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南充浩 オフィシャルブログ

国産の「糸」が減っているという話を聞いてあれこれ考えたこと

2019年9月3日 産地 0

先日、撚糸工場、織布工場、整理加工場を見学した。

また別の日には合繊メーカーの方と酒を飲んだ。

 

そんなわけで久しぶりに「川上」どっぷりだったわけだが、今回印象的だったのは、国内で「糸」が作られなくなりつつあるということで、大手紡績の9割は国内工場をなくしているという話題が出たかと思えば、合繊メーカーも国内工場をなくしたり、設備投資を控えて老朽化に任せていたりする。

某大手合繊メーカーが5年くらい前から各ブランドとのコラボで売り出している某素材も、糸自体は台湾からの輸入である。

 

そんな感じで今回はとりとめのない話をあれこれ書き散らしたい。

 

業界紙やメディア、一部のイシキタカイ系ファッソン業界人は、10年くらい前から「国産を守れ」と大きな声をあげているが、実際のところは国産品は増えるどころか、良くて現状維持、下手をすると減っているという状況にある。

 

個人的には「糸」自体が国内で作られなくなったら、そりゃ生地の国内製造は減って当然だろうと思う。

なぜなら、糸が海外生産なら、生地も現地で作った方がコストも時間も省略できる。

糸を輸入して、それを生地にするという時間とコストを考えると、海外で糸を生産したなら、近所の工場で生地にした方が時間とコストが省略できる。

 

百歩譲って国内で生地を製造したとして、縫製工場は海外が主流だからまた生地を輸出するという手間を考えると、やっぱり現地生産の生地で現地縫製というやり方を選ぶことは極めて当たり前だといえる。

効率化を考えるなら当然である。

 

国内の製造加工場は今後減ることはあっても増えることはないと思っていたが、生地製造は縫製などの他工程と比べると最後まで国内である程度残存できるのではないかと思っていた。しかし、糸が国内で製造されなくなれば、生地製造も無くなって行かざるを得ない。

 

声をあげることは無駄とは思わないし、個々の企業が国産工場と提携して何かを打ち出すということも無駄だとは思わないが、決して根本的な解決にはならない。

また、無理やりに国産を組み込もうとすると、割高な商品を供給することにもなる。

 

ブランドステイタスが高くて、少々割高な商品を供給しても「さすがは〇〇ブランド」と言ってもらえるようなブランドならそういう商品政策を採ることもありだが、そうではないブランドなら商品が売れにくくなって収益を圧迫することになってしまう。悪くすると、在庫過多で倒産に至ってしまう。

単に「国産」というキャッチフレーズだけで物が売れる時代ではない。

 

国産の洋服、国産生地を守れと言うのは簡単だが、実際のところ、難しい。

大手紡績や大手合繊メーカーまでもが国内で糸を生産しなくなれば、生地を国内で作るという構造自体が揺らいでしまう。

 

とはいえ、逆に国内生地を使い続けているブランドもある。

プラステから生地の発注が6000反くらいあってパンクしかけているという工場もあるし、セオリーの生地を織り続けているという工場もある。

だから一概に国内生地生産が絶対にダメだというわけでもないのだろうと思う。

 

 

ただ、「お涙頂戴物語」や「物作り情熱物語」を量産したところで国内生産の落ち込みは止められないことは事実で、それが可能なら、今頃は少しは成果が出ているはずである。

業界全体の構造を再構成したグランドデザインを描けるような人や集団が欲しいところだが、残念ながら、この業界全てに精通した人は存在しない。

だからそのようなグランドデザインが出てくることは極めて可能性が低い。

結局は個々の企業やブランドが工夫を凝らすしかないし、現実味があるとするならそういう有志連合を作って活動することくらいだろうか。

 

そんなことをつらつら考えた。

 

あと、余談で、これはまた後日にまとめてみようと思うのだが、製造加工業はもっと自社の仕事内容を発信すべきだと思う。

例えば、整理加工という工程は非常に地味で、何を整理してんだ?というくらいにしか認識していない人が業界にもたくさんいると思う。当方だってそのうちの一人である。

それがために、国内の整理加工場は減少し続けているし、大手の倒産や大手の事業譲渡も相次いでいる。

一口に整理加工場と言っても、ウールが得意な工場もあれば、ストレッチ生地が得意な工場もあって、細分化しているらしい。

 

ストレッチ生地を例にとってみると、同じような織り方で同じような分厚さ、同じようなポリウレタンの混率なのに生地の伸縮性がまったく違う場合がある。

これはどうしてそんなことになるかというと、もちろん織り方や生地の構造の違いによってそうなる場合もあるが、実は整理加工で伸縮性をコントロールしている場合も多い。

整理加工というのは織り上がった生地の最終工程で、ここで縮絨(要するに縮める)したり、起毛したり、表面を滑らかにしたり、という加工が施される。この工程がないと生地は売り物にはできない。織り上がっただけの生地というのは表面が荒れていたり、スカスカだったりする。ユザワヤなどの手芸店で売られている生地はすべて整理加工の工程を経ている。

 

で、整理加工では熱を加えてポリウレタンの伸縮率をコントロールするのだが、熱を加えて伸縮性を「半殺し」にする場合もあればもっと加熱して「全殺し」に近い状態にすることもある。

逆にあまり伸縮性を殺さない場合もある。

これが同じようなストレッチ生地で伸縮性が異なる理由の一つである。

しかし、多くの人は整理加工がそこまで重要な工程だとは思っていないし、一般消費者になれば整理加工なんていう工程があることすら知らない。

 

だから発信は重要で、そういう工程でそういう工夫をしているということが分かれば、単に低価格品だけを求めるわけではなくなることも増えるだろうと思う。

 

今回はまあ、そんなところだ。

 

 

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