国内デザイナーズブランドの厳しい実情
2019年10月10日 デザイナー 0
東京コレクションに出展しているデザイナーズブランドのほとんどは満足な収入を得られていないというのが、昔から変わらない実情である。
デザイナーズブランドの多くは決算内容が非公開なのであまり正確な内情を知られることは少ない。また、メディアは忖度した報道を常としているし、デザイナー志望の学生を集めたいファッション専門学校も現状を正しく語ることは少ない。
東京コレクションに長らく参加してきた「ノゾミ イシグロ」が倒産した。
負債総額はたったの7900万円である。
少し前に、サンモトヤマが倒産した際に、単なる回顧記事がWWDに掲載されたが、その中に「たったの9億円が用意できなかったことには驚く」というような一文があったが、東京コレクションブランドにしろ、末期のサンモトヤマにしろ、その手のファッションスモールビジネスにおいて9億円というのは大金で、サンモトヤマのピーク時でさえ90億円強しか売上高がなかったわけだから、ピーク時売上高の10分の1にあたる9億円というのはとてつもなく重い金額だといえる。
極端な比較をすれば、ファーストリテイリングが1500億円の資金が足りないようなものだし、ワールドが200億円の資金が足りないようなものだから、9億円で破産するのは極めて当然だといえる。
しかし、7900万円の破産というのは驚かされるとともに、そのくらいの資金も用意できないのが、国内デザイナーズブランドの実情だといえる。
ノゾミイシグロといえば、東京コレクション参加ブランドの中ではそこそこに月日も経っていて知名度もそれなりに高い部類に入る。
それでも内情は
東京商工リサーチによれば、2013年6月期の売上高は1億2000万円。近年は需要の低迷などを背景に年間売上高は4000万円で推移、19年8月末で事業を停止し、今回の措置に至ったと報じられている。
とある。
年商4000万円前後で推移というのはなんとも厳しい。
年収ではなく、年商である。
売上高が4000万円しかないということは、恐らく赤字が続いただろうと考えられる。
コンサルタントやライター、タレントなどが年商4000万円あれば、相当の収入を得ていることになる。
なぜなら、モノを作ったり仕入れたりしていないから、ほとんどが粗利益になるからである。
もちろん、経費はかかっているがそれとても、交通費、通信費、接待交際費、光熱費、家賃程度だから、モノを作ったり仕入れたりしているビジネスよりは格段に低い。
しかし、デザイナーズブランドの場合、洋服というモノを作っているわけだから、製造費がかかる。
ひどく雑に計算すると、売上高の三分の一から、半分は自ブランドの製造費として消えるはずである。しかも年商4000万円規模ということは1型あたりの生産数量はサンプル程度に少ないから、通常のアパレルブランドよりも製造費は高くなる。生地代にしろ縫製工賃にしろアップチャージされる。
おまけに東京コレクションでショーを行うには、毎回1000万円程度の費用がかかると言われていて、年2回開催するとそれだけで2000万円が消えると考えられる。
この時点で売上高の4000万円は商品製造費と東コレ代としてすべて消えてしまっただろう。
さらに家賃、光熱費、通信費、交通費などの諸経費がかかる。そこに本来はまだ人件費も計上しなくてはならないから、タダ働きをしたとしても、赤字続きだったとしか考えられない。
そして、表面化していないが、この規模の国内デザイナーズブランドは世間が想像しているよりも多い。知っている範囲でいうと、ほとんどがこの規模もしくはこの規模以下である。
例えば、某東京コレクションブランドも活動歴は10年を越えていて知名度はそれなりにあるが、数千万レベルの売上高しかない。
たまたま、デザイナーの実家が地方都市の大金持ちだから、その実家からの送金で生活しているという。
これもまたたまたまだが、当方の知人の親族がその地方都市の会社での勤務経験があるのだが、知人がいうのは、その親族から
「社長の息子が道楽で変なブランドをやってるらしいが、ブランド名を聞いても誰も知らない」
と言っていて、当方の知人に向かって
「社長の息子のブランド名を知っている人(当方の知人のこと)に初めて会った」
と言うほどだったという。
実家が大金持ちというのも才能の一つだとは思うが、逆に言えば、実家が大金持ちでなければデザイナーズブランドは続けられないということにもなる。
また、2年くらい前にIT企業にファセッタズムが買収されたが、その際の金額はそれこそ、たったの4100万円程度だったから、いかに売り上げ規模が小さい、または負債を抱えていたか、である。
このほかにも、近年急速に知名度を上げていて、かなり期待されているが、実は製造費が払えなくて中堅商社に商標を差し押さえられていると言われているデザイナーズブランドもある。
これが国内デザイナーズブランドの現実だといえる。
東京コレクションを主な活動場所とするデザイナーズブランドはほんの一握りのトップ以外は、これが実情だが、その一方で、東京コレクションに参加せずにスモールビジネスを成立させているデザイナーズブランドもある。
こちらは経営は堅実で、若手ならSNSを上手く活用して熱心なファンを獲得し、そのファンが必ず買ってくれるという状況を作り出している。
foufouとかhazamaとかはその代表ではないかと思う。
少人数で年商1億円に達し、それでいて東京コレクションには参加していないから、年間2000万円の費用は必要ない。
「hazamaはどうやってソーシャルで売上を伸ばしたのか?」
売り上げ規模が大きければ良いというわけではないが、採算がとれていなければ、ブランドビジネスは成り立たない。デザイナーは服だけを作っていればいいというものではなく、営業も資金繰りも販促もすべて手掛けなくてはならない。とくにこの手のスモールブランドはすべてをデザイナー自身でやる必要がある。アウトソーシングすればそれだけコストがかさむからだ。
だが、ファッション専門学校に入ってくる「デザイナー志望」の学生はどうか。その多くは、営業にも販促にも資金繰りにもまったく興味を示さない。その上、専門学校ではそれらをほとんど教えず、ひたすらにデザインとソーイングとパターン製作ばかり教えている。
学校卒業後にきちんとした会社でそれらを学べる機会があれば軌道修正できる。また地頭の良い人は、経験しながら手探りで覚えていく場合もある。覚えられなければブランドは潰れてしまうからだ。
だが、そういう人はこれまで会った中では体感的に2割とか3割程度だろうか。7割くらいの人はほとんどその手の知識やノウハウを持たないままにデザイナーズブランドとして活動して、極小な売上高で厳しい生活を送っているか、ブランドが潰れて消えてしまうかのどちらかである。
ファッション専門学校は今回の「ノゾミ イシグロ」の倒産の実情を学生につぶさに教えるとともに、デザイナー志望の学生に営業・販促・資金繰りを教え込む必要がある。そして安易に「デザイナーを目指そう」なんて言って学生を勧誘すべきではない。