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南充浩 オフィシャルブログ

産地製造業はアーティストを志向するな!

2011年11月15日 未分類 0

 生地産地が生き残る道として「今までの下請け体質から脱却すること」がよく挙げられる。
これにはまったく異論がない。その一例として山形の佐藤繊維が話題に上る。
そして、産地のオジサマ方も佐藤繊維さんのお話を、セミナーや講演会という形を採って聞くことを希望される。

もちろん、佐藤繊維さんのお話を伺うことは、非常に有意義だし、参考になる部分もある程度は含まれているだろう。しかしである。今の産地製造業のオジサマ方が、佐藤繊維さんのようになることは可能なのかと問われると、99%無理だと思う。

山形で下請け型のニット工場を営んでいた佐藤繊維だが、今の社長に代替わりしてから企画提案型の高額・高付加価値企業へと脱皮を図った。一朝一夕ではないが、その開発した素材は欧米の高級ブランドからも高い評価を受け、オバマ大統領のミッシェル夫人が着用したドレスにも採用されたことで、さらに知名度が高まった。
欧米ブランドへ売り込んだ手法、広報プレスの手法など繊維製造業にとって見習うべき点は多い。

佐藤繊維の開発素材は、デイリーユースではなく、工業製品でもなく「ファイバーアート(繊維芸術)作品」の域にまで高められている。こういう姿勢を、今の繊維製造業のオジサマ方が見習うべきなのだろうか?と疑問を抱く。
わかりやすく直接的な言い方をすれば「見習うべきではない」と考えている。

デザイナーやアレンジャーには、勉強すればなれるが、アーティスト(芸術家)には勉強してもなれない。
ファイバーアートのような超高額・超高付加価値素材を、産地のオジサマ方がこれから死ぬまでに何種類開発できるだろうか?せいぜい1つか2つであろう。
オジサマ方でなくとも、次世代の若社長でもけっこうなのだが、アーティストになれるような人間が業界にそうそう転がっているはずがない。これは何も繊維製造業に限ったことではない。

余談だが、ここで言うアーティストは本来の意味での芸術家のことであって、ミュージシャンのことではない。
近年、ミュージシャンや歌手を何故か「アーティスト」と称するバカな風潮がまかり通っており、本来の意味が分かりにくい場面が増えている。

閑話休題

繊維製造業に必要な開発力とはファイバーアートを開発する力ではないと考えている。
もちろん海外の低価格素材に対抗するためには、ある程度までの「高価格・高付加価値素材」でなければならない。そのための物作りのヒントは佐藤繊維にあるのではなく、純国産でデイリーユースな素材開発を続けているカイハラやクロキなどの企業に求めるべきではないだろうか。
製品で考えればタビオや鎌倉シャツなどではないだろうか。

しかし、意外に産地のオジサマ方は、カイハラやクロキ、タビオなどの話を聞くより、佐藤繊維の話を聞くことを好まれる方が多いように感じる。おそらく、カイハラやクロキなどの企業は「自分たちと同類」と思われているのであり、佐藤繊維を「異分野」と感じているのではないだろうか。
人間だれしもきらびやかな方に、ついつい目が向いてしまうが、今こそ、地に足を付けて取り組まねばならないのではないだろうか。
いつまでも「隣の芝生の青さ」を羨ましがっていても仕方がない。

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