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南充浩 オフィシャルブログ

改めて製造業を評価したい

2013年4月23日 未分類 0

 ジャージデニムなる物がそれなりに浸透してきた。
現在のジャージデニムには編物と織物の二種類がある。

ジャージデニムというくらいだから当初は編物だった。
繊維業界外の方は違和感があるかもしれないが、セーターもカットソーもトレーニングに使うジャージも全部編物である。織物ではない。

インディゴ染めした糸で編んだデニムっぽく見えるジャージというのが正しい呼び方だろうか。
一口に編物といっても、丸編み、横編み、縦編みなど様々な編み方がある。

アメカジ好きの人からすると、裏毛スエット地のジャージデニムに一番魅力を感じるだろう。
トレーナーなどで使用されている裏面がループ状になった編み地である。
ファッション雑誌はこれを指して「裏面がパイルになったデニム生地」と表記するが、それデニム生地じゃねーし。と指摘したいところである。

さて、この編物の利点は柔らかく伸び縮みする点である。
物事にはメリットがあればデメリットがある。
編物のデメリットは、ジーンズの中古加工がしにくいこと、とくに穴をあけるダメージ加工は不可能に近い。
編み地は糸がすべてつながっているので、穴をあけるとそこからドンドンほつれてくる。
穴をあけてその周りを縫製して穴の広がりを止めるという作業が必要になるが、これでコストはアップする。
その工程を省略した場合は穴がドンドン広がり売り物にはならない。

そこで考え出されたのが裏毛調織物デニムである。
裏地は裏毛のように見えるが実は裏も織物になっており、二重織りの技術を応用した物だという。

通常のデニム生地(織物)は堅いから→柔らかい編物でデニム(ジャージデニム)を作ろう→編物じゃ中古加工がしにくいから編物風織物を開発したよ←イマココnew

というこの3段論法は何だか本末転倒のような気もするが、工場の位置する場所が国内か海外かは問わず、日本の繊維製造業の開発力というのは改めて感心させられる。

さて、何かと日本の繊維製造業に苦言を呈することも多い筆者だが、長年親しんだ繊維製造業には何とか今後も生き残ってもらいたいと思っている。

昨今、disられることが多い日本の製造業だが、久しぶりに援護する記事が掲載された。
この記事は繊維以外の製造業のすごさを語っているが、繊維製造業にも通じる部分がある。

経済産業省の「現役官僚が提言!」らしいんですが、何を言いたいのか良く分かりません
http://bylines.news.yahoo.co.jp/yamamotoichiro/20130422-00024512/

このお役人さんは、クールジャパンならぬ「狂うジャパン」を推進する経済産業省の人だけあって、日本のアニメコンテンツを製造業と対比して持ち上げているが、アニメ業界の低賃金重労働は周知の通りであり、その辺りを解消せずして何がコンテンツビジネスかと思うのだが。

で、もう一本同じ方の記事を紹介するが、こちらの方が製造業の実態が良く分かる。

製造業の人たちは本当に凄いんだぞ、って話
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2013/04/post-f6a5.html

確かに、現地で日本人水準の給料をもらっているというだけで特権階級ではある場合も多いんですけれども、私のような金勘定や資源系商取引でフワッと現地にいって交渉して帰ってくるだけの人間からしますと、恐ろしいほど優秀で独創的でマネジメント能力に優れた人たちが育っています。

 だって、家族連れて6年とか7年とか現地採用の皆さんと集団で工場転がしてモノ作って検品して輸出してるんすよ。日本企業だったら波を打ったように静かになる全社集会とか、一度中国工場の見物にいったことがあるんですけど、もうね、質問したくて社員同士でマイクの奪い合いが発生したりするんすよ。中国工場では備品がすぐになくなるから社員同士の持ち物チェックや監視カメラで見ながらも意識付けをして「お前らを信頼しているからな」とか言ってマネジメントやってるんすよ。

