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南充浩 オフィシャルブログ

「美しい物語」でマス向けの洋服ビジネスは成り立たなかったJクルーの破綻

2020年5月22日 未分類 0

アパレルビジネス、ファッションビジネスに「美しい物語」は必要不可欠だが、「美しい物語だけ」では経営は成り立たない。

アパレルビジネスはどんなに理屈をこねても「服という『物』を売ってナンボ」である。

セミナー講師業のように形のないものを売って成り立っているわけではない。洋服レンタルはどちらかというとサービスを売る要素が強いように思うが、それでもメディアで騒がれた割には各社ともに規模は拡大できていない。

例えば、メチャカリなんかは最近のメディアでの記事によると

 

広報宣伝費を除くと黒字化した

 

というが、広報宣伝費を除く意味がさっぱりわからない。普通の事業で広報宣伝費を除いて決算発表するなんてことはあり得ないし、逆に言えば広報宣伝費を含めると赤字のままということになる。

そういえば、赤字が続いているレンタルサービスもある。レンタルサービスの収益性と市場性はその程度しかないということだろう。

 

アメリカのJクルーがついに経営破綻した。

コロナの影響でと報じられることが多いが、そんなことはない。コロナショックが起きる前から再び経営難に陥っていた。

コロナショックはその背中を少し押したに過ぎない。

Jクルーといえば、古い人からするとレナウンがライセンス生産で日本で展開したことを覚えているだろう。当方もよく覚えている。

若い世代の方はご存知ないだろう。

当方はレナウン版Jクルーの商品を買ったことはない。ただし、店頭ではよく見ていたが買うことには踏み切れなかった。

理由は2つある。

 

1、レナウン版Jクルーの商品は高品質なGAP、上品なエディー・バウアーという感じで当時のオッサン向けだった

2、セール時期には他ブランド同様値下げされたが、すでにユニクロブームも経験した中、他のブランドに比べると値引き率が低かった

 

この2点である。

テイストは上品なアメリカントラッドカジュアルで、当時の20代・30代にとってはオッサンくさすぎた。また価格はすでに98年のユニクロブームを経験した人たちにとっては高すぎた。高い商品が悪いわけではないが、セールでの値引きが他ブランドに比べて小さかったので、比べると買いづらいということである。

そんなこんなで2008年に日本から撤退したが、その数年後、アメリカで大復活を遂げた。

海外のファッション事情にはあまり興味のない当方なので、そのニュースを聞いたときには最初は驚いた。

要点をかいつまんでいうと、「美しい物語」をぶち上げてブランドリニューアルをし、価格は今までよりも少し高めにしてオシャレ感だけでなく品質も高めた。ということである。

その看板となったのが、デザイナーのジェナ・ライオンズとCEOのミッキー・ドレクスラーである。ただし、この二人ともすでに退任している。2017年のことだ。

Jクルーの復活はこの2人によって成し遂げられたことは間違いないが、2015年に突然巨額の赤字を計上して経営を再び悪化させた。その原因もこの2人の舵取りにあるといえる。

その2015年までメディアは散々Jクルーを持ち上げ、「美しい物語」を垂れ流してきた。

いくつもあるのですべてを紹介するのは面倒なので例えばこれとこれとか。

https://diamond.jp/articles/-/54038

https://toyokeizai.net/articles/-/32297

 

経済メディアですらこれほどの持ち上げようなので、ファッションメディアならどれほど持ち上げていたか推測できるだろう。そして当方はその持ち上げ方が気持ち悪くて嫌いだった。

このまとめなんてめちゃくちゃキモチワルイ。

https://matome.naver.jp/odai/2138546985994473601

 

2015年の突然の巨額赤字について当方は驚いた。なぜなら、それまで、現役時代の中畑清かよと言いたくなるほど「絶好調」としか報じられていなかったのに、突然に巨額赤字が発生するなんてことは普通はない。

それでは普通ではない何かがあったというわけで、普通ではないほどに売れなかったのか、普通はしないような在庫隠しがあったのかどちらかだが、それまで売れ行き不振は報じられていなかった。ということは、「美しい物語」の裏には不正な在庫隠しがあったと見るべきだろう。

 

J.クルーとニーマン・マーカス 新型コロナが幕引きした2つのマネーゲーム【小島健輔リポート】

11年から14年の非公開下の急成長期に不振在庫が積み上がり、運転資金を圧迫して15年1月期には7億999万ドルを減損処理して5億8502万ドルの営業赤字に転落。続く15年度第1四半期は既存店売り上げが92%に落ち込んで不振在庫が再び積み上がり、またも5億3336万ドルの減損処理に追い込まれ、5億2059万ドルの営業赤字を計上して成功神話は崩壊した。長期債務は20億ドルに膨れ上がり

 

と端的にまとめられているが、その通りだろう。

不正な在庫隠しは非上場時に行われていたため、問題性は低いと思うが、結局は「美しい物語」だけでは売れないし、そもそも「高品質高価格で大規模な売上高を狙う」という方針はアメリカでも成り立ちにくいということが証明されたといえる。

 

我が国にも「高品質高価格品な服を売れ」と主張する人は多いが、どれくらいの売り上げ規模を目指すんですか?という話である。

Jクルーのように26億ドル(大雑把に計算すると2800億円前後)もの売上高はそれでは到底支えられないし、実現できない。

低価格衣料品が安かろう悪かろうの時代ならそれは可能だっただろう。現に我が国のワールドやオンワードといった大手はそれで成長してきた。

しかし、低価格衣料品が「悪かろう」から脱してしまった現在では、その方針にマスがなびかないのは当然だといえる。

2000億円も売ろうと思えばマスに支持されるしかない。

 

前回アップしたD2Cでもそうだが、1億円とか5億円とか10億円とかの小規模ブランドはその限りではない。少人数の顧客に高価格品を買ってもらえば実現ができる。個人的にはその少人数の顧客さえ獲得できないブランドならやめてしまった方がよいのではないかと思う。

しかし、Jクルーは2000億円規模でそれをやろうとしたということで、いくら美しい物語を垂れ流したところで売れ残り在庫が増えるのは当然である。2000億円を見越してそれだけの数量を作っているわけだから。

所詮はビジネスなんだから過剰に在庫を抱えれば投げ売りしなくてはならないし、在庫処分屋に払い下げなくてはならない。抱えていたって在庫が消えることは永遠にない。

 

Jクルーの破綻から分かることは、アメリカでも「自身の売り上げ規模と目指したい売り上げ規模に見合ったブランディングをすべき」ということで、「高価格高品質をマスに」という売り方はアメリカでも不可能であるということで、もちろん我が国でも欧州でも無理である。

我が国はすでに証明されているし、欧州のラグジュアリーブランドがこぞって海外での販路拡大を目指していることからしても明らかである。

「高価格高品質の追求」を否定するつもりはないが、市場規模を見極めるくらいの冷静さは必要不可欠だということである。

 

それにしてもJクルーと、その昔、日本でライセンス展開していたレナウンが相次いで経営破綻したことは何か因縁めいていて興味深いと感じる。

 

そんなJクルーの並行輸入品をどうぞ~

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