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南充浩 オフィシャルブログ

商品の型数を増やしすぎると不良在庫は増える

2020年2月26日 考察 0

売り場に立っていると、すべての人のニーズに適合させることは難しいと痛感する。

それは自分の販売スキルが低いというせいもあるかもしれない。もしかすると「売る販売員」はそうではないのかもしれないが、今回は自分目線で考える。というより、どうあがいても他者になることはできないのだからそうするほかない。

正直にいうと、店に入ってきたお客が何を求めているのかなんてことはまったくわからない。

で、そんな販売員からすると、どんなニーズにも対応できるような幅広い商品を用意するのがベストではないかと現場では思える。

丸首、Vネック、タートルネック、ネックの開きが狭いのと広いの、丈の短いのと長いの、長袖と七分袖、などなど。

あらゆるニーズを捕まえようとすると「白い中肉のニット」というアイテムだけでも数限りなくバリエーションをそろえなくてはならなくなる。

一点ずつ見れば、デザインに差異はある。編地も異なる。

そういう揃え方を販売員としてはしたくなる。

 

これは恐らく、多くの商品企画担当者やマーチャンダイザーも同様ではないかと思う。

資金、売り場面積などが許すのであれば、あらゆるバリエーションを用意したいと思うのではないか。それができれば機会損失は圧倒的に減る。決してゼロにはならないが。

しかし、この揃え方をすると在庫リスクは圧倒的に増える。

多くのブランドが過剰在庫に苦しんでいる理由の一つとして「品番数を増やしすぎる」「型数を増やしすぎる」ということがある。

売り場に立っていれば、お客は好きなことを言う。

いわく「もう少し丈の短い方がいい」

いわく「首回りの緩いタートルネックの方がいい」

いわく「Vネックの開きがもう少し狭い方がいい」

いわく「丈が長い方がいい」

などなど。

 

はっきり言って、その要望をすべて適えることは不可能である。

 

「消費者の要望を聞きすぎては商品は作れない」

 

とはよく言ったもので、全部に真面目に向き合うと商品作り・商品デザインなんてとてもできない。

極端な言い方をすると、ある程度の雑音は無視すべきものでしかない。

 

 

過剰在庫の原因は様々あり、解決策もそれに応じて様々あると思うが、「デジタル化」や「AI(人工知能)導入」を優先することが課題解決ではない。

そんな物を導入するより前に、できることが各ブランド内部であるのではないかと思う。

 

当方が手伝っているバッタ屋にアースミュージック&エコロジーの商品が流れてきた。

今、最終処分値下げで売っているのだが、店頭には白い中肉のニットばかり残っている。1本のハンガーバーが真っ白になっている。

グレーやら紺やらのカラー物は先に売れて行った。

で、残っている大量の白い中肉ニットをよく見ると、デザインや編地が微妙に違う商品の集合体である。

遠目から見ていると、全部ただの白いニットにしか見えないが、近づいて見ると、同じ白いニットでも全部異なっていることがわかる。

 

それこそ、丸首、Vネック、丈の長いの、丈の短いの、ファインゲージっぽい編地、ローゲージっぽい編地、毛羽だった糸で編まれている物、ちょっとアシンメトリーみたいになっている物などなど、という具合だ。

恐らく、企画担当者(まあ、商社のODMに丸投げだったかもしれないが)からすると、幅広いニーズに対応したかったのだと思う。悪い言い方をすると保険を掛けすぎたともいえる。

一点ずつを近視眼的に見ると、それぞれに差異があって、それぞれの良さがわからないでもない。

だが、ハンガーラックにずらっと並べたときにはどれもこれも同じに見えるし、これだけ白のバリエーションがあれば、選んで買う側もウンザリする。

はっきり言えば、こんな商品企画だから不良在庫になったのではないかと思う。

選択肢を増やしすぎても何の効果もない。選択肢が増えすぎると選べなくなるという「ジャムの法則」をまったく考慮していないといえる。

 

アースミュージック&エコロジーが在庫削減のために取り組むべきは、AI導入でもデジタル化の推進でもない。まずは商品型数を絞ることである。

そして商品型数が多すぎて不良在庫を増やしているのはこのブランドだけではなく、業界には掃いて捨てるほどある。

そういう企業やブランドに限って、AI導入だとかデジタル化推進だとか、インフルエンサーとの提携だとか、を声高に叫んでおり、他力本願の見本みたいになっている。

アパレル業界の宿病として「ミーハーで流行り物に過度に弱い」ということがあるが、それが原因で何十年も前から「〇〇化すれば上手く行く」と言われれば、それに飛びついては失敗するということを繰り返している。

20年前なら「クイックレスポンス(QR)化」「SPA化」だっただろうか。

10年前なら「ネット通販強化」「ライフスタイル提案」「コト販売」あたりだろうか。

今は「AI導入」「デジタル化」「インフルエンサー起用」「D2C」「エシカル」「サスティナブル」あたりだろうか。(笑)

言葉が変わってるだけで全部同じ構図で笑えてしまう。

 

まず、商品の型数を絞ることを考えるべきで、白い中肉ニットなら10型も企画する必要がまったくなく、多くても5型ぐらいに絞らなくてはならない。

そもそも「ブランド」とは全方位の不特定多数全員に買ってもらうことが目的ではないはずである。それなら「ブランド」など必要なく、イトーヨーカドーの平場あたりにノーネームで並べておけばいい。

「ブランド」を嘘でも名乗るなら、ターゲットやテイストは設定されているはずで、そこに合う人だけに向けて商品を提案するのが本来である。

そこに合致する人に向けて商品を企画した場合、白い中肉のニットが10型にもなるはずがない。下手をすると1型で事足りる。

店頭に来たお客は無責任に好きなことを言うだろうが、「ブランド」のターゲットではないなら、商品作りで対応すべきではない。

不振ショップほど、無駄に商品の型数が多い。

 

まあ、そんなわけで不良在庫の削減に取り組むなら、内部でできることから手を付けるべきで、在庫問題に限らず一足飛びの解決法などこの世には存在しない。

 

 

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