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南充浩 オフィシャルブログ

アパレルブランドの広告が失敗する理由

2018年2月19日 メディア 0

アパレルブランドにとって広告は必要不可欠なもので、ブランド側はもう何十年も出稿し続けているわけだから、本来はすごく広告に詳しいはずである。
しかし、業界紙、編集プロダクションで勤務した経験上でいうと、そういうブランドはほんの一握りしかない。
多くのブランドは、惰性とお付き合いと「何となく」で出稿している。
そしてそれらは広告代理店にお任せである。
例外的な少数を除くと、アパレルブランドの広告担当者のお仕事というのは広告代理店と親しくすることが8割くらいを占めている。
各ブランドにはそれぞれお抱えに近いような代理店が存在する。
1社の場合もあれば、それが複数の場合もある。
要はそれら「お抱え」と親しく付き合って、リサーチからプランからすべてお抱えに丸投げし、出てきたものに対して判断を下すだけであり、その判断自体も担当者の好き嫌いやその上司の好き嫌い程度しか基準がない。
広告担当者か上司(社長である場合も多い)が「これ、ええやん」といえば、それで終わりなのである。
その「ええやん」の基準は好き嫌いだ。
だからアパレルブランドの広告は成功しにくい。
いくつか失敗例を提示する。
当方が広告に携わったのは雑誌媒体なのでそれがメインになる。
以前、某中堅ジーンズメーカーに雑誌「Begin」の広告を相談されたことがある。
このジーンズメーカーに限らず、アパレルブランドの勘違いは、そこそこ人気のあるファッション雑誌に1度広告を掲載すれば、売上が即座に増える・回復すると思っている点である。
で、相談をされたのでこれまた、ファッション雑誌広告に強い某中堅代理店を紹介した。
ジーンズメーカーの予算は年間1000万円、代理店はこの予算で、Beginの年4回掲載を獲得してきたと記憶している。
単なる純広告(綺麗なイメージ写真とブランド名だけの広告)ではなく、タイアップ記事広告だったので、1回あたり200万円以上した。
通常、雑誌では純広告よりもタイアップ記事広告の方が高額になる。
これで決まるかと思った矢先に、メーカーが「以前から懇意にしている地域密着の小規模代理店から出稿したい」と言い出した。
これは本来は厳禁な行為である。
なぜなら、その料金プランはその中堅代理店が掛け合って実現したもので、お抱え代理店が作ったプランではない。
お抱え代理店が本来すべきことは、己らも掛け合って独自のお得感のある料金プランを作成することである。
しかし、お抱え代理店の甘えとそれを許したメーカーの不見識が相まって、結局はそのプランをお抱え代理店からやることになった。
こうなると、次からはその中堅代理店はメーカーには協力しなくなる。当たり前だ。先に不義理をしたのはメーカー側である。
結果からいうとこの広告はさほど効果がなかった。
年4回というのは無名ブランドにとっては掲載回数が少なすぎるし、Beginという雑誌がそれほどの「大部数」を抱えているわけでもないからだ。モノに対する記事や写真での見せ方に定評のある雑誌ではあるが、読者数はそれほど多くないし、読者層とブランドの相性も考慮しなくてはならない。
これはBeginに限らずどのファッション雑誌でも同じだ。
読者数の多寡も重要だが、読者層との相性がさらに重要となり、どんなに大部数のある雑誌でも読者層との相性が悪ければ、まったく反応はない。
ブランドの広告担当者はそこをよく考え、リサーチを自身でし、判断しなくてはならないが、それができている広告担当者は知っている範囲でいえば見たことがない。
結局はこのタイアップを1年か2年でメーカーはやめてしまった。効果もさることながら1000万円の広告費が捻出できなくなったからだ。できなくなったというのは表向きの理由でもしかすると、もったいないと感じたのかもしれない。
これはもっとも非効率的なカネの使い方である。
無名のブランドが年4回ちょろっと広告を掲載したところですぐさま認知度が上がるわけでもない。
もっと回数を多く、長期間にわたって掲載しないと実はファッション雑誌広告には意味がない。
年6回以上で、3年~5年間の広告掲載は必要だろうと思う。
1年や2年でやめてしまえば、その広告費は無駄になる。
このメーカーでいえば、2000万円をドブに捨てたようなものである。
これで従業員を雇うとか、従業員のボーナスを増やすとか、従業員と豪勢な食事を楽しむとか、に使った方がずっと社内の士気が上がる。
こういう失敗をするブランドは本当に珍しくない。アパレルブランドのありふれた日常風景である。
じゃあ、中小代理店を使わずに大手代理店を使えば成功するんじゃないかと考えるのが、アパレルブランドの浅はかさである。
また別のジーンズメーカーが20年くらい前まで10年間、電通を使っていた。
このメーカーはかつて「大手」と呼ばれており、ピーク時の年商は130億円くらいあった。
結果的にいえば、このメーカーの売上高は現在はピーク時の6分の1以下にまで低下している。
完全なる「ドブ金」だったといえる。
年間予算は毎年5000万円~1億円だったと聞いている。
これだけ多額の予算を払えばさぞかし効果があると、アパレル業界では考えるが、結果はまったく逆だ。
それがこのメーカーの凋落が証拠といえる。
アパレル業界からすれば広告宣伝費5000万~1億円というのは多額だが、電通からすれば鼻くそである。
だから電通はこの程度の予算では身を入れて仕事をしない。
例えば、当方とは比べ物にならないほど著名人で広告業界ともかかわりの深い永江一石さんもご自身のブログでこう述べられている。
東京都の豊洲市場における、スーパーお馬鹿なインフルエンサーマーケティングが草ボウボウ
https://www.landerblue.co.jp/blog/?p=37864

