率が高ければ高いほど収益性が高い」とは当てはまらなくなっているのではないかと感じる。

 

それについてナノ・ユニバースを題材として深地雅也さんが論じている。

ECを強化したら利益が増えるのか?

 

上記はTSI HDの決算資料ですが、EC化率40%を超えると言われるナノユニバースの粗利率が何と36.1%とめちゃくちゃ低い状況です。コロナの影響もあり、恐らく不良在庫をセールで捌いたのでしょうけど、それにしても中々の数字です。

 

なぜ、ナノ・ユニバースが題材に採りあげられるかというと、まずEC界隈・IT界隈ではナノ・ユニバースはEC化率4割を越えているため、称賛の的となっているからだ。ECというと成功事例の一つに絶対にナノ・ユニバースが採りあげられる。

しかし、業界にいるとナノ・ユニバースがすごく儲かっているとは全く耳にしない。その理由はこの売上総利益率の低さである。

ちなみに売上総利益率は業界では粗利益率と呼ばれることが多く、粗利益率が36・1%しかないというと、どれほどの低水準なのか途端にわかる人も多いのではないかと思う。

蛇足ながらさらに続けると、粗利益率から経費を引いたものが営業利益だから、粗利益率が36・1%しかないということは営業利益率はどう考えても多くて5%程度ではないかと思う。恐らくは1%くらいなのではないか。

そして、ナノ・ユニバースはこれまで、EC化率を高めれば高めるほど、反比例して粗利益率を下げ続けてきた。

 

今春は新型コロナショックでの店舗休業があったため、これまでになく低い粗利益率となっているが、それまで毎年2%ずつ粗利益率を下げてきたのは、主力販路であるZOZOTOWN内での値引きクーポンのばら撒きが原因ではないかと深地さんは指摘する。

 

ナノユニバースは2020年2月期の決算でおよそ270億円の売上。EC化率40%として、EC売上は108億円です。ナノユニバースはZOZOTOWNでの売上が大きく、年間で50〜60億円ほど売っていると予測されています。EC売上の半分程度はZOZOに依存しているという訳ですね。

問題は、ZOZOのようなモールの販促施策は大体がクーポン・セールに偏重しているという事です。セールなら粗利から引かれますが、クーポンは「販促費」なので販管費に計上される事が多いでしょう。ナノユニバースの粗利の算出方法はわかりかねますが、これだけ粗利率が低い理由の一つは、モールでの販売施策によるものが原因と思われます。ECは販管費が低い、と思われていますがこのような落とし穴もあるのです。

 

ZOZOTOWNだけではない。仕組みは楽天市場もYahoo!ショッピングも同じである。大手モールへの依存度を高めれば高めるほど割引クーポンやスーパーセールでの大幅値引きに自腹を切って付き合わざるを得ない。

 

また、自社サイトを強化すれば、冒頭から述べたようにコストが増大する。

 

もう勝手に時効にするが、オールユアーズが何年か前に赤字になったことがある。

その際の赤字の原因は、自社通販サイトを強化したためだったと、同社の原康人さんから直接聞いたことがある。その当時、Amazonなどへの出品をやめ、自社サイトでの販売のみに集中し、それを強化した。

そうすると、倉庫代・物流費・それから増員した人件費などが予想以上に積み上がり赤字になってしまったとのことだった。

この事例から考えてみても、個人経営店を越えた小規模企業でも、自社通販サイト機能を強化すれば、それ相応の高いコストが生じるということである。

 

ここまでネット通販が乱立してしまえば、競争は激化しており、サービス内容や値引き、システム強化などの競争は避けて通れない。

そうすると、決してネット通販は利益率が高いとは言えなくなってくる。

 

だから深地さんが指定するように、何も考えず「EC化率50%を目指します」と言っている事がどれだけおかしな事か、ということになるし、自社サイトを構えるにしても、2010年ごろの認識のままで「ネット通販なら儲かる」なんていう状況にはないということである。

ネット通販を強化するには相応のコストが必要になることを覚悟する必要がある。

現在のネット通販とは、実店舗で負けた人間が逃げ込んで安穏と暮らせるようなそんな牧歌的な世界ではない。

 

 

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