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南充浩 オフィシャルブログ

「繊維業界」「衣料品業界」内にはすさまじいキャズムがある

2019年3月7日 考察 0

来月の末には49歳になるということで、最近知り合う人はめっきり年下の人が増えた。
完全にジジイになりつつあるということである。
年下の若い人たちは、アパレルブランドや販売関係だったりする。アパレル業界の言い方だと「川下(店頭)」とか「川中(アパレル)」と呼ぶが、通常、多くの人が知っているアパレルブランドは、直営店を多数持っているので「川中」でも「限りなく川下に近い川中」だといえる。
原料や素材の段階を「川上」と呼ぶが、川上で従事する人と、川下で従事する人は同じ「繊維業界」「衣料品業界」と言っても、持っている知識や知っている世界がまるで違う。
そして「川下」の若い人たちと話すと、その違いに驚かされることがしばしばある。
川上と川中にもそういうキャズムはあるし、川上と川下はすさまじいキャズムがあり、そこは最早「断絶」と呼んでもよいほどではないかと思う。
最近、驚いたキャズムをいくつかご紹介する。
 

合繊メーカーはレーヨン製造をベースに始まっていることが多い

代表的な大手合繊メーカーの社名を思い浮かべると東レと帝人が挙がるだろう。
今となっては社名に対して何の疑問も抱かないが、東レの「レ」って何ですか?と尋ねると、川上の人はあっさりと答えられるだろうが、川下の人の多くは答えられない。
答えはレーヨンの「レ」である。
東レの旧社名は東洋レーヨンで、東洋の「東」とレーヨンの「レ」で東レなわけである。
帝人も旧社名は帝国人造絹絲で、人造絹絲とは何かというと、これはレーヨンの和訳である。
ちなみに東レは三井グループで、帝人は三和のUFJグループに属している。
石油を原料とするナイロンやポリエステルという合成繊維が作られるようになるのは、第二次世界大戦後のことになるので、それまでの合繊はパルプを原料とするレーヨンだったということも「川下」の人にはあまり知られていない。
クラレの「レ」もレーヨンの「レ」であり、旧社名を倉敷レーヨンという。
 

グンゼはミシン糸メーカーの大手であること

グンゼは肌着・靴下メーカーの大手として知られているが、実はミシン糸の分野でも大手である。
業界新聞記者時代にジーンズ関連の特集をする際、縫製に使うミシン糸の現状も年に2回掲載しており、その際、必ずグンゼのミシン糸の動向も掲載していた。
最近はグンゼのミシン糸のことなんて思い出すことも少なくなっていたが、ふとしたことで、若い人たちに尋ねてみるとやっぱり知らなかった。
グンゼのミシン糸は衣料品の縫製だけではなく、産業資材の分野でも使われており、例えば自動車シートの縫製や野球の硬球の縫製にも使われている。
これも縫製に詳しい人なら当たり前の知識である。
 
まあ、二つばかり挙げてみたが、以前にこんな記事が書かれている。

ファッション業界内のキャズムについて考える


 
 
現に僕の先輩で超有名ブランドで有名セレクトショップのバイヤーにセールスしてきた人ですら「ホールガーメントって何?」と言ってたりするんです。こういった事例は枚挙に暇がありません。
 

ホールガーメントに対する誤認

ということで、例えば、ホールガーメントについてもここで書かれているように知らないという人や、まったく違った独自の解釈をして盛り上がっている人もいて、逆に事実が伝わりにくくなっているといえる。
 
ニットのことは詳しくないが、ホールガーメントについて「縫い目がないから美しく見える」とか「縫い目がないから着心地が良い」なんて書いてあることが多いが、まったく認識が間違っているといえる。メーカー側がこれを言う場合は、単に「売りたいから」という動機なのだが、キャズムの向こう側にいる人はニットやホールガーメントについての知識がまったくないか、かなり浅いからだといえる。
セーター、とくにウールのセーターを素肌に直接着る人はあまりいない。たいていの場合は、肌着やTシャツ、タンクトップの上から着る。トラッドな人なら襟付きシャツの上から着る。そうなると素肌に直接触れるわけではないから、セーターに縫い目があろうと関係ない。
縫い目がまったくないからシルエットが貼りつくようで美しいというのも眉唾でしかない。ユニクロのハイゲージのホールガーメント(3Dニットというネーミングもミスリードを誘いやすい)を見て言っているだけというのが丸わかりである。じゃあ、ざっくりした少しルーズシルエットのローゲージ、ミドルゲージセーターのホールガーメントはどうなるんだろうか?ホールガーメントは別にファインゲージ、ハイゲージ専用の編み機ではない。
ざっくりしたセーターに「貼りつくようなシルエットの美しさ」なんてないことはアホでもわかる。
そして、ホールガーメントはシンプルでつるっとしたセーターだけを編めるのではなく、現在ではコンピュータープログラムによっては通常の編み機では編めないような複雑なデザインのセーターも編むことができる。
 
セーターについて「縫い目」と書いてあるが、セーターは首部分、袖先のリブ、胴体裾のリブは縫っておらず「リンキング編み」という手法で「編みつないでいる」。
このリンキングにはすごく細い糸を使うから、リンキング職人は視力が衰えやすい。そして地味な作業であるため、国内のリンキング職人はどんどん減っている。若い人で成り手がいないためである。
そうすると、いずれはセーターが作れなくなるので、リンキングが不要な一体成型のホールガーメントが開発されたというわけである。別に「縫い目をなくしたい」とか「貼りつくような美しいシルエットを作りたい」とかそんなことはまったく考えずに開発されたのが事実である。
 
要するに何が言いたいのかというと、同業他社では「当たり前」と思っている情報でも川下では知られていないことが本当に多い。逆も然りで、川下で当たり前だと思っていることを川上は知らない。
当方は「川上」や「川上に近い川中業者」に言いたいのだが、凄まじいキャズムがあるからこそ、当たり前と思っていることも、実は川下では価値ある情報だと受け取る場合が多い。上で挙げたグンゼのミシン糸なんてもっとグンゼが発信するべきである。
 
凄まじいキャズムがあるために川上も川中も川下もまったく噛み合わないといえるが、キャズムがあるからこそ、既存の情報を編集次第では新しい業種・業態のように見せることもできるのではないかと思う。
 
まあそんな感じである。
 
そんなグンゼのミシン糸をどうぞ~

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