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南充浩 オフィシャルブログ

Eコマースはアパレルブランドの起死回生の切り札ではない

2018年6月4日 ネット通販 0

製造加工業者にかかわらず、小規模個店などでもいまだに「インターネット通販への過剰信仰」が見られる。
先日、アパレルメーカーの社長と雑談したところ、取引のある縫製工場の社長が「インターネット通販を開始すればすぐさま売れると勘違いして困っている」という話があった。
最近は、工場がブランドを立ち上げることも流行しているが、実店舗・ネットを問わず売れるブランドは一握りで、その他大勢のブランドは知ってもらうことさえできずにいるのが現状である。
また、最近では新しい販路としてクラウドファンディングが注目されている。
オールユアーズのようなクラウドファンディング強者も現れ、付き合いのあるナインオクロックも連戦連勝ではないが、クラウドファンディングには比較的強い方だといえる。
こういう動きを見て、無責任に「クラウドファンディングしたらええねん」と勧めるコンサル?みたいな人も多くいる。
しかし、冷静になってマクアケでもキャンプファイヤーでも覗いてみればいい。
衣料品類、繊維製品のクラウドファンディングは山のように掲載されているが、達成しているブランドの方が数少ない。
その多くは未達で終わっている。
ネットでの情報発信をしていないブランドがいきなりクラウドファンディングしても成功率は低い。
ネット通販とて同じである。
集客できなければ、1円も売れない。
アパレル業界・繊維業界は本当にこういう「売れるツールに乗っかる」ことが大好きである。
それで今まで売れてきたから仕方がない。
高度経済成長期からバブル期にかけては百貨店に出店していればそれなりに売れた。
DCブームのころはそれに乗っかって類似ブランドを立ち上げればそのおこぼれに預かれた。
90年代後半からは郊外型ショッピングセンターに乗っかって出店していればそれなりに売れた。
メディア戦略なんてまるで理解していなくてもファッション雑誌の言うことに乗っかって広告とタイアップ記事を掲載していればそれなりに反応はあった。
しかし、ネット通販もクラウドファンディングもそうではない。
単にサイトを構築・公開しただけでは集客はできないし、物は売れない。支持もされない。
そこを理解していない人は業界には多いし、それを煽る無責任なコンサルタントやウェブ業者も数多くいる。
また、知識がないくせにそれを煽る無責任な同業他社も多い。
ネット通販を救世主かのように持ち上げるコンサルタントやメディア関係者も多いが、実際のところ集客するのに一苦労だし、集客できたところで売上高を拡大するためには、値引き販売が常態化しているのが現実である。
このところ仲良くしていただいているコンサルタントの河合拓さんがこんなブログを上げておられる。
https://ameblo.jp/takukawai/entry-12380916640.html
日経新聞の「アマゾンの風圧、日本株にも 百貨店2~4割安」という記事を受けてのことだが、Amazonだけでなく、ZOZOTOWNだってYahoo!ショッピングだって楽天だって有名な通販サイトはすべからく安売りで集客しているのである。
自身の著書である「ブランドで競争する技術」(ダイヤモンド社)から引用して

第七章 コンサルタントに踊らされた人々
 「私自身が実際に経験した話を紹介しよう。(中略)そこで、幾人かのeコマースの「コンサルタント」と会い、彼らの提案をきいた。彼らの提案の中で私が最も驚いたのは、「eコマース」と「リアル店舗」は食い合いをしない、という話だった。(中略)彼らは、一つのデータを提示し、eコマースに参入しても、リアル店舗の売り上げは落ちない、ということをあらゆる角度から説明し始める。そこで、彼らは「一刻も早くサイトを立ち上げなさいと経営者を焚きつける」

とある。
別に今となってはコンサルだけではなく、無責任な同業他社も数多い。
そして、以下が引用のキモだと思う。


「しかし、よく考えてみれば、日本でビジネスをしている以上、まったく新しい消費者が増えるようなことはなく、消費全体のの数はむしろ減っており、一人あたりの支出も減っている。新しい消費が増えるなどということはない(中略)それでは、食い合わない理由はどこにあるのか。それは、日本のブランドの二つの特徴が関係している。一つは、日本のブランドの多くは、ブランドとして確立していないため、特定の顧客を囲い込むほどのパワーをもっておらず、多くのファッション・ブランドは消費者からみればコモディティ化していること。もう一つは旧態化したチャネルから新しいチャネルに消費者が購買を移行しているということだ。(中略)したがって、勝っているブランドは食い合いを逃れ、逆に負けているブランドから消費を奪う。(中略)こうした構造を分析もせず、「リアル店舗に影響をあたえませんから」といって、負けているブランドの起死回生の一発として、eコマースを耳元でささやくコンサルの提案がいかに危険かおわかりだろうか」

とある。
要するに、日本のブランドの多く(百貨店とかファッションビルに出店しているブランド全部)は「ブランド」として強固ではないから、コモディティ化しやすい。その結果、低価格ブランドと比較されて購買されない。
また、これらのブランドの多くが「ネット通販はまったく新しい消費者を連れてくる」と勘違いしているが、実際のところは消費者の数は変わらないからこれまで店舗で買っていた人や他社のブランドを買っていた人がネットにやってくるだけである。
アパレル小売の市場規模は変わらず、どこで買うかという買い先が変化しているだけに過ぎないということである。
ネット通販はリアル店舗に確実に影響を与える。
同じ物がネットで安く売られていれば誰だってネットで買う。
ZOZOTOWNで割引クーポンが配布されていれば誰だってそれを使って安く買う。
だからZOZOTOWNに出店しているブランドの客単価は前年比20%減で落ち続けているのである。
これらのことを理解した上で、ネット通販に乗り出すならそれはそれで構わないが、これを理解せずに「地上の楽園」を夢見てネット通販に参入するのは完全なる愚か者である。
河合さんのブログには「この本の内容は古いと批判されることもある」と書かれているが、これは具体的な手段を論じているのではなく、ネット通販の根本的な構造を論じているわけだから古いも新しいもない。根本的な構造を理解せずに表層の上下動だけで判断を下す輩がいかにアパレル業界・繊維業界に多いかということの証明である。

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ジーンズの洗い加工はレーザー光線で行う時代
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/na09a16d24294
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昨年9月下旬にブログの仕様を変えて、更新通知が届かなくなった方がおられると思いますので、お手数ですが、新たにRSS登録をお願いします

引用された河合さんの著書はこれね。

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