MENU

南充浩 オフィシャルブログ

作り手側の「良い物」は独りよがりになりがち

2019年10月7日 考察 0

「良い物」を作れば売れると、モノヅクリ系の人は考えている。

それはそうで、「良くない物」はいくら売り方・見せ方が上手くて一度は売れても、リピートはされにくい。

なぜなら、使ってみて良くなかったからだ。

 

特上品である必要はないが、最低限度の良さは必要である。

しかし、「良い物」と言ったところで、どこまでの良さを追求するのかは難しい。

 

先日、ウール関係の素材展に行った。

ウール100%の太い糸で編まれた生地が展示されていた。

生地の風合いはすごく良くて、暑がりのくせにセーター好きな当方としては相当に心惹かれた。

 

しかし、一概には言えないが、この生地でセーターを編んだら、恐らくは相当に重くなるだろうと思う。

 

そういえば、亡くなった弟が若い頃に、付き合っていた女性から手編みのセーターをもらってきたことがある。ちなみに当方はもらったことがない。(笑)

個人的にはそんな物は要らなくて、ユニクロで990円に値下がりしたウール100%のセーターの方が好きである。

 

で、結構太番手の糸で編まれた肉厚なセーターだった。何かの拍子に持ってみると、めちゃくちゃ重かったことを覚えている。

多分、着用すると鎧みたいになるのではないかと思った。

 

ウール100%の太番手糸で編んだ肉厚セーターは、風合いは素敵だが、ひどく重くなる。

孫悟空とかピッコロの訓練用の重い道着みたいな感じである。

 

なので、この手の商品は「良い物」と言ったところで、着る人を選ぶということになる。きちんと量産化したところで、マス層には売れないだろう。

ナイロンやポリエステルが20~30%入っている厚手のセーターがあるが、素材原価を削っているというよりは、軽量化を図っている要素の方が強い。

 

しかし、この手の商品を好むマニア層もいる。

 

要は自社の顧客層に対して、どういう商品を提案するかが重要だということになる。

 

当方もすっかりジジイになってしまって、しんどい服を着るのが苦痛になってしまった。

重い服、堅い服、分厚い生地、動きにくい服はいくら良い物でも要らない。値下がりしてても買わない。

だから厚手の綿100%デニム生地で作られたジーンズなんか絶対に要らない。

ワイドシルエットで13オンスくらいまでなら耐えられるが、レギュラ―ストレートの綿100%13オンスデニムは絶対に要らない。

 

しかし、世の中には14オンス以上のヘビーオンスデニム生地ファンがいる。

少数派ではあるが、それでも何万人とか何十万人くらいの市場規模はある。

だからそちらを狙って中規模ビジネスを確立させるというのは一つの立派な手法である。

 

SNSを通して知り合った中に、アイアンハートの原木社長がおられる。

アイアンハートはヘビーオンスデニム生地を使ったジーンズで有名なブランドである。

バイク乗りのためのジーンズということで18オンスデニムとか21オンスデニム生地の分厚いジーンズを提案され続けている。

 

ここの顧客に、12オンスのストレッチデニム生地で作ったパンツを

「伸び伸びで動きやすいですよ」

と勧めたところで絶対に売れないだろう。

 

なぜなら、そういう商品を嫌いな層だからだ。

 

一方で、天神橋筋商店街に買い物に来ているオバハン連中に18オンス綿100%デニム生地のジーンズを

「これは価値ある生地で作られてマスヨ」

と勧めたところで絶対に売れない。

オバハンは即座に

「そんな動きにくいジーパン、要らんわ~」

と拒否するだろう。

その光景や口調、声のトーンまでが即座に脳内で映像化できてしまう。

 

要は、自社が狙っている客層に向けて適品を提案できているかどうかということである。

 

アイアンハートと天神橋筋のオバハンは極端な対比のさせ方だが、アパレル業界にはこういうミスマッチが多くあるのではないかと思う。

 

作りて側の「良い物」と、顧客の「良い物」が噛み合っていないという例はたくさんあり、そういう商品はいくら、人気ブランドでもインフルエンサーが宣伝しようと、売れないし、売れたところでリピートにはつながらない。

 

先日、ユニバーサルオーバーオールというワークブランドの展示会にお邪魔した。

有名セレクトショップに軒並み入荷している人気ワークブランドである。

展示されている商品はそれなりに手ごろな価格で、雰囲気もあるから売れやすいのも頷ける。

 

 

そんな中、昨年春に発売したというベーシックタイプのチノパンをいただいた。

自宅で試着してみると、残念なことに、前ポケットが酷く浅い。

手首まで入らない。

前ポケットを飾りとして使う人ならこれでも良いのだろうが、当方は、前ポケットにスマホを入れている。

これが入らないと不便で仕方がない。

 

何度試着しても前ポケットは浅いままなので、ついに着用を諦めた。

 

先日、展示会に訪れた際に「申し訳ないのですが、前ポケットが浅すぎて不便で使えません」と報告したところ、

「実は、あの商品の売れ行きは鈍かったんです」

と逆に告白された。

 

原因は恐らく前ポケットの浅さだろうとのことで、シルエットのカッコよさを追求しすぎたあまりに前ポケットが浅くなりすぎたとのことだった。

 

そういうシルエット重視の商品を好む層もいるだろうが、ある程度のマス層に売るなら、シルエットを重視しすぎて不便になることもNGだといえる。

 

幸い、新型はそこを改良したとのことなので、ちょっと期待してみたい。

 

つらつらと書いているが、こういうミスマッチは多くのアパレルブランドやショップであるのではないかと思う。そういうミスマッチを解消することが売れ残り在庫を減らすことにもつながる。

作り手側・供給側は「良い物」の追求が独りよがりになりがちだから、そこは見直すべきではないかと思う。

 

 

ユニバーサルオーバーオールのリュックをどうぞ~

この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