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南充浩 オフィシャルブログ

ジーンズは伝統工芸品ではない

2013年5月17日 未分類 0

 小規模な児島のジーンズメーカー3社がパリに売り込みに行くも無残に玉砕した(ように見える)NHK岡山支局が放送した番組「現場に立つ」について、続きを書いてみたい。

http://www.nhk.or.jp/okayama/program/b-det0008-naiyou.html

パリに出向いたのは以下の3社

1、インディゴ染めにこだわるI氏
2、緯糸にカラー糸を使うため、裏がカラーになるジーンズを企画製造するH氏
3、ブラックデニムとブルーデニムの切り替えブッシュパンツを企画製造するT氏

のチームである。

さて、パリのセレクトショップとのやり取りから気になった部分を抜き出して紹介したい。

まず、インディゴ染めにこだわったジーンズを企画製造販売するI氏。

1軒目のセレクトショップオーナーに「色落ちしないジーンズはないの?」と尋ねられて、あえなく商談が終了したことは以前にも書いた。

3人そろって訪問した最後のセレクトショップでは、比較的高評価で今後の商売につながる可能性が見えつつ番組は終了する。
画面から見えるセレクトショップの印象は、ちょっと無機質なライトオンに古着屋っぽい匂いがミックスされている。
面積もかなり広く、少なくとも70坪はあったのではないだろうか。
筆者の目には100坪くらいにも見えていたのだが、画面だけのことなので詳細はわからない。

そのセレクトショップのバイヤーからI氏はそれなりの高評価を得る。
1軒目とはえらい違いであり、セレクトショップのバイヤーと一口に言っても、様々な嗜好の人が存在することがわかる。自分に合う店を探せば良いのである。

しかし商売が成立しなかったのには理由がある。
I氏の作る製品の値段が高すぎたのである。
番組によるとその店の中心価格は1万円台。I氏の作るジーンズは卸値だけで1万2000円。ここに関税やら店の利益やらを乗せると店頭価格はだいたい3万円台になるという。

1万円台が中心の店に3万円台のジーンズを置いたところでなかなか売れるものではないだろう。
ライトオンに3万円くらいのキャントンが置かれている場合があるが、果たしてキャントンは売れているだろうか?
そういう話である。

それでもI氏は値段は下げたくないという。
商談がまとまらないのも当然の成り行きだろう。

この場合、多くの方々ならどうなさるだろうか?

I氏のように持論を曲げないという姿勢もありだろう。
しかし、筆者は1万円台が中心の店に3万円台の商品を置いてもらうための努力は無駄ではないかと思える。

卸値が1万2000円というジーンズは正直日本でもかなりニッチな商品だろう。
日本での店頭価格も2万円ははるかに越えることになる。現在の状況でジーンズ単品にそこまでお金を注ぎ込む消費者はかなり少数派だ。
だからビンテージジーンズの各ブランドは売上高が少ない。
最大のブランドと目されている「エヴィス」ですら30~40億円強と言われているし、あとのブランドはだいたい2億~5億円程度である。
全ブランドを合わせてもビンテージジーンズの市場規模は100億円内外だろう。

おそらくフランスはもっと価格にシビアなのではないか。

筆者ならフランスに輸出するために卸値を6000円~7000円程度に下げる。

ジーンズは伝統工芸品や芸術作品ではない。
あくまでもカジュアルウェアの1種類である。カジュアルウェアの1アイテムに3万円を支払うだろうか。
しかもまったく無名の外国のブランドに。

この3氏のジーンズの製造姿勢を見ていると、なにか伝統工芸品か芸術作品と取りちがえているのではないかと思えてならない。
この3氏だけではない。ジーンズ専業ブランドにはそのようなスタッフが少なくない。
一般消費者は驚かれるかもしれないが、極度に工業品化しているはずの大手ジーンズナショナルブランドのスタッフだって多くはそういう嗜好がある。

染め、織り、加工、縫製技術にこだわる。
そういう姿勢は必要であることは筆者も深く同意するが、それがまるで伝統工芸品のように扱われるべきではないと思う。そういう風に作り手が捉えるできではない。

ジーンズはファッション衣料であり、カジュアルウェアの1アイテムである。

伝統工芸品的な考えで作られているからジーンズ専業ブランドは現在の国内市場でも苦戦を強いられているのではないか。
伝統工芸品の漆器や陶磁器はなるほど素晴らしい。しかし、日常生活において家庭での食事にそんな何十万円もするような漆器や陶磁器を使う人がどれほど存在するだろうか。

デイリーに使ってもらいたいなら、その技術をグレードダウンし、デザインをモダンにアレンジし、価格もそれなりに低く抑えなくてはならない。
そうすることでデイリーに使う人が増え、買いそろえ需要や買い替え需要が発生するのではないか。

ジーンズ業界の匠たちは、ともするとそういう伝統工芸品を志向する気分が濃厚にある。
しかし、それは日本国内でもニッチな市場であるし、欧米人にはさらに受け入れてもらいにくいだろう。

そのことが分かってるからエヴィスは欧州でのライセンス生産の契約を結び、日本国内とほぼ同じ値段で欧州で販売しているのだろう。

ニッチな市場の中でも「エヴィス」が高いシェアを占めるにはそれなりの理由がある。

3氏が伝統工芸品にこだわっているうちは、日本市場でも世界市場でも極めてニッチな商品という位置付けが変わることはないだろう。

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