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南充浩 オフィシャルブログ

「ガレージブランド」というジャンルのことを教えてもらった話

2019年6月26日 企業研究 0

先日、スポーツ関連の雑貨類の小規模なメーカーの人とお会いしたのだが、その際、「うちは卸値の掛け率が他社より低いので受注が増えている」という話になった。

このメーカーは自家工場を所有しているから他社よりも掛け率を低く設定しても利益が出るのだそうだが、通常のアパレル業界のことを考えると、さぞかし身を削っているのかと一瞬物悲しい気持ちになった。

しかし、よくよく聞いてみると「うちの卸値の掛け率は55%なんです」というから驚いた。今のアパレル業界だと「掛け率55%」というのは低くもなんともなく、むしろ高い部類に入ってしまうからだ。

 

そしてもう一つ驚いたのは、スポーツ関連業界の掛け率の高さである。「55%で低い」のだから通常は「60%くらい」あるということになる。

人気の某ブランドなんて噂では「掛け率が80%前後」だと言われている。

 

このブログの読者は業界関係者が多いから今更「掛け率」について書くまでもないだろうが、そうではない人のためにちょっと書いておく。

商品を仕入れて販売する際、小売店は店頭販売価格の何割かで仕入れる。そしてその差額が粗利益となる。

アパレル業界の場合、教科書などでは通常「掛け率60%」と教えられる。

1万円の商品なら6000円で仕入れているということになる。

これは仕入れ原価だから製造原価はもっと低いことになるが、自社製造で自社販売しているSPA型なら仕入れ原価と製造原価は限りなく近くなってくる。(完全には一致しない)

このため、SPAブランドは仕入れブランドより粗利率が高いということになる。

 

しかし、通常の衣料品の場合、客単価の低下や販売価格の低下、過剰在庫による投げ売りの増加、などから小売店は利益を確保しようとして、仕入れ原価を切り下げ続けている。

このため、通常アパレルだと掛け率は60%なんていうのはほとんど見られなくなり、55%でも高いぐらいで、50%とか45%が珍しくなくなっている。

1万円の商品なら5000円とか4500円で仕入れているということになる。

そういう状況にある。

 

通常アパレルのこの状況を知っていれば、スポーツ関連業界の「掛け率55%だから他社より低い」という状況は驚くほかない。

 

このメーカーが重宝されているのは、掛け率の低さだけではない。小回りの利く生産体制や企画体制も評価されており、これまで本格的な商品を製造したかった新興ブランドにも重宝されているのだという。

ところで、スポーツウェア関連は素人に近い当方は、スポーツウェア業界についてはちょっと面白味のない業界だと感じていた。

正確にいうと、商品や素材は機能性満載だし、新技術も満載されるので非常に興味深いが、売り先のバリエーションがなく、小売店という観点で見るとマンネリ感しかなかった。

一番の大販路はゼビオやアルペン、スポーツデポなどのスポーツ量販専門店チェーンだろう。ついで百貨店、中小専門店チェーン、大手総合スーパー、などという感じになっており、新しい売り場の情報は門外漢にはなかなか入ってこない。

 

しかし、最近は小規模な新興勢力が増えてきており、「ガレージブランド」と呼ばれているのだという。

気になってググってみると、けっこうたくさんの記事が出てきた。

例として一つを貼っておく。

 

GARAGEーガレージブランドがアウトドアをもっと豊かにするー

https://hyakkei.me/specials-4

 

スポーツというよりはアウトドアが主流であることがわかったが、スポーツとアウトドアの垣根は低く、例えばスポーツアパレルのゴールドウインはアウトドアブランド「ノースフェイス」の企画生産をしているし、デサントは「水沢ダウン」を企画生産している。

小規模な新興オリジナルブランドが続々と生まれており、そのいずれもが既存のブランドや既存の売り場に満足できなかった人たちが起こしているらしい。

 

アパレルでいうと、90年代後半のインディーズデザイナーブランドや裏原宿系ブランドみたいな立ち位置だろうか。

しかし、アパレルの場合、インディーズデザイナーブランドや裏原宿系は結局大資本の前に破れたり飲み込まれたりした。それが国内企業の場合もあるし、海外企業の場合もある。ベイシングエイプが40何億円の負債ごと、香港の大手企業に買収されたのはその典型だろう。

このスポーツ・アウトドアのガレージブランドもそうなるのかどうか。

 

既存のよく知られている大手のスポーツアパレルは、この手のガレージブランドとほとんど取り組んでいない。一つには企業規模が違いすぎて小規模なブランドやショップとやる旨味がないのだろうと思う。もう一つはこの手の動きに鈍いか上層部が鈍いかのどちらかではないかとも思う。

スポーツ・アウトドアのウェアや道具は、見てくれのデザインも重要だが、それ以上に最低限の機能性が求められる。綿100%のカジュアルTシャツなら機能性はゼロでも構わないが、スポーツ・アウトドアはそうはいかない。いくら「なんちゃってアウトドアブランド」といえどもやっぱり最低限の機能性は必要となる。

ガレージブランドはどうもそのあたりの「最低限の機能性」を担保できていない部分も多いと言われているが、今後はそのあたりも徐々に改良されていくのではないかと思う。

大手スポーツアパレル各社はどう取り組むのだろうというところに興味がある。もちろん、各社の方針は異なるから、完全無視もあるだろうし、それなりに取り組みたいという会社もあるだろう。

 

とはいえ、なかなか新興勢力が出てこなかったジャンルだけに今後どうなるかに興味は尽きない。

 

それにしても長いこと業界にいるが、少しジャンルが異なるだけで商売の環境は全く変わってくるということを改めて痛感した次第である。

 

 

 

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