電通で5000万というのは鼻くそですので、わたしの推測ではPR会社に丸投げしたものと思います。

とのことで、年間5000万円程度の予算では電通にとっては「どうでも良い」依頼なのである。
文中で述べられている事例は、大手広告代理店ならやらかしそうなウェブマーケティングでの失敗例といえる。
アパレルも行政も理解していないのは、広告代理店には各社それぞれ得意分野と不得意分野があるということで、電通でいうならファッション雑誌やらウェブは苦手で、芸能人のブッキングやビッグイベントやテレビCMは得意なのである。
分野によって代理店を使い分けるのが得策で、大手に少ない金額で丸投げするのが最愚策といえる。
かつての大手ジーンズメーカーも東京都もその最愚策を採用している。
5000万円はまさしく「ドブ金」だ。
かつての大手ジーンズメーカーなんて総額10億円以上を使って、売上高を6分の1以下にまで低下させたのだから愚の骨頂としか言いようがない。
まあ、付け加えておくと、今現在も電通とか博報堂を何十年間も使い続けているのに、中高年以外の層にはまったく知名度が上がらない大手肌着メーカーというのもある。知名度が上がらないどころか、知名度は下がっているのではないかと思う。
これも現在進行形の「ドブ金」の一つの代表事例といえる。
アパレル業界が広告で成功したいのなら、
1、広告というのは多額のカネが必要と強く認識する(節約のために年1回の掲載なんて効果なし)
2、広告代理店にはそれぞれ得手不得手があり、それを見極めて事案ごとに代理店を使い分ける
3、大手に少額のカネで頼めば、必ず手抜きされる

これを徹底的に頭に叩き込まないと、アパレル業界の「ドブ金」事例がさらに積み上がることは間違いない。

NOTEを更新~♪
プライベートブランド「ZOZO」の生産システムは、現時点では「完全オーダーメイド」ではない
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/nc6e9da2bffeb
あと、インスタグラムもやってま~す♪
https://www.instagram.com/minamimitsuhiro
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