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南充浩 オフィシャルブログ

「下町ロケットゴースト」とダウンジャケット

2018年10月23日 企業研究 0

10月14日からテレビドラマ「下町ロケット」の続編である「下町ロケットゴースト」が始まった。
池井戸潤さんの大ヒット作の続編で原作小説は今年夏に発行されたが、さらにその続編「下町ロケットヤタガラス」も発行された。
小説は3作目、テレビドラマは2作目となる。ドラマの1作目は小説2冊を合わせているからだ。
今回も「ゴースト」と「ヤタガラス」を合わせてドラマは放映するだろう。第1部「ゴースト」第2部「ヤタガラス」の構成になると思われる。
いつもの「現代版水戸黄門」「現代版遠山の金さん」ともいうべき黄金パターンが繰り広げられるのだが、「ゴースト」第1話で、主人公が経営する佃製作所は新規事業の立ち上げを迫られる。
工業系はさっぱりわからない当方にとって、すべての製品が「バルブシステム」に通じるのは本当なのか訝しく思われるのだが、そういえば、同じ池井戸ドラマ「ルーズヴェルトゲーム」ではすべての製品のキモは「イメージセンサー」だったから、池井戸ドラマ特有の演出なのかもしれない。
新規事業としてトランスミッション(変速機)への参入を掲げ、農業トラクター用のトランスミッションバルブシステムの開発に取り組む佃製作所だったが、開発には難航する。
トラクターを自分で動かしてみて、そこから着想を得た新型バルブシステムで、コンペを勝ち抜くのだが、その新型バルブシステムは、スペックではかなり劣るものの、部品数を極限まで削減し、頑丈さ・壊れにくさに特化したバルブシステムだった。
トラクターに超高性能は要らない。それよりも壊れやすさや作業ムラをなくすことの方が重要
というのが佃製作所がたどり着いた結論だった。
前作「下町ロケット」をずっと見ていた当方としては、それまで「職人の魂」だとか「高品質の追求」だとか「さらなる高スペックの実現」ばかり掲げてきた「モノヅクリガー」の佃製作所が危機を打破し続けられることに違和感があったが、今作では佃製作所は「単純なモノヅクリガー」を脱して、自己流ではあるがマーケティングの思考を身に着け始めたことが進歩ではないかと思えた。
バルブシステムもエンジン(これが佃製作所の本来の主力商品)もその用途によって、着目すべきポイントは異なる。一概にどれもこれも「ハイスペック」「高速化」「高出力化」すれば良いというものではない。
何を当たり前のことをと思われるかもしれないが、繊維・衣料品業界に置き換えてみるとどうだろうか。まだまだ「単純なモノヅクリガー」で溢れていないだろうか。
例えば、数年前のダウンジャケットの「フィルパワー競争」だ。
平たく説明すると、フィルパワーの数字が大きければ大きいほど保温力が高くなる。だから各社はダウンジャケットに内包されるダウンのフィルパワーの数字をことさらに強調した。
高ければ高いほど保温力というスペックが高くなるから付加価値につながるだろうということだ。
重要なことは「つながる」のではなく「つながるだろう」という部分である。
通常、500以下のフィルパワーは低品質で保温性が低いといわれており、550以上なら保温性が高くなる。600~700くらいで良品であり、700以上は超良品とされている。
当方は暑がりだが、さすがに真冬に半袖Tシャツ1枚で歩くことはできない。毎年それなりの防寒着を着用する。ダウンジャケットでいえば、普通の都市で電車中心の生活をするには、薄手ダウン、中肉ダウン以上の分厚いダウンだと暑くてたまらない。分厚いダウンを2枚ほど持っているが、これは「超低温寒気団」が来たときくらいにしか着用しない。体質的に着用できないと言った方が正確だろうか。
もちろん、冬山に登山したり、南極探検に行くには、超ハイスペックな保温性が求められる。
しかし、電車通勤の都市生活しかしない人間にとっては、超ハイスペックの保温性はまったく必要ない。
にもかかわらず、当時、さまざまなブランドは「当ブランドはフィルパワー750」「当ブランドは800」などとフィルパワーの高さを競った。なるほど冬山登山や冬のアウトドアに出かける人には良いかもしれないが、電車通勤の都市生活者にとってはそんなものはオーバースペックだ。600とか650程度のフィルパワーで十分おつりがくる。
これって、以前の佃製作所と同じではないだろうか。農業用トラクターに高出力・ハイスピードと意味のないハイスペックを求めていたのと同じではないか。作り手の自己満に過ぎなかったのではないか。
GUの破壊力
こんなコラムがある。ジーユーはなるほどすごいなと思わされる一節はここだ。

さらに気になったのは、ダウンジャケットの品番が一つもなかった点だ。多くの国内ブランドでダウンジャケットの仕込みに注力しているが、GUではゼロ。理由は実にシンプルで「高額になってしまうから」と言う。価格が高いと若年層は振り向いてくれない。一つでも高額なモノがあると、間違ったメッセージを送ってしまうらしい。ここ数年で売上高を急拡大させているGUだが、価格MDには細心の注意を払っている。

とのことで、低価格に特化するから、高額になりやすいダウンジャケット類は用意しないというのは素晴らしい決断だといえる。
業界慣習として10月21日から防寒アウターが立ち上がる。それでも今年のジーユーにはダウンジャケット類は並んでいない。すべて「中綿アウター」である。
これが高額ブランドなら「なんだそりゃ?」ということにもなりかねないが、「若者向け低価格」を主軸に置くなら、高額になりやすいダウンジャケットを置かないというのは英断だといえる。
低価格なのにダウンジャケットを何とか並べようとして、異様に工賃を値切ったり、ダウンは高いからフェザーを60%くらい混ぜて「フェザージャケット」を作ってみたりするよりは、はるかに正しい。
工賃を異様に値切って低価格ダウンを作ったり、フェザーばかり内包されているフェザージャケットを作るのは、「ダウンジャケット」に呪縛されているからで、「低価格」が主軸ならもっとほかの切り口を模索すべきである。製造側に過度な負担を強いたり、フェザージャケットなんていう珍妙な物を作ることはブランドにとって何の利益も得られない。
 

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地方百貨店を再生したいなら「ファッション」を捨てよ
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n56ba091fab93
2016年に行ってお蔵入りした三越伊勢丹HDの大西洋・前社長のインタビューも一部に流用しています

 
テレビドラマとはちょっと違う展開の「下町ロケットゴースト」「下町ロケットヤタガラス」の原作小説をどうぞ

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