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南充浩 オフィシャルブログ

ネット通販は飽和しつつあるように感じる

2019年5月29日 トレンド 0

先日、あるメーカーが遅まきながらネット通販に乗り出したいという話を聞いた。
新ブランドを立ち上げてそれをネット通販したいそうなのだが、問題はその手法だ。
ちなみにここの社長はそれほどの高年齢でもないがネットに関してはからっきしのド素人である。
 
自社サイトを構築するにはそれなりの費用がかかる。まさか今時ホームページビルダーでタダでできるなんて思わない方がいい。
まあ、サイトの構築業者の値段設定もピンキリで、例えば、2年くらい前に相談があった某大手メーカーは、広告代理店と組んだ業者から提示された金額がウェブの年間運用も含めて1000万円くらいで、広告代理店の取り分も入っているからなのだろうが、あまりに法外な価格なので、当方が高すぎるからやめさせた。
とはいえ、逆にタダとか安すぎる価格というのも何か問題のある業者である場合が多い。
常識的には、何十万円かはかかると考えた方がいい。
 
しかし、繊維・衣料品業界の製造加工系の人は酒を飲むこと以外の「見えない物」にお金をかけることを極端に嫌う性質がある。
そのため、どうもこの社長も自社サイトを作ることを嫌がっているような気配が漂っている。
もともとはZOZOに出店を開始して、それと並行して自社サイトを立ち上げるという話だったのが、どうも自社サイトに何十万円かかかると聞いて及び腰になり始めたらしく、「ZOZO出店だけでできないか」と言い始めたようだ。
 
知名度の高いブランドなら話は別だが、だれも知らない新ブランドが自社サイトを立ち上げたところで、立ち上げ当初はそれほどの売上高が見込めないことは火を見るよりも明らかである。
一方、ZOZOはなんだかんだ言っても、上手く行けば毎月確実にいくらかの売上高が見込めるだろう。何せ、ZOZOが集客をしてくれるからだ。
 
となると、コスパから考えると、立ち上げ当初からZOZOのみへの出店というのは正しい政策ということになる。
しかし、目先の利益だけに飛びつくと、儲けは少ない。長期的視野に立てば「自社サイトなしでZOZOだけの出店」というのはあまりメリットがない。
 
断っておくと、上手くやればそれなりに売上高は稼げるようになる可能性はある。
 
だが、やっぱり「自社サイトなし」というのは得策ではない。
どうしてかというと、顧客リストがまったく貯まらないからだ。
顧客リストはZOZOが管理することになっているし、わざわざ出店者にそれをフィードバックはしないから、このメーカーが仮に10年間出店し続けたとしても顧客リストは全く増えない。
 
一方、自社サイトの場合、立ち上げ当初はほとんど売れないだろうが、長年続けていくと顧客リストは貯まり続ける。仮に、10年自社サイトで売り続ければかなりのリストを持つことができるようになる。
そうなれば、自社サイトで物が売れるようになる。外部のモールのみに依存すればそれは永遠に手に入らない。
 
ここのところを勘違いして、ネット通販に今更乗り出そうとするメーカーや製造加工業者はけっこういる。
たまたまZOZOになったが楽天とて同じで、自社とモールを並行してやらないと、いつまで経っても自社の顧客リストは増えないままである。
 
繊維・衣料品業界の経営者でネットが苦手な人は珍しくない。そういう人に限って、なぜかネット通販をやればすぐにでも何億円か売れると思っている。不思議なことである。
どうして自分がよく知りもしないツール(ネット通販なんて物を売るためのツールの一つに過ぎない)をそこまで盲信できるのか、甚だ理解に苦しむ。
そして、そこまで盲信しているなら、新興宗教よろしく多額のお布施をすればよいと思うのだが、お布施をすることは嫌がる。まったく理解できない。
 
先日もこのブログで紹介したが、2018年度の衣料品・服飾雑貨のEC売上市場規模は約1兆7000億円だった。もちろん伸びてはいるが、これはネット通販を開始したブランドが増えたこともあると当方は見ている。
売上高を増やすには出店数を増やせばいいのと同じ理屈である。
そして、今ではどのブランドもネット通販は当たり前になっており、消費者が受け取る情報量は増え続けている。その結果、「誰か選んでよ」という状況になっており、定額制の「お任せサービス」なんていうのが生まれている。
当方はそれなりに興味があるから、多くの商品を見て、自分で選ぶことが好きだが、そこまで好きではない人からすると「めんどくせえな」ということになる。
だから「定額制のお任せサービス」なんていうのがそれなりに支持されているといえる。
となると、ネット通販自体は心理的には飽和状態に近くなっていると見た方がよいのではないかと思う。
 
そういえば、4月にオールユアーズの原さんと話したがその際に、

ネット通販オンリーではやっぱり限界があります。今、47都道府県をキャラバンして試着イベントを開催していますが、やっぱり試着イベントをやるとネットの売上高が増えます。
「以前から気になってたけど、試着できる実店舗がないから買わなかった」というお客が多数おられて、試着をするとその場で、ネットから購入してくれます。

と話していたことを思い出す。
 
結局、服の場合、身に着ける物だから最終的には試着できてナンボみたいなところは絶対になくならない。無策にネット通販をやれば売れた時代はとっくに終わっている。
 
目先の売上欲しさに有名モールにのみ出店していれば良しという姿勢では、このメーカーを含めて多くの衣料品業者は今後ますます苦戦を強いられるだろう。
 
 
 
オールユアーズのディーパーズウェアのキテテコをどうぞ~

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