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南充浩 オフィシャルブログ

メンズスーツも画像データ転送で製造依頼する時代に

2011年8月26日 未分類 0

 今は亡き、児島の大手洗い加工場、共和に取材でお邪魔したことがある。
共和は2009年に営業を停止して廃業となった。

今から思えば、共和は悲運の洗い加工場である。
もともと、メインとしていたラングラージャパンがヴイエフジャパンとなり、さらにそのヴイエフジャパンも解散し、「ラングラー」ブランドもエドウイン商事の子会社のリージャパンに吸収された。
さらに、もう一本の柱であった帝人ワオも親会社によって解散となっており、大口のメイン顧客を2社とも失った。

さて、もう数年前になるが、共和を最後に取材したときのこと。
大口顧客を失った状態で、共和は東京のSPAブランドやセレクトショップのPBなどの洗い加工を手掛けるようになっていた。
共和の福岡社長に見せていただいたのだが、明らかに他社ブランドの店頭商品を写真に写して、画像データをメール添付して送りつけるブランドがあった。
東京の某SPAブランドである。
そのメールには一言「こんな感じでジーンズに洗い加工を施してください」と。

これほど楽で頭を使わない業務もない。
他社ブランドの店頭で気に入った商品を写真に写して、そのままメール転送して「同じように仕上げてくれ」と頼むだけである。

今ではこんな発注のやり方は業界でスタンダードとなっている。
企画担当者はデザイン画を描くこともないし、パターンを考えることもない。指示書すら書く必要がない。

レディースブランドも一般カジュアルもそんな時代である。

先日、ある展示会で「メンズのテイラードスーツも同じですよ」という話を聞いた。
他社ブランドのスーツを写真に撮影し、それをメールにデータ添付して工場に送るらしい。

これにはさすがに驚いた。

メンズのスーツは、微妙なミリ単位の差がブランドやショップの味である。
もともとメンズスーツは、ほぼデザインが固定化されている。それをブランドやショップの持ち味として、
ウエストを何ミリ単位で広くしたり狭めたり、パンツの太さをミリ単位で太くしたり狭くしたりするものである。
他社のスーツを写真撮影し、「これと同じで」という発注で済むならこれほど楽な作業はない。

そこまで手抜きがしたいのなら、メンズのスーツは業界全体で統一パターンを採用すれば良いのである。
どうせデザイン的には変わり映えのしない商品である。
全社統一パターンで製造すれば縫製工場も助かる。

オンワードグループのオフィスユニフォームもミッシェルクランもポールスミスも同じパターンを使えば良い。

こだわりを楽しむはずのメンズスーツまでが、画像データ添付の発注に代わるとは実に嘆かわしい。
これ見よがしにスーツの蘊蓄を語るオッサンもうっとおしい存在だが、他社ブランドの撮影だけでパターンも引かず、指示書も書かないお手軽発注スーツなど、オフィスユニフォームよりも劣る。

日本のアパレル企業の物作り精神は本当に死に絶えてしまったようだ。
今、店頭に並んでいる商品は死骸であり、残骸である。

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