 んで、ちょっとでもギャラがいい働き口が見つかると従業員がごっそり移動してしまう、そうなると大変だから中国人の家族同士や地縁血縁駆使しながら欠員が出ないようにシフト組んだり地元有力者に頭下げて回って溶け込む努力して、ようやく普通に回るかな? という程度。日中間で小島巡って鬩ぎ合いがあると日本資本というだけでヘイトの対象になる、それでも工場開けて最前線で転がしてる。

 凄いんだよねえ、現地でマネジメントしている製造業の日本人社員。ハングリーではないとか、意志決定が遅いとかあれこれ注文つくことはあるみたいですけど、20代で500万600万貰って現地出向いてそのまま数年いる日本人とか、信頼せずにはいられません。

 彼らの創意工夫を引き出す努力は凄まじいです。製造工程改善し続けないと死んじゃうから。これはもうね、製造業のDNAですよ。以前、でっかい半導体工場とか視察したけど、それはもう凄かったです。いろいろあって書けないけど。

 そんで、そいつらはより安い労働力と安定した電力と港湾までの渋滞のない輸送路を求めて別の東南アジアに生産力を何割か持ってくんだとかで、準備してるわけです。本当に、文字通り泣きながらリストラしているわけですよ。中国人、給料上がってきてしまったから。数年一緒に働いた社員を、給料上がったからって解雇するんです。

 別の会社では、貿易実務のヘッドオフィスを香港に持っていたんですけど、マレーシアに移転しました。それはジャパンパッシングとかそういう文脈ではなく、製造業として、知的生産ではない分野のコストをどう下げるのか検討を重ねてのことでした。で、R&Dやデザイン部門をむしろ日本に戻したりしている。試作を日本でやるかどうか、検討しているのも、基礎研究を中国から引き上げるのも、理由は明確でコストと品質の兼ね合いからですよ。

 伊藤さんが「最近の日本製品の傾向として、このように過去の延長線上でのモノづくりや、機能性の重視のモノづくりばかりが重視され、全般的につまらなくなっている」とか書いてました。これ、単純にPanasonicのことですよね。でも、彼らが不振なのは、機能性を重視しきれなかったことですよ。必要な機能だけに絞り込んで、安く製造する力がなかったので、ノンブランドの製品に欧米市場で負けているんです。

ちょっと長文を引用してみたが、アジアの拠点を構える日系の繊維製造業にも共通する背景である。

この記事で一番気になったのが、次の箇所である。

また、「売り上げ・利益・シェアばかりを重視し、数字で見える成果のみを評価し」ているのがいけないみたいですが、売上と原価がしっかり管理できていなかったら、製造業は経営できないんですよ。だからこそ、数銭の社内レートですら各部門、各地域子会社と轟々の議論をするんじゃないでしょうかね。貿易分野は特に、ルーブルが何%下がった上がったで大騒ぎなんですけど。

これは経産省のお役人だけではなく、自主ブランド展開を目指す若手クリエイターもどきにも共通する欠点である。
彼らの多くはロットがまとまらないから手作りで作品を作る。
だから原材料費以外の採算は度外視しているケースが多い。
手編みのニット帽を1500円で販売する類のことである。

例えば彼の時給を800円と計算すると、編み上がるまでに2時間かかったならそれだけで1600円のコストがかかっていることになる。そこに毛糸やリボンなどの材料の原価が上乗せされる。
これで1800円くらいにはなるだろうか。ただし、これはまったく利益がない状態である。

利益ゼロでずっと手作りし続けるのか?ということになるが、1000円の利益を載せれば2800円となる。

だから少なくとも2900円程度の価格にはする必要があるのだが、残念なことに専門学校でそういう教育を受けていない場合が多い。
お役人もそうだが、学校関係者もお金の話はまるでタブーのように触れない。
それでまともなブランドビジネスが構築できるはずがない。

ちょっと長くなってしまったが、今回引用した2つの記事は製造業以外の方にも読んでいただく価値があると感じている。

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